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ティアーナとアイシャは馬車に乗り、リアンタールの首都を出ていた。
王宮のある場所からはかなり離れた。
ティアーナは馬車の荷台から哀しげな瞳で、過ぎ去った首都を見る。
こうして人混みに紛れて何度も移動すれば、追っ手が来たとしても捜索するのは難しくなってくる。
初め来たときみたいに水路を使うより、こうして陸路を移動する方が安全だ。
ティアーナの心にアーサーへの想いが複雑に入り組む。だが自分で離れると決めた以上、ティアーナは余計な想いは断ち切ることにした。
「お嬢様。眼鏡を外さないようにフードも目深に被りましょう」
馬車に乗りボソッと隣に座っていたアイシャが囁く。台車は広く荷物も乗っていたが人も何人か乗り合っていた。
「そうね。国境を超えるまで油断はできないわ…」
旅人を装っているが、やはり女二人の移動は危険を伴う。ティアーナとアイシャは寄り添いいつの間にか眠りについていた。
先に目を覚ましたのはアイシャだ。もう夜も更け馬車が宿場町に停まった。
リアンタールの首都からかなり離れた港町でティアーナも起こし、二人で馬車を降りた。
「今日はここで宿を探しましょう」
「えぇ。そうね」
馬車の荷台から降り代金を払う。遅い時間だったが港町は人も多く宿屋もまだ空いていた。
「いらっしゃい。お二人様だね。二階の角部屋が空いてるよ!」
女将から鍵を貰い、二階の階段を上がり部屋に付いた。
「ふぅ…ようやく布団で寝れますね…」
「そうね。明日からまた移動だから、早めに休みましょう」
長い馬車での移動は心身を疲弊させた。2つ並んでいるベッドに一人ずつ座り、疲れた身体をベッドへと沈めた。
特にティアーナの心中は複雑で、いけないと思いながらアーサーの上着を密かに荷物に入れ持って来ていた。
もう二度と会わない人だから、返す事は出来ないがアーサーの私物を手放す事が出来なかった。
未練を残したくはなかったが、どうしてもお世話になった宿屋に置いていくことが出来なかった。
(アーサー様……貴方と生涯を共にすることは、どうしてもできないのです…)
まだアーサーに触れられた感覚が色濃く残っている身体を抱きしめた。
国を捨てた王女が、一国の王太子殿下になれる訳もない。
それでもアーサーはティアーナが居れば無理にでも話を進めただろう。
傾いた小国、魔女の呪い…ティアーナを娶ることに何の得も利益もない。ティアーナとて王族の端くれ。自分が王家の血を引いて生まれた時から、女としての幸せなど無いとわかっていた。
ベッドに横たわり無言で何かを考えているティアーナを、隣のベッドで座っていたアイシャが心配そうに見ている。
「ティアーナ様…」
これで、良かったのでしょうか──。
アイシャは隣でティアーナの様子を見ながら、その言葉を飲み込んだ。
主の言葉は絶対だ。
ティアーナに着いて行くと決めた時からアイシャに迷いはない。
ただ、悲しそうなティアーナの表情を見ているとアイシャは思わずそんな言葉が口から出掛かった。
グッと堪え、努めて明るく振る舞う。
「明日は更に遠距離の馬車旅ですからね。お尻が痛くならないよう、なるべく柔らかい荷物を床に引きましょう」
笑いながらティアーナに話すアイシャ。
ティアーナも横目でアイシャに視線を移しながらフッと微笑む。
「ふふ…アイシャの言う通りだわ。気をつけなくちゃね」
ティアーナが笑ってくれた事にアイシャはホッとする。
「お疲れでしょうから、そろそろ休みましょう。火を消しますね」
アイシャはベッドから立ち上がり燭台を消した。仄かに灯っていた明かりが消え、室内が暗く映る。
「お休み、アイシャ」
「はい。お休みなさいませ、ティアーナ様」
ベッドへ潜り布団を掛け目を閉じた。
眠れないかと思っていたが、ティアーナの眠気は意外なほど早く訪れた。
スッと寝付いたティアーナとは反対に、アイシャは横で寝ているティアーナのベッドを見ながら思考を巡らせていた。
