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しおりを挟むあれから何日か経ち、変わらない日々を送っていた。
ただ最近、アイシャの様子が少しおかしい。たまにどこか思い詰めたような表情をしている時がある。
聞いてもはぐらかして教えてはくれない。
ティアーナは嫌な予感が拭えなかった。
アイシャは昔から、どこか自分の思いを表に出さない所があった。
自分の中でのみ込んで消化してしまう。今はまだいいが、幼い時は消化不良をおこし、たまに熱を出していた。知恵熱だったと思う。
◇◇◇
アイシャは捨てられた子供だった。
元々はどこか貴族の子供だったらしいが、平民だった母が死に、周りから言われ無理やり娶った後妻が、酷い虐待をアイシャに行っていた。
アイシャの母は美しかった。それに似たアイシャにその継母は嫉妬した。継母は他国の人間だ。
ご飯もろくに与えられず、身体中痣だらけでガリガリだった。
父親はアイシャの母が死んでから、家庭を省みることはなかった。
ほとんど家におらず、屋敷には継母と使用人扱いされているアイシャだけ。
そして、8歳の寒い冬の夜に、何も持たされず外に出された。
宛もなく歩いていたが、寒さと空腹で道端に倒れこんだ。
アイシャは生きることに絶望していた。自分は生きている意味がない。
そこにちょうど一台の馬車が通りかかる。
じっと地面を見つめていた。
こんな時でもお腹が鳴る。そんなときふと思った。
「最後に……お寿司……食べたいな………」
自分で自分の言葉が理解出来なかった。
おすし?…おすしって何?
そこでアイシャに膨大な量の記憶が流れ込んでくる。
前世の記憶だ。頭が割れそうに痛くて、ぎゅっと頭を抱えた。
「貴女…今、お寿司って言った?」
急に話かけられ、視線だけ声の方を向けた。
(あ……天使様だ……)
自分の前に、天使のような可愛らしい女の子が座りこんでいた。
アイシャを心配そうに見つめている。
そこでアイシャは気を失った。
目を覚ますと、暖かいベッドの上に寝かされていた。顔だけ横を向くと、気を失う前に見た天使がいた。
美しい白銀の髪がベッドにさらりと流れ、長い睫毛で覆われている瞼は閉じたままだ。
天使が迎えにきたと思ったのだが、天使は人間のようだった。
そっと体を起こし、ぐるりと周りを見渡す。
アイシャのいた屋敷に比べ豪華だが、どこか所々年期の入った古めかしい佇まいだ
アイシャが起き上がったタイミングで天使も起きてしまった。
目を覚ました天使は、とても綺麗な青紫色の瞳をしていた。
それから天使と話をした。彼女はティアーナと名乗り、なんとこの国のお姫様だった。
それからティアーナに質問責めに合う。なぜお寿司を知っていたのか、どうして倒れていたのか……沢山話した。
こんなに人と話したのは久しぶりかもしれない。
そのうちお腹が大きな音を立てて鳴った。
真っ赤になっていると、天使が笑いながら侍女を呼んで消化の良い食べ物を用意してくれた。
出されたパンやスープが身に染みるほど美味しくて、ボロボロと涙が出た。
泣きながら食べた。
ティアーナは何も言わずにその様子を見て、食べ終わったアイシャを抱きしめた。
母が亡くなってから、誰かに抱きしめられたのは初めてだった。
あたたかい。
久しぶりに人の優しさに触れた。
また、涙が止まらなくなった。
グシャグシャになりながら、気の済むまで泣いた。
何故かティアーナも泣いていた。
二人で泣いていたら侍女がビックリして、慌ててやってきた。
その日からアイシャは、ずっとティアーナと一緒だ。
あまりワガママを言わなかったティアーナが、王様に頼んで、アイシャを側付きとして置いてもらえるように泣きついた。
アイシャは思った。
自分はあの時に一度死んだ。それをティアーナが蘇らせてくれた。
これからはティアーナの為に生きよう。
幸い前世の記憶も戻った。ティアーナも同じく前世の記憶を持っていた。
この知識があれば、今までの何も出来なかった無力な自分とは決別できる。
こうしてアイシャは、新たな決意の元、ティアーナの侍女として生きることを決めたのだ。
どんな事があっても、必ずティアーナを守ると。
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