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 最後にアーサーに会ってから、三週間程間が空いた。
 やはり王太子ともなると忙しいのだろう。ティアーナとしては、このまま放って置かれたほうが良かった。
 顔を見て関わってしまうと、色々とダメな気がして、何も考えなくていい今の時間が自分としては安心していた。
 何とか隙を見て逃げ出そうかとも考えたが、あの時言われた言葉がティアーナの行動に制限をかけてしまう。



 アーサー達が前に訪ねて来た後から、アイシャがたまに外出するようになった。

 時間にしたらそこまで長い間ではないのだが、聞いても、買い物や散歩をしていただけと誤魔化す。
 帰って来ると少し落ち込んだような、影のある顔をしていて、心配になってしまう。




 お昼下がり。
 店の手伝いも終わり、絡んでくる男性客を適当にあしらいながら、ティアーナは休憩に入る。

「おや、アシュリーはまた出掛けたのかい?」

 店の奥で休んでいると、女将さんが話しかけてきた。店も人が少ない時間帯だ。

「はい……最近よく居なくなるので、心配なんです」

「ティナも場所は知らないのかい?……じゃあ、もしかしたら好い人でも出来たのかね?」

「いい人?」

「あらやだよ!好きな男でも出来たんじゃないかってことだよ~」

 それを聞いてティアーナはポカンとしてしまう。
 アイシャに…好きな人?

 今まで長い間アイシャと一緒にいるが、アイシャが誰か他人に興味を示したのを見たことがなかった。
 もしかしたらティアーナが知らないだけで、密かに惹かれていた男性もいたのかもしれないが。
 だが、ティアーナ同様、アイシャもまた恋愛というものに関しては縁のない生活を送っていた。

「そんな顔しなさんなっ!お前さんたちはまだまだこれからなんだよ!若い時の惚れた腫れたなんて日常茶飯事さっ」

 ティアーナの背中をバシッと叩きながら、明るく励ましてくれる。

「女将さん……」

「あんたは特にべっぴんさんなんだから、気をつけなよ。今でさえ男達が寄ってきてるんだからさっ。変なやつに付けこまれないように、何かあったらちゃんと言うんだよ!」

「はい、ありがとうございます!」

 女将さんに話して、少しすっきりした。ティアーナが笑顔になると、女将さんは店に戻って行った。

 

 その日、アイシャは夕方近くまで戻って来なかった。
 
 ティアーナは心配で、何度も外を見に行く。
 すると、一台の馬車が店の横で停まる。
 辺りが薄暗くなっていて、あまり目立たないが、この辺では見掛けないような豪華な馬車だ。

 
 不審に思い見ていると、中から見たことのある長身のフードを被った男が出てくる。
 あれはたぶん、アーサーといつも一緒にいるギルバートじゃないだろうか。
 しかも、その腕にはアイシャが抱き抱えられていた。

 思わずギルバートの方へ駆け寄る。

「アイシャ!」

 ギルバートに抱えられたアイシャは、頭や手に包帯が巻かれ、痛々しい姿になっていた。

「ここでは目立つ。部屋まで案内してくれ」

 聞きたいことは山程あるが、取り敢えず飲み込み、ギルバートを部屋まで誘導した。


 女将さんにも許可を貰い、離れの部屋まで運んでもらう。

 アイシャのベッドに寝かしてもらうが、ピクリとも動かない。

 ティアーナは身体が震える。

「あの…ギルバート様ですよね?…アイ、アシュリーは何故こんな怪我を!誰かに襲われたのですか!?」
 
 ベッドのアイシャに寄り添っているティアーナは、涙目でギルバートに問い詰める。

 立ったままその様子を見ていたギルバートは、静かに口を開く。

「襲われた訳じゃない。やったのは俺だ」

 その言葉にティアーナの思考は停止する。ギルバートを凝視したまま固まってしまう。
 ギルバートがアイシャを?

「ど…して……ギル…バート様が……?何故…ですか?何故こんなひどい仕打ちを!」

 アイシャに寄り添ったまま、ティアーナはギルバートをキッと睨む。

「……理由はソイツから聞け」

 そう言って立ち去ろうとする。
 ティアーナは扉に立ち塞がり、ギルバートに立ち向かう。

「答えなさい!何故この様な真似をした!!」

 怒気を含み、ギルバートを威圧する。

 ギルバートは少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに表情を元に戻す。

「言っておくが、ソイツが自分の意思で行ったことだ」
 
「アシュリーが?」

「目が覚めたら渡してくれ」

 何か入った袋を投げて寄こす。
 受け取った隙に、ギルバートは扉を開けて出て行ってしまった。





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