62 / 67
愛の告白
しおりを挟む
ジェイデンも欲望を解放した疲れからか、乱れた呼吸を整えるようにアリシアに覆い被さった。
アリシアもしばらく放心状態でベッドに肢体を投げ出していた。
「アリシアさん……」
静まり返った室内にジェイデンの声が響く。
そしてベッドの上で余韻に震えているアリシアの体を抱き寄せた。
抱かれる前の燃えるような熱い体と違い、今のジェイデンの体温はすっかり落ち着いていた。
体に心地良い締めつけを感じたアリシアが薄っすら目を開くと、目の前にジェイデンの顔が映る。
「……っ」
その顔があまりに美しく、そして嬉しそうに微笑んでいて、思わずドキリと心臓が跳ねた。
ジェイデンはそのままアリシアの目元や頬に、触れるほどの軽い口づけを落としていく。
その間もアリシアの心臓はドキドキと早鐘を打ち、甘い触れ合いに早まる鼓動を抑えることができない。
この気持ちは何? どうしてこんなにも落ち着かないのに……不思議と嫌だと感じないの……?
「貴女が私を受け入れてくれて……これ以上の喜びはございません! 生涯、貴女を大切にすると誓います」
そう言うと、また強くアリシアを抱きしめた。
重なり合ったジェイデンの胸元から、同じ速度で動いている心臓の音が聞こえてくる。
そのことを泣きそうなほど嬉しく思い、アリシアも背中に腕を回してジェイデンの体を寄せる。
「大公、様。私、は……まだ、既婚者です……。ですから、貴方と、一緒には……なれませんっ」
自分で話している言葉なのだがとても重く感じる。
苦しみと罪悪感に胸が強く締めつけられる。
その思いを振り払うように、さらにジェイデンにぎゅっと抱きついた。
結局自分は、あの最低な夫と同じことをしてしまっている。
ずっと離縁が成立していたと思っていた。しかし元夫は離縁届を出していなかった。
またあの地獄のような生活に戻らなくてはならない。
もう二度と、あんな場所に戻りたくないのにっ!
アリシアの心の叫びは言葉にすることはなく、ただジェイデンの胸に縋りつき、我慢することしかできなかった。
「――大丈夫です」
キツく瞳を閉じていたアリシアの頭上から、穏やかな声が聞こえる。
「貴女が心配することなど、何もありません」
顔を上げた視線の先には、微笑むジェイデンの笑顔があった。
「ですが! 私はっ――」
「貴女はすでに自由の身です。……あの男が虚言を吐き、貴女を離すまいと惑わしていただけです。すでにバァルクハイム子爵家は当主も交代し、貴女の夫だった男も、貴女を侮辱した罪でご両親とともに片田舎へ移りました」
「――え……?」
微笑みながら淡々と話しているジェイデンをなぜか怖く感じる。
微笑んでいるのに、目が笑っていないように感じる。
いつの間に、そんな話が進んでいたのだろう。
あの夫やその両親が片田舎へ移り住むなど、とても考え難い。
家が傾いても、貴族だというプライドだけで成り立っていた人間たちだったのに、それが首都を離れて田舎などへと――
「しかし……私を、侮辱した罪など、大したことでは……」
「アリシアさん。貴女は非常に神聖な存在なのです」
「し、神聖?」
「えぇ。貴女の持つその体質は、聖なる者の証なのです」
「聖なる、もの……?」
アリシアは何を言われているのかわからない。
だが疑問は残るものの、アリシアがあの元夫と離縁できていたという事実には安心した。
「これから、貴女の地位は私より高くなります」
「は……い? 大公様より……??」
「そうです。貴女は神殿へ属し、その地位は皇帝陛下と同等に扱われます」
「なッ!! こ、皇帝陛下とっ!?」
「……えぇ」
驚きに声を荒らげるアリシアと反対に、ジェイデンの表情は固い。
「アリシアさん。私は貴女を愛しています」
「――っ!」
ジェイデンの一言に困惑していたアリシアの表情が一変し、途端に顔を上気させる。
「貴女が聖なる者だと認められ、神殿へ属してしまえば……私は貴女を……手放さなくてはならなくなりますっ」
いつも余裕を見せ、アリシアのことなど関係ないかのように話を進めていたジェイデンが、アリシアの様子を窺うように慎重に話している。
「私は、貴女を離したくありません!! 貴女と共に生涯を歩んでいきたいのです! ですからお願いいたします! アリシアさん……私を選んでいただけませんか?」
端正な顔を苦しそうに歪め、アリシアに捨てられまいと必死の様子で話しているジェイデン。
近頃ジェイデンが同じような台詞を言っていたことをアリシアは不意に思い出した。
あの時は何を言われているのかさっぱりわからなかったが、今の話を聞き、どうしてジェイデンがあんなことを言ったのかようやく繋がった。
アリシアは瞳を大きく開き、現実味のない話を次々と進められ、どうにか理解しようとしていた。
アリシアもしばらく放心状態でベッドに肢体を投げ出していた。
「アリシアさん……」
静まり返った室内にジェイデンの声が響く。
そしてベッドの上で余韻に震えているアリシアの体を抱き寄せた。
抱かれる前の燃えるような熱い体と違い、今のジェイデンの体温はすっかり落ち着いていた。
体に心地良い締めつけを感じたアリシアが薄っすら目を開くと、目の前にジェイデンの顔が映る。
「……っ」
その顔があまりに美しく、そして嬉しそうに微笑んでいて、思わずドキリと心臓が跳ねた。
ジェイデンはそのままアリシアの目元や頬に、触れるほどの軽い口づけを落としていく。
その間もアリシアの心臓はドキドキと早鐘を打ち、甘い触れ合いに早まる鼓動を抑えることができない。
この気持ちは何? どうしてこんなにも落ち着かないのに……不思議と嫌だと感じないの……?
