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子供編 1

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 ゆっくりと覚醒し、そっと瞼を開ける。

 長い夢を終えて目を覚ますと、そこには見慣れない天井がある。薄暗い部屋に、天蓋付きの屋根が見えて薄いレースのような布が上に向かって伸びている。
 ボケ~とその光景を見て、あぁそういえば、ココは私の部屋だったと思い出す。
 冴えない頭を徐々に動かす。
 体の上に掛かっていた布団を退かし、ぴょんとベッドから飛び降りた。
 はまだ幼い。
 この世に生を受けてからまだ7年しか経っていない。
 ペタペタとふかふかの絨毯の上を裸足で歩き、大きな姿見の前までやってきた。
 カーテンが開いてないせいか部屋の中はまだ薄暗い。
 私の今の身長はだいたい120cmくらいかな?
 子供らしく鏡の前でクルリと回ってみせる。着ていたフリフリの白いワンピース型のネグリジェがふわりと翻る。
 そこに映った私は、ぱっちりした翠色の瞳に亜麻色の肩まで伸びた髪、ふっくらした輪郭はまだ幼さを残している。
 手足も長くて肌もすべすべ、まだお子ちゃまだけど全体的な顔の印象はなかなかの美少女だと思う。
 
 近くにあった丸いテーブルの上から鈴を取り、チリンっと呼び鈴を鳴らすと、しばらくして薄茶色の大きな扉からノックが聞こえ声を掛けられる。

「おはようございます、ミラお嬢様。お呼びですか?」
 
 呼ばれて入って来たのは、小さい頃から私の面倒を見てくれているメイドのララだ。
 メイド服に見を包んだ彼女の年は20歳くらい。
 おっとりした性格で肩くらいの長さの赤茶いの髪を三編みにしてて、顔は丸顔でわりとぽっちゃりしている。
 こういったら悪いけどこの世界では行き遅れの気味の彼女は、現在絶賛結婚相手募集中なのである。

「おはよーララ!カーテンを開けて~。あと、顔を洗いたいな」
 
 姿見の前でくるりと振り返りララにお願いする。

「かしこまりました。今日は良い天気ですよ!」
「うん、本当だね!」

 ララは笑顔でシャッとカーテンを開け、桶を取りに部屋を出ていく。

「それでは行ってまいりますね」

 明るくなった部屋の広い窓に近づくと、カーテンの外には見慣れた景色が広がっている。
 季節は春。新緑の時期だ。
 ここはドルアーガ子爵家の領地フォーマルハウト。
 領地自体はそれ程広くないけど、ここは綿織物と薪や家の材料になる木材を加工する林業が盛んな地域。
 鉱山なんかの開拓も進んでいるけどそこはまだ開発途中。
 ガラスに手を張り付けて、目の前に見える窓の外に広がる景色は優雅な庭園……ではなく限りない緑色と茶色の田園風景。
 そう…何を隠そうここは、かなりのど田舎なのだ。
 うちの近くに近所の民家はほぼない。近くの町まではまあまあ距離がある。
 でも自然豊かで水も空気も美味しいし、子供が伸び伸び生活するには最高の場所。
 私はこの領地をとても気に入っている。
 窓の外は日差しが溢れ小鳥が囀り、快晴の晴れ間にメイド達が洗濯物を広げて干しているのが見える。
 先祖代々受け継がれてきたこの土地で、私の父であるエリック・フォント・ドルアーガは事業で一儲けし更に財産を増やした。

 しばらく物思いに耽っていると、扉からコンコンとノックの音が聞こえる。
 
「ミラお嬢様、お湯を持って参りました」 
「ありがとう、ララ」

 窓に手を当てて外の景色を見ていた私は、ララの方へと裸足でスタスタと向かった。
 桶とタオルを運んできたララは机の上にそれを置き、椅子に座った私の長い髪を手櫛で梳かしながら一本に結わえてくれる。
 バシャバシャと顔を洗っていると、後ろに控えていたララが今日の予定を読み上げていく。

「本日のお嬢様のご予定ですが…まず午前中に家庭教師のエルナト先生がいらっしゃいますので、いつも通り歴史と文字の授業を受けていただきます。昼食の後、今度はタウリ卿と共に剣術と武術の訓練を行います」
「は~い」
 
 タウリとは私の筆頭護衛騎士のことだ。
 子爵家の我が家は、実は相当な資産家だ。
 なので街に出れば普通に人攫いにあう。ドルアーガ子爵家の邸宅も何度も強盗や空き巣に入られた(現在進行系)。
 だから用心に越したことはないんだ。
 うちは両親の他、私には弟がいる。
 まだ4歳と甘えたがりの弟はいつも優しい母を独占している。
 私は前世の記憶もあり精神年齢が二十歳超えてるし、長女でお姉ちゃんなのでそこはあまり気にしない。

 普通の貴族の子女が剣や武術を習おうとは思わないんだけど、私はある目的の為に今から実力をつけている。
 そんな私の思惑なんて全く知らない父と母は、とにかく強くなりたいという私の願いを嫌な顔せず素直に聞いてくれた。
 理由も聞かず二つ返事で返された時は拍子抜けしてしまったけど、そんな寛大な両親に心から感謝したものだ。
 子供のやりたい事を決して拒まないという考えの両親は、私には大変ありがたかった。
 よほど危ない目に合わない限り辞めろとは言わなかった。
 
 両親の許可も降り、嬉しいことに厳選した家庭教師と師匠もつけてもらった。
 これからの目的を達成する為には実力は元より、必要以上の知識も備えていないといざという時に冷静な判断が出来なくなってしまうからね。
 この世界に関する情報や知識はいくらあっても全く邪魔にならないし。
  
 とりあえずまだ7歳ってこともあって、まずは短い時間から徐々に授業や訓練を始めてる。
 教えてくれる先生はのちに教授となる若き天才エルナトだ。
 この国で魔法アカデミアの教授に抜擢されるのは並大抵の事じゃなれない。
 貴族としての立場もそうだけど、類稀なる知識とセンス更に様々な実戦経験を持ってないといけない。
 今はまだ18歳と若いけど、7年後には25歳という異例の若さでその地位まで上り詰めるんだ。
 一番の推薦理由は現在存在する魔法の四大元素の内、風と土を発現させたから。
 この世界では1つの属性を持って生まれて来る事自体珍しいのに、さらに2つ以上の属性を持つ者はかなり稀。

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