ティアーナとアイシャは馬車に乗り、リアンタールの首都を出ていた。
王宮のある場所からはかなり離れた。
ティアーナは馬車の荷台から哀しげな瞳で、過ぎ去った首都を見る。
こうして人混みに紛れて何度も移動すれば、追っ手が来たとしても捜索するのは難しくなってくる。
初め来たときみたいに水路を使うより、こうして陸路を移動する方が安全だ。
ティアーナの心にアーサーへの想いが複雑に入り組む。だが自分で離れると決めた以上、ティアーナは余計な想いは断ち切ることにした。
「お嬢様。眼鏡を外さないようにフードも目深に被りましょう」
馬車に乗りボソッと隣に座っていたアイシャが囁く。台車は広く荷物も乗っていたが人も何人か乗り合っていた。
「そうね。国境を超えるまで油断はできないわ…」
旅人を装っているが、やはり女二人の移動は危険を伴う。ティアーナとアイシャは寄り添いいつの間にか眠りについていた。
先に目を覚ましたのはアイシャだ。もう夜も更け馬車が宿場町に停まった。
リアンタールの首都からかなり離れた港町でティアーナも起こし、二人で馬車を降りた。
「今日はここで宿を探しましょう」
「えぇ。そうね」
馬車の荷台から降り代金を払う。遅い時間だったが港町は人も多く宿屋もまだ空いていた。
「いらっしゃい。お二人様だね。二階の角部屋が空いてるよ!」
女将から鍵を貰い、二階の階段を上がり部屋に付いた。
「ふぅ…ようやく布団で寝れますね…」
「そうね。明日からまた移動だから、早めに休みましょう」
長い馬車での移動は心身を疲弊させた。2つ並んでいるベッドに一人ずつ座り、疲れた身体をベッドへと沈めた。
特にティアーナの心中は複雑で、いけないと思いながらアーサーの上着を密かに荷物に入れ持って来ていた。
もう二度と会わない人だから、返す事は出来ないがアーサーの私物を手放す事が出来なかった。
未練を残したくはなかったが、どうしてもお世話になった宿屋に置いていくことが出来なかった。
(アーサー様……貴方と生涯を共にすることは、どうしてもできないのです…)
まだアーサーに触れられた感覚が色濃く残っている身体を抱きしめた。
国を捨てた王女が、一国の王太子殿下になれる訳もない。
それでもアーサーはティアーナが居れば無理にでも話を進めただろう。
傾いた小国、魔女の呪い…ティアーナを娶ることに何の得も利益もない。ティアーナとて王族の端くれ。自分が王家の血を引いて生まれた時から、女としての幸せなど無いとわかっていた。
ベッドに横たわり無言で何かを考えているティアーナを、隣のベッドで座っていたアイシャが心配そうに見ている。
「ティアーナ様…」
これで、良かったのでしょうか──。
アイシャは隣でティアーナの様子を見ながら、その言葉を飲み込んだ。
主の言葉は絶対だ。
ティアーナに着いて行くと決めた時からアイシャに迷いはない。
ただ、悲しそうなティアーナの表情を見ているとアイシャは思わずそんな言葉が口から出掛かった。
グッと堪え、努めて明るく振る舞う。
「明日は更に遠距離の馬車旅ですからね。お尻が痛くならないよう、なるべく柔らかい荷物を床に引きましょう」
笑いながらティアーナに話すアイシャ。
ティアーナも横目でアイシャに視線を移しながらフッと微笑む。
「ふふ…アイシャの言う通りだわ。気をつけなくちゃね」
ティアーナが笑ってくれた事にアイシャはホッとする。
「お疲れでしょうから、そろそろ休みましょう。火を消しますね」
アイシャはベッドから立ち上がり燭台を消した。仄かに灯っていた明かりが消え、室内が暗く映る。
「お休み、アイシャ」
「はい。お休みなさいませ、ティアーナ様」
ベッドへ潜り布団を掛け目を閉じた。
眠れないかと思っていたが、ティアーナの眠気は意外なほど早く訪れた。
スッと寝付いたティアーナとは反対に、アイシャは横で寝ているティアーナのベッドを見ながら思考を巡らせていた。
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