「貴女が私を受け入れてくれて……これ以上の喜びはございません! 生涯、貴女を大切にすると誓います」
そう言うと、また強くアリシアを抱きしめた。
重なり合ったジェイデンの胸元から、同じ速度で動いている心臓の音が聞こえてくる。
そのことを泣きそうなほど嬉しく思い、アリシアも背中に腕を回してジェイデンの体を寄せる。
「大公、様。私、は……まだ、既婚者です……。ですから、貴方と、一緒には……なれませんっ」
自分で話している言葉なのだがとても重く感じる。
苦しみと罪悪感に胸が強く締めつけられる。
その思いを振り払うように、さらにジェイデンにぎゅっと抱きついた。
結局自分は、あの最低な夫と同じことをしてしまっている。
ずっと離縁が成立していたと思っていた。しかし元夫は離縁届を出していなかった。
またあの地獄のような生活に戻らなくてはならない。
もう二度と、あんな場所に戻りたくないのにっ!
アリシアの心の叫びは言葉にすることはなく、ただジェイデンの胸に縋りつき、我慢することしかできなかった。
「――大丈夫です」
キツく瞳を閉じていたアリシアの頭上から、穏やかな声が聞こえる。
「貴女が心配することなど、何もありません」
顔を上げた視線の先には、微笑むジェイデンの笑顔があった。
「ですが! 私はっ――」
「貴女はすでに自由の身です。……あの男が虚言を吐き、貴女を離すまいと惑わしていただけです。すでにバァルクハイム子爵家は当主も交代し、貴女の夫だった男も、貴女を侮辱した罪でご両親とともに片田舎へ移りました」
「――え……?」
微笑みながら淡々と話しているジェイデンをなぜか怖く感じる。
微笑んでいるのに、目が笑っていないように感じる。
いつの間に、そんな話が進んでいたのだろう。
あの夫やその両親が片田舎へ移り住むなど、とても考え難い。
家が傾いても、貴族だというプライドだけで成り立っていた人間たちだったのに、それが首都を離れて田舎などへと――
「しかし……私を、侮辱した罪など、大したことでは……」
「アリシアさん。貴女は非常に神聖な存在なのです」
「し、神聖?」
「えぇ。貴女の持つその体質は、聖なる者の証なのです」
「聖なる、もの……?」
アリシアは何を言われているのかわからない。
だが疑問は残るものの、アリシアがあの元夫と離縁できていたという事実には安心した。
「これから、貴女の地位は私より高くなります」
「は……い? 大公様より……??」
「そうです。貴女は神殿へ属し、その地位は皇帝陛下と同等に扱われます」
「なッ!! こ、皇帝陛下とっ!?」
「……えぇ」
驚きに声を荒らげるアリシアと反対に、ジェイデンの表情は固い。
「アリシアさん。私は貴女を愛しています」
「――っ!」
ジェイデンの一言に困惑していたアリシアの表情が一変し、途端に顔を上気させる。
「貴女が聖なる者だと認められ、神殿へ属してしまえば……私は貴女を……手放さなくてはならなくなりますっ」
いつも余裕を見せ、アリシアのことなど関係ないかのように話を進めていたジェイデンが、アリシアの様子を窺うように慎重に話している。
「私は、貴女を離したくありません!! 貴女と共に生涯を歩んでいきたいのです! ですからお願いいたします! アリシアさん……私を選んでいただけませんか?」
端正な顔を苦しそうに歪め、アリシアに捨てられまいと必死の様子で話しているジェイデン。
近頃ジェイデンが同じような台詞を言っていたことをアリシアは不意に思い出した。
あの時は何を言われているのかさっぱりわからなかったが、今の話を聞き、どうしてジェイデンがあんなことを言ったのかようやく繋がった。
アリシアは瞳を大きく開き、現実味のない話を次々と進められ、どうにか理解しようとしていた。
11
お気に入りに追加
587
あなたにおすすめの小説
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる