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子供編 7

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 あれから急いで荷物をまとめエルナト先生は実家へ帰って行った。
 必ず探し出します!と力強い言葉をもらい、絶望と不安に駆られていた私の心を元気づけてくれたよ。
 あれだけ楽しみにして騒いでいた実技講習が残念な結果になり、落ち込んで戻ってきた私を父が必死になって慰めてくれてるんだけどさ。

「ミラっ、ま、まあ…残念だったけど父様や母様も魔法なんて使えないしなっ!あんなもの使え無くても、父様みたいに立派に生きていけるさ!」

 自分の部屋のベッドで布団を被り泣きながら不貞腐れてた私に、父はドヤーっとばかりに胸をバンッと叩き仁王立ちしてた。

「……」

 顔だけ出してその様子を見てた私は、無言でそっぽを向いた。

「ミ、ミラ…?おいっ…なんだ?今の、説得力あっただろっ!?」
 
 後ろに控えていた母に焦りながら同意を求めてるけど、母はふふふっ…と笑うだけで何も言わなかった。
 母と一緒に来てたミザルも、とことこ走りながらベッドまで寄ってきてくれる。
 
「ミラ、こっちへおいで…」
「ねーたま、だいじょうぶ?いたいいたいの~?」

 今度は母がベッドの端に座り、頭を撫でてくれる。
 私は素直に母の方へ体を寄せた。

「大丈夫よ、きっと上手くいくわ。心配しないで、流れに身を任せるのよ?」
「ねーたま、よしよし」
 
 母は囁くように言いながら、頭を撫で続けてくれてる。
 不思議……お母様が言うと、何でもその通りになる気がする。 

 ミザルも母の真似して被ってた布団を小さな手で撫でてた。
 嬉しくて泣きながら頷いた。
 お父様が不貞腐れて肩を落としてるのも気にしないで…泣き疲れた私はそのまま眠りについた。



 次の日。

 エルナト先生もいなくなったし、魔法も使えないし…皆に慰めてもらってもまだまだしょんぼりとしていた私。
 目の腫れも治まらなくて、横になりながらララが冷えた布巾を目に当てて心配してくれた。

「お嬢様、大丈夫ですか…?」
「…うん…ありがとう…ララ」

 明らかな空元気で、無理に笑顔も作ったけどララを余計に心配させたみたい。

 魔法が使えなきゃ魔法アカデミアに入れない。大好きなアルファルドにも会えないし、ミティストのメインキャラ達を見ることもできないよ。

 せっかくゲームの世界に転生したのに……。

 私の頭の中はそんな思いでいっぱいだったんだ。
 ララは温くなったタオルをまた水で絞り、再び目に当てる。

「私のような者がこんな事言うのはおこがましいですが、魔法が使えなくてもお嬢様はお嬢様です。ララは元気で優しいお嬢様が大好きです!」

 この時に…自分て馬鹿だなって思った。
 まだ子供だからか涙腺が弱くて、また涙が溢れてきた。

「お、お嬢様!?変なこと言って申し訳ありません…!」
「違う…うれしくて…私もララが大好きだよ」

 みんなを心配させてどうするんだよ。不純な気持ちで落ち込んだりしてごめんなさい。
 へへッと笑って笑顔を見せると、取り乱してたララもホッしたみたいに笑った。

「もう、大丈夫…ありがとう」
「お嬢様…」
 
 2人で笑顔になって笑いあった。


 さらに何日か経ち、ようやく気持ちの整理がついてきた私に、筆頭護衛騎士のタウリが意気揚々と剣術と武術を教えてくれた。

「ようやくわしに出番が回ってましたなっ!これで集中してお嬢に手ほどきできますぞ!」

 ガッハッハ~と豪快に笑うタウリは50を超えているけど、元冒険者で元傭兵という肩書を持っていて、どうしてこうなったのか今は筆頭護衛騎士として働いている。
 出世街道まっしぐらの元気なおっさんだ。  
 短い白髪を後ろでギュッと一本に縛り、背は高めでガタイはいい、昔の名残で腕や顔にも傷が沢山ある。
 山賊みたいな面構えで豪快なんだけど、根は嘘のように繊細で誠実な男なのだ。

「は、ハハッ……タウリ、お手柔らかにね…」

 このおっさんは普段繊細なのだが、戦闘や訓練になると見た目通りの熱血系に変身してしまう最悪な特性を持ってる。
 
「何をおっしゃるか!わしについて来れなければ、立派な騎士にはなれませんぞ!!」
「いやぁ……私、騎士は目指してないよ。てか、その荷物なに?」

 野営道具の入った袋を担ぎ、手には木刀をもっている。それを見てとてつもなくイヤな予感が走った。

「余計なお喋りはお終いですぞ!まずは領地一周っ!」
「ギャァァッッーーーー!」

 ちなみにうちの領地は山4つほどある。

 このおかげで私は数日間地獄を見る羽目に…。

 野営までしながら走りきった私は、ズタボロになりながら子爵家まで戻った。
 もちろんこのあと、タウリはうちの父にみっちりこってりしこたま怒られることになる。

 地獄の訓練が終わったあと、生きた屍となっている私に、タウリはひたすら謝ってる。

「お嬢ぉぉぉ!申し訳、申し訳ありませぬっ!!」

 過酷な訓練でまたまたベッドに横たわっている私に、タウリは床に這いつくばり土下座してる。
 いちいちうるさくてゆっくり寝れないな…。

「もういいよタウリ。とりあえず疲れたから寝かせて」
「ウウゥゥ…お嬢ぉ…うぐ…、申し訳ない……」

 良い年したおっさんが泣くなよ。
 床と一体化しようとしているタウリに、私はとりあえず慰めてあげる。

「タウリさぁ、私まだ8歳なの。わかる?まだまだおこちゃまなんだから、しっかりペース配分考えないとダメだよ」
「肝に銘じますぞ…旦那様にも同じ事を言われ、しっかり反省しておりますぞ」

 打たれ弱いタウリを見ていると、悪気があってしたことじゃないからとついつい許してちゃうんだよね。

「とりあえず少し休ませてね。筋肉痛が治ったらまたお願いね」

 私の一言にパアァァと顔を輝かせ、もの凄い勢いで立ち上がったタウリは、ベッドの横で最敬礼をしてる。

「お嬢ぉ!一生ついていきますぞぉぉ!!」
「ちょっと…チョロすぎだよ、タウリ」
「失礼しましたな!ゆっくり休んで下されっ」

 呆れた様子の私など構うふうでもなく、タウリはそのまま出ていってしまった。
 呆気に取られ暫らく扉を見つめてから、はあぁぁと長いため息をついた。
 しかし、8歳の子供のわりと私って体力っていうか、結構身体能力高いよね。
 普通の子供ならとっくに音を上げてるよ。
 タウリもいなくなってベッドで横になると疲れのせいかすぐ眠気が襲ってきた。
 近くにいたララが布団をかけ直してくれる。

「タウリ卿も反省しているようですし、今はぐっすりお休み下さい…」

 ララの声に頷いたあと、すぐ眠りについた。





 何日かしてようやく筋肉痛も治り、タウリも良い意味で毒気が抜かれたように、それからはまともな訓練を受けれるようになった。

「お嬢、そこは切り替えしてっ、脇が甘いですぞ!」
「うわぁっ!」

 剣と武を交互に教えてもらっているため、習得することは山ほどあるからね。
 タウリの傭兵時代や冒険者時代で培った経験は、私の糧となり大いに役立ってくれる。






 ◇






 エルナト先生が去ってから数ヶ月。
 暑かった夏が終わり、秋へと季節が変わっていく。
 たまに送られていた手紙も、だんだん少なくなっていった。

 私はようやく9歳になった。

 タウリとの特訓の成果もあり実力もかなりついてきたし。実際私はこっちの方が向いてるみたいだなー。
 認めたくないけどタウリってやっぱり強いしすごい。
 野営したときも思った。うちの領地はそこまで出没しないけど、たまに出てくる魔物とかも簡単に切って倒してた。
 

 この頃には実戦もふまえ低級のモンスター退治もするようになってた。(両親にはもちろん内緒でね。)
 
 
 魔法を使う事に関しては相変わらず進んでいない。
 とりあえず日々の日課である魔力の循環だけは欠かさず行っている。
 この先どうなるかわからない今、できる事をしておきたいから。

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