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愛の告白

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 ジェイデンも欲望を解放した疲れからか、乱れた呼吸を整えるようにアリシアに覆い被さった。
 アリシアもしばらく放心状態でベッドに肢体を投げ出していた。

「アリシアさん……」

 静まり返った室内にジェイデンの声が響く。
 そしてベッドの上で余韻に震えているアリシアの体を抱き寄せた。
 抱かれる前の燃えるような熱い体と違い、今のジェイデンの体温はすっかり落ち着いていた。
 体に心地良い締めつけを感じたアリシアが薄っすら目を開くと、目の前にジェイデンの顔が映る。
 
「……っ」

 その顔があまりに美しく、そして嬉しそうに微笑んでいて、思わずドキリと心臓が跳ねた。
 ジェイデンはそのままアリシアの目元や頬に、触れるほどの軽い口づけを落としていく。
 その間もアリシアの心臓はドキドキと早鐘を打ち、甘い触れ合いに早まる鼓動を抑えることができない。

 この気持ちは何? どうしてこんなにも落ち着かないのに……不思議と嫌だと感じないの……?

「貴女が私を受け入れてくれて……これ以上の喜びはございません! 生涯、貴女を大切にすると誓います」

 そう言うと、また強くアリシアを抱きしめた。
 重なり合ったジェイデンの胸元から、同じ速度で動いている心臓の音が聞こえてくる。
 そのことを泣きそうなほど嬉しく思い、アリシアも背中に腕を回してジェイデンの体を寄せる。

「大公、様。私、は……まだ、既婚者です……。ですから、貴方と、一緒には……なれませんっ」

 自分で話している言葉なのだがとても重く感じる。
 苦しみと罪悪感に胸が強く締めつけられる。
 その思いを振り払うように、さらにジェイデンにぎゅっと抱きついた。
 結局自分は、あの最低な夫と同じことをしてしまっている。
 ずっと離縁が成立していたと思っていた。しかし元夫は離縁届を出していなかった。
 またあの地獄のような生活に戻らなくてはならない。
 
 もう二度と、あんな場所に戻りたくないのにっ! 

 アリシアの心の叫びは言葉にすることはなく、ただジェイデンの胸に縋りつき、我慢することしかできなかった。

「――大丈夫です」

 キツく瞳を閉じていたアリシアの頭上から、穏やかな声が聞こえる。

「貴女が心配することなど、何もありません」

 顔を上げた視線の先には、微笑むジェイデンの笑顔があった。

「ですが! 私はっ――」
「貴女はすでに自由の身です。……あの男が虚言を吐き、貴女を離すまいと惑わしていただけです。すでにバァルクハイム子爵家は当主も交代し、も、貴女を侮辱した罪でご両親とともに片田舎へ移りました」
「――え……?」

 微笑みながら淡々と話しているジェイデンをなぜか怖く感じる。
 微笑んでいるのに、目が笑っていないように感じる。
 いつの間に、そんな話が進んでいたのだろう。
 あの夫やその両親が片田舎へ移り住むなど、とても考え難い。
 家が傾いても、貴族だというプライドだけで成り立っていた人間たちだったのに、それが首都を離れて田舎などへと――

「しかし……私を、侮辱した罪など、大したことでは……」
「アリシアさん。貴女は非常に神聖な存在なのです」
「し、神聖?」
「えぇ。貴女の持つその体質は、聖なる者の証なのです」
「聖なる、もの……?」

 アリシアは何を言われているのかわからない。
 だが疑問は残るものの、アリシアがあの元夫と離縁できていたという事実には安心した。
 
「これから、貴女の地位は私より高くなります」
「は……い? 大公様より……??」
「そうです。貴女は神殿へ属し、その地位は皇帝陛下と同等に扱われます」
「なッ!! こ、皇帝陛下とっ!?」
「……えぇ」

 驚きに声を荒らげるアリシアと反対に、ジェイデンの表情は固い。

「アリシアさん。私は貴女を愛しています」
「――っ!」

 ジェイデンの一言に困惑していたアリシアの表情が一変し、途端に顔を上気させる。

「貴女が聖なる者だと認められ、神殿へ属してしまえば……私は貴女を……手放さなくてはならなくなりますっ」

 いつも余裕を見せ、アリシアのことなど関係ないかのように話を進めていたジェイデンが、アリシアの様子を窺うように慎重に話している。

「私は、貴女を離したくありません!! 貴女と共に生涯を歩んでいきたいのです! ですからお願いいたします! アリシアさん……私を選んでいただけませんか?」

 端正な顔を苦しそうに歪め、アリシアに捨てられまいと必死の様子で話しているジェイデン。
 近頃ジェイデンが同じような台詞を言っていたことをアリシアは不意に思い出した。
 あの時は何を言われているのかさっぱりわからなかったが、今の話を聞き、どうしてジェイデンがあんなことを言ったのかようやく繋がった。
 アリシアは瞳を大きく開き、現実味のない話を次々と進められ、どうにか理解しようとしていた。

 
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