薔薇の呪印 ~逃亡先の王子様になぜか迫られてます

ウリ坊

文字の大きさ
上 下
17 / 35

17 

しおりを挟む
 

 振り払うように身体を捩り、腕から抜け出すと、ティアーナはアーサーから距離を取る。

 アーサーは身体を離され、拒絶されたことにショックを受けているようで、呆然としている。

「アーサー様、はっきりしたいので言わせて頂きますが、私は貴方の捜している方ではございません。ですので、このように無闇に触れるのは止めて頂けますか?」

 少しキツい言い方になるが、ここできちんとけじめをつけないと、アーサーは勘違いして、いつまでも自分にちょっかいをかけてくるだろう。

 それはお互いにとって駄目なのだ。
 ティアーナではない以上、思わせ振りなことを許すのも、騙すような真似をするのも良くない。

 言ってしまってから、ズキズキする胸をギュッと服の上から抑える。
 アーサーを傷つけるだろうことは承知の上だ。
 でも傷つけ傷つくことを怖がっていては、何も解決しない。

「貴方様が私と思い違いをしている方は、別におられるのです。お願いですから、もう私などには構わず、その方をきちんとお捜し下さいませ」

 ティアーナは自分を叱咤し、はっきりとアーサーに物申した。
 アーサーは俯いたまま何も言わない。それが逆に怖い。

 室内がシーンと静まりかえる。
 外で稽古しているだろう、アイシャとギルバートの打ち合う音と声が聞こえてくる。

 沈黙が苦しい。

「あの……アーサー…様?」

「………確かめさせて」

「はい?」

「確認させてほしい」
 
「何を……確認するのですか?」

「その子は、背中の真ん中に痣が2つ並んでいた。それを確認させて?」

「せ、背中ですか?痣など、ないと思います。それに確認するにも……服を…」

 背中を見るとなると、服を脱がなくてはいけない。
 何故背中の痣を知っているのか謎だが、アーサーが嘘をついているようには見えない。

 今着ているワンピース型の服は後ろにボタンがあり、それを外して上を肌蹴ないと、背中を見ることは出来ない。

「俺がやるから、後ろ向いて?」

「えっ!それは!あの、今、アシュリーを、呼びますから」

「せっかく稽古してるのに、呼ぶことはないよ」

 アーサーが近づき、背後に回るとエプロンの紐を外す。

「あ、あの、アーサー様!」

「動かないで……」

 アーサーは器用に後ろのボタンを次々外していく。

 後ろが寛げられ、中に着ていた下着も下ろされ、白い陶器のような肌が露になる。

「ッ……!」
 
 背中から腰の下辺りまで晒され、羞恥に顔を染める。

「良く見せて。小さな痣だったから近くで見ないと確認できない」

「あっ…!」

 そう言ってアーサーに腰をさらわれ、近くにあったベッドの上に強制的に座らされる。

 アーサーは剥き出しになった背中を、指でツゥーと上からなぞるように滑らせていく。

「んっ!……っ…ぁ……」

 擽ったいのと、ゾクゾクするのと、歯痒い想いがティアーナを襲う。

「っ、ん……アーサー様、まだ、ですか?」

 早く終わってほしくて催促するが、アーサーが止める気配はない。

「君の肌はスゴく綺麗だね。いくらでも触っていられる」

 ティアーナの背中に幾つもキスを落としていく。触れられる唇の感触がこそばゆくて、その度にびくびくと身体が反応してしまう。

「やっ!あっ、……いや……」

「ティナ……」

 熱を孕んだ声が鼓膜を揺さぶる。

 与えられる甘い刺激に耐えながら、ギュッと服を握りしめる。
 こんなの、絶対に確認したいわけじゃない。
 現にアーサーは背中にキスばかりして痣があることなど、全く見ていない。

「…アーサー……様……もう……」

 いい加減耐えきれなくて、身体を捩って抵抗する。
 アーサーはクスリと笑って、素直に解放してくれた。

「……うん、ありがとう。きちんと確認できたよ」

 そう言ってティアーナの衣類を着せて、ボタンを次々はめていく。

「それで……その…どうだったのですか?」

 後ろを向いていたティアーナは、アーサーに向き直し、顔を真っ赤にしながらアーサーの顔を見つめる。

 アーサーはその表情に目を細め、ティアーナの頬に手を添える。

「もちろんあったよ。やっぱり君が俺の捜していた少女だ」

 美麗な顔に笑みを讃え、琥珀色の瞳でじっとティアーナを熱く見つめ返す。
 そんな愛おしそうな表情に、ティアーナの心臓が激しく脈打つ。

「ッ……ですが…私の背中に痣は……んっ!」

 全てを言い終える前に唇を塞がれる。

 深く口づけられ、逃げられないように背中に手が回る。
 瞳をギュッと閉じながらアーサーの胸を押すが、力が強くて離れられない。

「…………ッ………ん………」

 唇を離し、角度を変え再び深く奪われる。
 苦しくて口を開くと、すかさず舌が入り込む。

「ん………んっ!…ふぅ………」

 こんなこといけないのに、舌を吸われる感触が心地よくて、身体の奥が甘く疼いてくる。
 
 唇を離されると、そのままアーサーの腕の中に抱きしめられる。
 
「ねぇ、ティナ……君は誰なの?」

 腕の中で呼吸を整えていたティナは、その言葉にビクッと反応する。

「この国の人間じゃないよね?船に乗って移動してたみたいだし、こちらの言葉も使えるから高位貴族のご令嬢なのかな?でも、だとしたらどうして髪まで染めて、こんな場所で働いているの?」

 鋭く質問され、言葉が出てこない。
 先ほどとは違う意味で心臓の鼓動が早くなる。
 一番聞かれたくないことをどんどん質問される。
 
「あ…の……」

「あぁ、ごめん。詮索したいわけじゃなくて、ただ、どうしてなのかなって疑問?」

 端正な顔で優しくニコリと微笑む。
 その美麗な表情は探るような感じは確かにしない。


 だとしても、本当のことなど、この国の王太子に言える訳はないのだ。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

処理中です...