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冒険者へ

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 ──エウロパ伯爵邸から戻った後、私はいよいよ家を出る準備を始めた。
 
 

 今の目標は13歳になった時に冒険者登録して、レベルを上げながらそれなりに知名度も上げていくこと。
 ここでは12歳にならないと冒険者登録ができないんだけど、そもそも私はんだ。
 でもエルナト先生とタウリが規定を守らないと駄目だって止められた。だからこの年まで待つことになったんだ。
 冒険者にならないとダンジョンに潜れないし、私が必要としているロストアイテムを入手する事が出来ないからね。
 登録だけなら誰でもできるけど、冒険者としての地位を獲得することは簡単じゃないから。
 とりあえず少しはランク上げて名前くらいは通しておかないと、何かあった時に参加出来ないからね。




 ◇




 今日はエルナト先生、タウリと一緒に領地内の低級モンスターが出現する場所まで来てる!

 鬱蒼とした森の中。
 魔物の気配を肌で感じて、向かってくるものに剣を構える。
 
「タウリそっちにも行ったよー!」
「お嬢っ!お任せを!」

 エルナト先生が風魔法で一角ウサギを追い詰めてから、私が細身のレイピアで斬りつける。
 取り逃しはタウリに加勢してもらって、またまた最終的に私が始末する手順。
 木の間から出てくる一角ウサギを3匹くらい倒した。
 
「ふぅ…だいぶ慣れてきたかな」
 
 額の汗を腕で拭って息を吐いた。
 まだまだ余裕なんだけど、私は生き物の命を奪うっていう行為にどうしても慣れなかったんだ。
 少し離れた木陰からタウリも顔を出してる。

「見事ですな、お嬢。迷いがなくなってきましたな」
「うん。もう平気!」

 初めて手にかけたのがスライムだったんだけど、プニョプニョの固形物がベチャーと広がるのを見て、かなりショックだった。
 ゲームだと〈敵を倒しました〉のテロップで勝手にモンスターが消えて終わりだったのに、実際は全然違う。
 わかってたことなのに、現実はもっとずっと残酷だった。

 それからはタウリの勧めでひたすらスライムを倒した。タウリ曰く、こういうのは慣れだと。
 その言葉通りに何十匹目かにはあまり感じるものはなくなってきた。これが慣れなのかと納得した。
 しかし今度は標的を変え、より動物に近い一角ウサギを狙った。これがまた駄目だった。よりグロテスクな生物の死にかなり挫折した。

 だけどエルナト先生は全く容赦なかった…。
 一角ウサギは低レベルだけど、駆除しなきゃ畑を荒らすし人も襲う。
 もし自分の大切な人が襲われて怪我をしても、まだ可哀想だと言えるのかと説教された。

 それから私は心を入れ変えた。

 生き物だから可哀想だとか考えずに、ただ敵として無心で戦うことに徹した。
 こんな所でくじけてたら私の計画は達成できないし、大切な人も守れないから! 
 
「休憩はまだです!次、行きますよ!」
   
 容赦ないエルナト先生は、モンスターをどんどん追い詰めて私に向かわせてくる。

 やっぱりこの人いい性格してるわ~。
 
「よっしゃ~どんと来いっ!!」

 スライムと違って一角ウサギは素材が採れる。
 段々とモンスターがお金に見えてきた。お金と経験値を両方稼げるなんて一挙両得。
 こんなにオイシイことはないよね。
 気持ち切り替えて頑張って稼ぐぞ~!今日はウサギ鍋だー!




 ◇



 ◇
 






 13歳が近づいて、私は自分の荷物をまとめてた。
 いよいよ冒険者登録するために家を出るから。
 
 もう住む場所も決まってるし、お金は使い切れないほどあるから生活の心配は全くしてない。
 実力もそこそこついてきたし、そこら辺の男なら簡単に倒せるくらいには強くなった。
 原理はよくわからないんだけど、私の能力の一つに身体強化に近い力を使える事がある日判明した。
 ビックリしたけど、自分のものとは思えない程のバカ力を意図的に発揮する事ができるってわかってから、実力がものすごく伸びたんだ。
 そのへんは未だに発現してないこの不思議な魔法にも関係してるのかな?

 自分の事だけど、なんでなのか全然わからないんだよね。

 アルファ商会もケイドに任せてるし、手紙での報告や新商品の事等は定期的にする予定だからね。
 
「お嬢様こちらはどうなさいますか?短いご旅行でも最低限ドレスを持って行かないと…」

 私のドレスを荷造りしている侍女のララ。
 ララには私が出ていくことを言ってない。というより知ってる人はあの食事の場にいた執事のバンスだけ。

 ここの人達を巻き込みたくないから…、何も知らない方がいい事もある。

 大荷物にしたくないし、結局必要なもの以外は馬車に置いていくつもり。
 森の中で行方不明になる予定だから、私が本当に持っていくものは今自分でまとめているこの手荷物だけ。
 お金、宝石、私の書いた前世のメモ、あと密かに手に入れたロストアイテムたち。

 さて、今日で我が家ともお別れだね。
 自分の部屋で座りながらいそいそと荷造りしてくれているララを見ると心が痛む。  

「ありがとう…ララ」
「春先でも冷えますからね。まだまだ油断は禁物ですよ」
「うん。…わかったよ」

 私に向かって厚めの羽織を広げながら、笑顔で説明してくれるララ。

 ララごめんね、またいつか…必ず戻ってくるから。


 
 ──この次の日、私は長年過ごした我が家を後にした。



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