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スタンピード編 12

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 エルナト先生やったよ!私、自分の魔法を発現できた!!

 しかも嬉しいことに【居合斬り】まで覚えられた。
 仮面の下でギュッと目をつむって天を仰いだ。
 
「大丈夫…か?シリウス……」
「貴方には、何とお礼を言っていいのか……命の恩人よ」
「恩にきるぜっ!」
 
 魔法を発現出来た感激に浸ってた私に3人は口々に礼を言ってる。

 花々がめちゃくちゃに荒らされた花壇に座り込んでたのに、敵が動かない事を確認して私の元へと駆け寄ってくる。

 私は呪われた身体だと公言してるから、触れてくるような事はしないけど、表情から本当に感謝しているのが伝わってくる。
 剣を支えにしながら落ち着きを取り戻した私は、剣を鞘に収めて何事もなかったように振る舞う。
 
「この先に向かうのか?」

 一人の戦士に問いかけられた。

 その問いにポルックス公爵邸を見上げる。

 今更だけど耳を澄まさなくても城の中から激しい戦闘音が聞こえてる。
 公爵邸は6階建てのお城の造りになってて、上部の窓や壁の所々から噴煙や瓦礫が崩れる音がしてる。

 まだ人々が戦ってる様子が伺える。
 恐らく中には、皇嗣殿下であるポルックス公爵もいる。

 ポルックス公爵も帝国有数の火魔法の使い手。
 火属性は四大元素の中でも上位の攻撃力を有しているし、更に皇族には皇族にしか使えない特別な魔法が存在すると授業で習った。


 視線を再び横へと戻す。

 助かった三人はお互いを小突き合いながら生存を喜び合ってる。
 まだ喜ぶのは早いと思うけど。
 この先にはゴブリンキング、オークロードの最上位種2体がいるし。


 あ、そういえば…。

 ふと思い出した私はサラリと紙に書き3人の冒険者に見せた。
 A級以上の冒険者はだいたい字が読めるのでこういう時は助かる。

『ユーリ』

 感動に浸っているところ悪いけど、聞いてみないことにはこっちも何となくスッキリしないし。
 
「ん…なんだ?ユー…リ?」
「え?何?どうして私の名前知ってんの??」

 紙を読むため近づいてきた3人。今更ながら自己紹介を始める。

「俺がバスクで、こっちのデカいのがサジル、でコイツがユーリってんだけど…」

 
 3人は顔を見合わせてる。
 A級以上は数が少ないのに、この3人とは全く面識がない。 
 バスクは金髪碧眼の剣士、サジルは確かに全体的に体格が良い戦士、そして紅一点のユーリは赤毛の魔法使いで中々の美人さん。
 戦いに必死でゆっくりと見てる余裕なんてなかったよ。

 紙にサラサラと先ほどの男に頼まれた。と書いて見せるとユーリって呼ばれた魔法使いが心底嫌そうな顔で絶叫した。

「イヤァァーー!!ソイツと私は全く何の関係もないからぁ!!恋人でもなければ妊娠なんてっ!!…………今からシめてくるわ…」

 頭を掻き毟るほどイヤなのか、途中で表情が無くなって殺気全開で入口へと歩いて行く。

「おいっ、待てよ!サジル、止めろ!!冒険者同士の殺人はご法度だぞ!!」

 サジルと呼ばれたガタイのいい男が走って止めに行くけど、彼女には全く聞こえてないようだった。

「すまない、シリウス!ユーリはそいつにずっと付きまとわれてて…とにかく、こっちで何とかしとくっ!!」

 バスクという青年も慌てて追いかけるように居なくなってしまった。 
 なるほど、ストーカーだったのか。そりゃおねえさんも怒るよね。

 呆れながら3人を見送った。

 さて、ギルドに戻ろうかな。あとは事の顛末を見守るだけ。

 タウリとの約束だから。
 いくら私が強くなっても、絶対に実力以上の者と戦わない。

 ゴブリンジェネラルと戦った時点で破ってる気もするけど、魔法も発現出来たしレベルアップもしたから許してもらおう。
 でもさすがにこれ以上の深入りは危険だよね。
 ここにはポルックス公爵殿下も、帝国に5人しかいないS級以上の冒険者もたぶん招集されているはず。

 エルナト先生はやっぱりいなさそうだな……違う場所で発現しちゃったのかな。
 全然違うこと考えて戻ろうかと足を入り口へと向けた。

(──?!)

 突然、城上部の建物が崩落して、中にいた人間とモンスターが次々と落ちてきた。


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