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愛の告白 2

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 ひとまずジムとは離縁していたということで、合ってるのよね? でも私が、聖なる存在? この体質が、そうだというの? あっ……、だからローさんは私に細かく聞いていたのかしら……?

 先々代の皇帝であるローは、以前アリシアにこの質問をしていた。その時はわからなかったが、もしかしたら今ジェイデンが話していたことが関係しているのかもしれない。

「大、公様……」
「貴女は私の運命の伴侶です。貴女が私の元を離れ、神殿へ属することになれば……おそらく、大変なことが起こるでしょうけど」

 アリシアを見下ろす宝石眼が美しく光り輝いている。それをアリシアは恐ろしく感じる。

「――大変なこと? それは……?」
「アリシアさん。貴女が私を選んでくだされば、それを回避できます。……いえ、たとえ……選んでもらえなくとも、一生貴女だけを愛すると誓います」

 ジェイデンはどこか憂いを帯びた瞳でアリシアを見つめている。こんなにも不安に揺れ、自信のないジェイデンを初めて見た。
 
「っ」

 アリシアはずっと、ジェイデンは身体さえ繋げればいいのだと思っていた。
 自らの症状を和らげるため、苦しみから逃れるための薬のような存在なのかと。
 「愛してる」という言葉を、元夫は誰にでも囁いていた。
 もちろんアリシアが直接聞いたことはない。だからこそ、その言葉を聞くことが苦痛で仕方なかった。
 
 自分が誰かの口から聞くことは一生ないのだと、嫌悪していた言葉でもある。

 私が間違っていたの? でも初めの頃……大公様からは、私を愛しているなんて、そんなふうには感じられなかった……

 正直、アリシアにも愛などというものはわからない。
 恋すらしたことのないアリシアにとって、ジェイデンの思いが嘘か本当かなどと判断することもできない。  
 だがジェイデンの言葉を不快には感じなかった。
 むしろ――

「私、は……すでに一度、失敗しています……」

 自分の気持ちを吐露するように、ポツポツとアリシアは口を開いていく。

「ですから……また誰かと、生涯を共にする、というのは……とても抵抗があります……」

 ぐっと眉を顰め目を瞑ったアリシアの脳裏に、元夫ジムとの思い出したくもない忌々しい記憶が浮かんでくる。

「――では、質問を変えさせていただきます」
  
 その様子を見ていたのか、ジェイデンは柔らかな表情でアリシアに微笑んでいる。
 固く閉じた瞳を開け、アリシアはジェイデンを見上げた。
 
「アリシアさん。貴女は私をどう思っていますか?」
「え……?」
「貴女の、私に対する気持ちを聞かせてください。もし、貴女が私を何とも思っていないのなら、私は潔く諦めます」
「――っ」
  
 いつになく真剣に見つめる七色の瞳。
 それはまるで心の奥底まで見透かされて、嘘をつくことを見抜いているかのようであった。

 ジェイデンをどう思っているのか……

 アリシアは頭をフル回転させる。
 出会った当初は理不尽さを感じていた。
 無理やり体を繋げ不当な契約を結ばされ、しかし身体は心を裏切るように抱かれることに悦びを感じていた。
 ジェイデンを自分勝手だと心の中で罵りながらも、何故か他の女性といる姿を見るとムカムカした。

 だが今は――
 ジェイデンに避けられることが辛かった。
 症状に苦しんでいるのに、呼んでもらえないことが悲しかった。
 だから、自分から抱かれるためにこうして部屋へ訪れた。
 そしてジェイデンに抱かれ、腕に囲われ愛を囁かれると、どうしようもないほど嬉しくて幸せだと感じてしまっている。
 
「――私、は……」

 これを愛と呼ぶのなら、間違いなくそうなのだろう。 
 いつ芽生えたのか、いつそう感じ初めたのかまるでわからない。
 アリシア自身、全く知らない内に育っていた想い。

 元夫に触れられたあの嫌悪感など微塵も感じないほど、ジェイデンに触れられることはとても心地好く感じている。

「おそらく……、いえ、たぶん……」
 
 答えを聞き逃すまいと、真剣に見つめているジェイデンの宝石眼を直視できず、アリシアは頬を染めて瞳を横へ逸した。
 
「たぶん?」
「っ……、たぶん……大公様が、す……」
「す?」

 しつこいくらいに問いかけるジェイデンにわずかな苛立ちを感じつつ、それほど自分のことが気になっているのかと嬉しくも思う。

「す…………好、き……なのだと、思います……」

 自分の気持ちを認めることになぜか悔しさを感じるが、ここまで真剣に見つめられ答えを求められているのに、誤魔化すことなどできなかった。
 言った途端にアリシアの頬がカァーと熱くなる。
 言葉に出すと恥ずかしさが先走る。
 
 そう、なのね。私は大公様が好きなんだわ……!
 
 
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