上 下
47 / 392

スタンピード編 17

しおりを挟む


 そんなのやだ!! 

 両手で防いでいた筈の手は黒い炎に向けて伸ばして、覚えたばかりの魔法を再び唱えた。

魔法無力化アンチマジックディスペル!』

 熱気で空気が歪むような空間の歪みが起きて、目の前で爆発した炎は跡形もなく消えた。

 身体から魔力がごっそり抜けた感覚がわかる。
 力が抜き取られるようなそんな脱力するような感覚だった。
 たぶん無力化する相手の魔法が強すぎるせいなのか、その分余計に魔力の消費量が大きくなるみたい。
 着地と同時に膝を地についてしまう。
 
 正直…魔力がそろそろマズいと思う。

 ステータスが見れないから断言できないけど、感覚的に魔法が発現してからかなりの魔力を使った。
 頭が少しずつ痛み出している。
 魔力枯渇状態になったことはないけど、エルナト先生から教えもらった症状に似たものが身体に出始めている。

<ニンゲン…キケン…コロス……>
 
 オークロードがまた地を這うようなおぞましい言葉をこっちに向けてる。
 さっきの一撃で庭園の地面に刺さった大剣を抜くと、殺気全開でしゃがんでる私に突進してくる。

「グオォォォオオオ!!」

 凄まじい雄叫びと共に突っ込んでくるオークロード。

 呼吸を大きく吸ってゆっくりと吐き出して、立ち上がってから背中にある剣の柄を手に取って剣を収めた。

 勝負は一瞬で決まる。

 横で剣を構え目を閉じて視覚じゃなく、五感で感じるよう全ての神経を張り巡らせる。
 左足を踏み込み、柄を持つ手に力を込める。
 迫りくる足音、空気の振動、相手の息遣い、全てに集中し一気に剣を引き抜いた!

 シュンッッ!!

 互いに交差して、反対方向で静止する。

 一瞬時間が止まったように一切の音が消えた。

 引き抜いた剣を柄に戻すと、反対側でオークロードの首が飛ぶ。

 ブシャァァッッ!と切り口から血が飛び散って、止まっていた巨体が地面に音を立て倒れた。

 そこでようやく息を吸い込んだ。
 汗がどっと溢れ出して、心臓がバクバクと脈打ちながら今にも倒れてしまいそう。
 剣を地面に刺して、支え替わりにしてどうにかやり過ごした。

 あと…一匹……。
 魔力もだけど、体力的にももう限界だ。

 残っていた回復薬はほとんどあげてしまったから、どうすることもできない。
 
 オークロードが倒れた事で、信じられない表情をしてるゴブリンキングに焦りが見えはじめてる。

 離れた場所で錫杖を構えてるけど、ゴブリンキングは魔法系が得意な反面、物理攻撃はそれほどではないのが特徴。

 ここは畳み掛けよう!
 一度大きく深呼吸をして、気合を入れ直した。
 剣を再び握って、錫杖を構えていたゴブリンキングの懐へと一蹴りで移動した。

 臆したゴブリンキングを怒涛の勢いで攻撃する。

『インフェルノ!』

 突然ゴブリンキングの背中に火属性の最上級魔法が放たれた。

「ギィアア!!」

 背後から攻撃されて、まともに喰らってダメージを受けてる。
 見るとポルックス公爵が何とか立ち上がってボロボロになりながらも、手をかざして援護してくれてる。

「誰かは知らんが、頼む…倒してくれ!!」
 
 攻撃のおかげで相手に隙ができて、風魔法を使いトップスピードで地面を蹴って錫杖を持っていた腕を切り落とした。

「ガァグアア!!」

 腕から青い血が吹き出す。

 腕を押さえ悶え苦しむゴブリンキングに今度は反対側から風属性最上級攻撃魔法が襲う。

『エアロエッジ!』

 鎌鼬かまいたちのような、目に見えない鋭い真空の風がゴブリンキングの残った腕を切り落とした。

「シリウス…やるでござる!最後は、任せたでござるっ!!」

 うつ伏せて倒れてたベガはその状態のまま腕だけ伸ばして、口から血を流しながら風魔法を唱えて必死に叫んでる。

 みんな、ありがとう…。
 
 この絶望的な状況の中でも、信じて託された気持ちがすごく嬉しくて…込み上げてくる想いを必死に押し込めて、攻撃手段を失ったゴブリンキングに最後の一撃をお見舞いする。
 
 ドスッッッ!!

 魔物の核と呼ばれる心臓に近い部分は胸の右側にある。
 その部分を剣で一突きして核ごと貫いた。

「ガアァッ!!」

 核を破壊されたゴブリンキングは石化していき、砂となった足の部分からサラサラと崩れ落ちていく。
 
<…アルジ…ヨ……スマ………>

 ゴブリンキングは最後まで言葉を紡げないまま、砂になって消えていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

ヤンチャな御曹司の恋愛事情

星野しずく
恋愛
桑原商事の次期社長である桑原俊介は元教育係で現在は秘書である佐竹優子と他人には言えない関係を続けていた。そんな未来のない関係を断ち切ろうとする優子だが、俊介は優子のことをどうしても諦められない。そんな折、優子のことを忘れられない元カレ伊波が海外から帰国する。禁断の恋の行方は果たして・・・。俊介は「好きな気持ちが止まらない」で岩崎和馬の同僚として登場。スピンオフのはずが、俊介のお話の方が長くなってしまいそうです。最後までお付き合いいただければ幸いです。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

死にかけて全部思い出しました!!

家具付
恋愛
本編完結しました。時折気が向いたら外伝が現れます。 森の中で怪物に襲われたその時、あたし……バーティミウスは思い出した。自分の前世を。そして気づいた。この世界が、前世で最後にプレイした乙女ゲームの世界だという事に。 自分はどうやらその乙女ゲームの中で一番嫌われ役の、主人公の双子の妹だ。それも王道ルートをたどっている現在、自分がこのまま怪物に殺されてしまうのだ。そんなのは絶対に嫌だ、まだ生きていたい。敵わない怪物に啖呵を切ったその時、救いの手は差し伸べられた。でも彼は、髭のおっさん、イケメンな乙女ゲームの攻略対象じゃなかった……。 王道ルート……つまりトゥルーエンドを捻じ曲げてしまった、死ぬはずだった少女の奮闘記、幕開け! ……たぶん。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

処理中です...