3 / 35
3
しおりを挟むとりあえず追っ手では無いと判断し、ホッとする。
ティアーナもアイシャも幼少期から近隣諸国の言語を何ヵ国か学んでいたので、もちろんリアンタールの国の言葉も理解している。
「アーサー…様。何故、私を、その……抱きしめていたのですか?」
「君達は、二人で旅でもしているのかな?だとしたらあまりにも無防備過ぎる。こんな船内で寝ていたら置き引きに合うよ」
言われてハッとする。
直ぐに荷物を確認するが、どうやら財布は無事なようだ。安心して一息ついた。
「それは…ご忠告ありがとうございます。今後は気をつけます」
「あぁ……で、どうして君を抱きしめていたかというと、良からぬ連中が狙っていたんでね。牽制しておいた」
良からぬ連中?何のことだ?
それと抱きしめることと、何の関係があるのか、ティアーナにはわからなかった。
油断はしないが、少しだけ警戒心を解く。
「お嬢様。この方々は少し怪しいですよ。もう少しで港に着きますから、すぐに出ましょう」
アイシャが後ろから耳打ちしてくる。
それはティアーナも賛成だ。
助けてもらったのかイマイチわからないが、知らない人間に簡単に心を許す訳にいかない。
小さく頷き、なるべく関わらないよう距離を置こう。
「色々とありがとうございました。感謝致します」
少し船が揺れ、リアンタールの港に着いたようだ。
所狭しと座っていた客たちが、次々と船から降りる。
「それでは、失礼致します」
お礼を言うと、鞄を背負い立ち上がる。
だが、その瞬間同じく立ち上がったアーサーに腕を取られ、グイッと引き寄せられる。
「えっ!あっ」
「お嬢様!」
広い胸の中に再び抱き寄せられ、胸がドキリと跳ねる。
伸びてきた手が顎を捕らえ、強引に上を向かされる。
「君の名前は?」
「はい?」
「名前は何て言うんだい?」
いきなりの台詞にポカンとしてしまう。
アーサーは顎に添えてあった手を動かし、親指で唇のラインをなぞる。
その感触にゾクリと鳥肌が立つ。
「っ……ティナです。お離しになって頂けますか?」
「やっぱり青紫色の瞳……もしかして…君は…………」
伊達眼鏡に手をかけようとしたアーサーを、身を捩って何とか振り切る。
「お嬢様!大丈夫ですか!?」
「おい、アーサーその辺にしてそろそろ行くぞ」
同じくフードを被り、姿形のわからない長身のギルバートと紹介された人物が止めに入ってくれた。
「ギル、邪魔しないでくれないか」
「時間が無いんだ。行くぞ」
ギルバートはスタスタ歩いて行ってしまう。
「ったく……ティナ」
「は、はい?」
急に呼ばれ、思わず返事をしてしまう。
「また、会おう」
去り際に腰をさらわれ、軽く頬にキスされる。柔らかな唇の感触が頬を掠める。
「!」
フードを被っていてもわかる美麗な顔で微笑み、踵を返して船内の出入りへ去って行った。
残されたティアーナはキスされた頬に手を当て、真っ赤になっている。
(何て軟派な男なの!いくら顔が良いからって信じられない!)
「お嬢様……大丈夫ですか!?あの男達は一体?」
「私も、わからないわ。助けてくれたらしいんだけど……」
もう二度と会わないだろうけど、初対面でこんなことをしてくるなんて、信じられない。
気持ちを落ち着け、ティアーナとアイシャも下船するべく出入りへと向かった。
11
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる