上 下
8 / 35

しおりを挟む
 

 あれから何日か経ち、変わらない日々を送っていた。
 ただ最近、アイシャの様子が少しおかしい。たまにどこか思い詰めたような表情をしている時がある。
 聞いてもはぐらかして教えてはくれない。

 ティアーナは嫌な予感が拭えなかった。
 
 アイシャは昔から、どこか自分の思いを表に出さない所があった。

 自分の中でのみ込んで消化してしまう。今はまだいいが、幼い時は消化不良をおこし、たまに熱を出していた。知恵熱だったと思う。

 





 ◇◇◇




 アイシャは捨てられた子供だった。
 元々はどこか貴族の子供だったらしいが、平民だった母が死に、周りから言われ無理やり娶った後妻が、酷い虐待をアイシャに行っていた。

 アイシャの母は美しかった。それに似たアイシャにその継母は嫉妬した。継母は他国の人間だ。
 
 ご飯もろくに与えられず、身体中痣だらけでガリガリだった。
 父親はアイシャの母が死んでから、家庭を省みることはなかった。
 ほとんど家におらず、屋敷には継母と使用人扱いされているアイシャだけ。

 そして、8歳の寒い冬の夜に、何も持たされず外に出された。
 宛もなく歩いていたが、寒さと空腹で道端に倒れこんだ。
 アイシャは生きることに絶望していた。自分は生きている意味がない。


 そこにちょうど一台の馬車が通りかかる。


 じっと地面を見つめていた。
 こんな時でもお腹が鳴る。そんなときふと思った。


「最後に……お寿司……食べたいな………」


 自分で自分の言葉が理解出来なかった。
 おすし?…おすしって何?

 そこでアイシャに膨大な量の記憶が流れ込んでくる。

 前世の記憶だ。頭が割れそうに痛くて、ぎゅっと頭を抱えた。

「貴女…今、お寿司って言った?」

 急に話かけられ、視線だけ声の方を向けた。

(あ……天使様だ……)

 自分の前に、天使のような可愛らしい女の子が座りこんでいた。
 アイシャを心配そうに見つめている。

 そこでアイシャは気を失った。



 目を覚ますと、暖かいベッドの上に寝かされていた。顔だけ横を向くと、気を失う前に見た天使がいた。
 美しい白銀の髪がベッドにさらりと流れ、長い睫毛で覆われている瞼は閉じたままだ。
 
 天使が迎えにきたと思ったのだが、天使は人間のようだった。

 そっと体を起こし、ぐるりと周りを見渡す。
 アイシャのいた屋敷に比べ豪華だが、どこか所々年期の入った古めかしい佇まいだ

 アイシャが起き上がったタイミングで天使も起きてしまった。
 目を覚ました天使は、とても綺麗な青紫色の瞳をしていた。
 それから天使と話をした。彼女はティアーナと名乗り、なんとこの国のお姫様だった。
 
 それからティアーナに質問責めに合う。なぜお寿司を知っていたのか、どうして倒れていたのか……沢山話した。
 こんなに人と話したのは久しぶりかもしれない。

 そのうちお腹が大きな音を立てて鳴った。
 真っ赤になっていると、天使が笑いながら侍女を呼んで消化の良い食べ物を用意してくれた。

 出されたパンやスープが身に染みるほど美味しくて、ボロボロと涙が出た。
 泣きながら食べた。
 ティアーナは何も言わずにその様子を見て、食べ終わったアイシャを抱きしめた。
 
 母が亡くなってから、誰かに抱きしめられたのは初めてだった。

 あたたかい。

 久しぶりに人の優しさに触れた。

 また、涙が止まらなくなった。
 グシャグシャになりながら、気の済むまで泣いた。
 何故かティアーナも泣いていた。

 二人で泣いていたら侍女がビックリして、慌ててやってきた。

 
 その日からアイシャは、ずっとティアーナと一緒だ。
 あまりワガママを言わなかったティアーナが、王様に頼んで、アイシャを側付きとして置いてもらえるように泣きついた。

 アイシャは思った。

 自分はあの時に一度死んだ。それをティアーナが蘇らせてくれた。

 これからはティアーナの為に生きよう。

 幸い前世の記憶も戻った。ティアーナも同じく前世の記憶を持っていた。
 この知識があれば、今までの何も出来なかった無力な自分とは決別できる。


 こうしてアイシャは、新たな決意の元、ティアーナの侍女として生きることを決めたのだ。



 どんな事があっても、必ずティアーナを守ると。






 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

お兄様から逃げる方法

tsuyu
恋愛
伯爵令嬢のフローリアには、四人のお兄様たちがいる。 恋人のシーフと会うことを邪魔されるフローリアは、無事にお兄様たちから逃げる事が出来るのか!? 逃亡ラブコメディー!

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

処理中です...