上 下
44 / 392

スタンピード編 14

しおりを挟む


「ぬぅぅっ!どうにかならんのかっ!彼奴らを倒すしかない方法はないのか!?」

 火を消そうとマントを脱いで必死に足掻いている殿下。意味はないとわかってても何かせずにはいられないんだろうね。
 マントを隅に投げると帯剣していた鞘から剣を抜いて、勢いのまま真っ直ぐゴブリンキングに向かって疾走してる。

『メテオ!』
 
 殿下が唱えたのは、皇族のみが使える火属性の上級特殊魔法メテオ。
 ゲームでも出てたけど、実際はもっと凄い迫力。

 すごい!隕石みたいな火の塊が空から何個も落ちてくる!

 キングとロードに無数の炎の隕石がぶつかってる。
 ベガはすぐ気づいたのか双剣を握ったままその場から離れてる。

 このまま高度な戦闘を見ていたいけど、あっちも見捨てることは出来ないよね。

 死闘が繰り広げられている場所を尻目に、木の上から飛び降りて離れた場所にいる騎士達の元へと向かった。
 一人はもう壁際で事切れてて…、黒い炎に包まれた二人はもう喋ることすらできない状態の騎士達。

 近づいて近くで見ると皮膚が焼け爛れて、もう今にも命が潰えてしまいそうだった。

 ……っ……急がなきゃ!

 私は二人に向かい手を翳してさっきの感覚を思い出した。
 魔力を身体の中で練りながら一気に放出する。

 私が魔法を唱えると、歪んだ空気の層が二人を覆う。
 黒く揺らめいていた炎が跡形もなく消えた。

 よしっ!

 そして最後に残ってるハイポーションを二人に振りかけた。
 ポーションはさっきの冒険者達に使っちゃったから、これが持ってる最後の回復薬。
 自分用に取って置きたかったけど、目の前で人が亡くなるのはもう見たくない…。

 ピンク色の液体を二人に降りかかけて、焼け爛れた皮膚の半分以上が再生して呼吸もスムーズに出来るようになっていた。
 二人が持っていた魔法を半減させるアイテムが近くで壊れてたから、この腕輪のおかげで何とか生き延びてたんだろうね。

「う……、うう……、誰だ……」
「はぁ…ハァ……ぃ…き…、…てる……」

 固いレンガの場所じゃなくて、なるべく柔らかい土の部分へと二人を寝かせた。
 意識が朦朧としてるのか目が虚ろで見えていない様子。命の危険は免れたけど、まだ予断を許さない状況に変わりないね。

「誰か…知らんが………うぅっ、た、すか……」
「で…んか……は…、ぐぁ……ご…ぶじ……か…」

 こんな時まで主君を心配する姿には心底尊敬に値するよ。
 冒険者の中にはスタンピードに恐れをなして、混乱に乗じて逃げ出す奴もいるくらいなのに。 

 今文字を書いても読めないよね。
 とりあえずコクリと頷いた。
 言うまでもなくあっちはまだまだ戦闘中。
 でもこの人たちにできる事は何もないから。
 
「ギャギャッ」
「ギギギーー!」
 
 まだ城の中にいたのか、ゴブリンとオークが飛びかかって襲ってきた。
 立ち上がりながら剣を取って、前足を踏み込んで蹴り出すと残党を一瞬で真っ二つに切り落とした。
 ボタボタボタッと円を描くように魔物の胴体が落ちていく。
 騎士達を見ると気を失ったように寝てた。
 顔色は悪いけど命の危機は免れたのかな?

 もう周辺には魔物の気配はなさそう。
 一旦そこから離れって。
 再び地面を蹴り、反対側の空に向かい跳躍した。
 

 双剣を両手で操ってゴブリンキングと互角に戦ってたベガに、背後からオークロードが両腕で力を込め大剣を振りかざしてる。
 片方の剣で咄嗟に受け止めるけど力が足らず邸宅の白い壁に激しく打ちつけられた。

「がはぁっ!!」

 メリメリと打ちつけられた壁は周りにヒビが入ってベガは衝撃で血を吐き出した。
 そのまま力なく地面に落ちて、うつ伏せたままガクリと意識を失ってる。

「くっ……ベガよ……」

 ポルックス公爵は苦渋の表情を見せてる。

 ついにポルックス公爵が最後の一人になってしまった。
 まだまだ余力を残してる魔物達と人類側の兵力差が歴然となった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

幸せなのでお構いなく!

恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。 初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。 ※なろうさんにも公開中

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...