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ジェイデン視点(裁きの時)
しおりを挟む遡ること、数日前。
カツン、カツン、カツン……。
螺旋状に下まで続く薄暗い階段。等間隔に燭台が灯り、薄暗い足元を照らしている。
ゆっくりと下へと降りていくジェイデンの表情は険しい。
辺りには反響する足音が不気味に響いていた。
ここは王宮の地下牢。
様々な罪を犯した犯罪者達が収監されている。
ジェイデンがここへ足を踏み入れることは滅多にない。
そんな薄汚い地下牢を険しい顔で真っ直ぐ進んでいく。
その独房の一室に、アリシアの元夫であるジムが投獄されていた。
ジムの檻の前で足を止めると、ジェイデンの表情がさらに憎しみのこもった顔ヘと変化する。
ジムは両手を広げた状態で上から鎖に繋がれて膝をついていた。
ジェイデンが痛めつけた顔もまだ傷付き、片目は青黒くなり大きく腫れ上がっていた。
ジェイデンは檻の鍵を開け、中へと入る。
ジムは気を失っているのか、ジェイデンには気づいていない様子。
ジムの前に立ったジェイデンの瞳孔が見る間に細く変化していく。
「……起きろ」
静かに開かれた口から、凍えるような冷ややかな声が漏れる。
ジムの繋がれていた手がピクッと動き、わずかに反応する。
「ぅ……」
ジムの前で腕を組んだジェイデンは、意識が朦朧としているジムに関係なく話しかけた。
「貴様がアリシアにしでかしたことを考えれば、八つ裂きにしても足りない。……だが、その権利は上皇陛下にお譲りした。光栄に思え……あの『金色の閃光』と名高い上皇陛下に、直接手を下してもらえるのだからな……」
冷淡な顔で見下ろしているジェイデンだが、話し終えたあと悔しそうな表情に変わっていた。
「ヴァルクハルム子爵家の財産と領地はすべて帝国が没収し、ヴァルクハルム家の者は全員処刑される。貴様と貴様が関係を持った妾や愛人どもも……アリシアを苦しめてきた者たちは、皆同じ運命を辿ることとなるだろう」
今度は薄っすらと笑みを浮かべた。
だがゆっくりと腫れた顔を上げたジム見ると、ジェイデンはまた冷ややかな表情に変わる。
「……な、ぜ……です……」
「何故? そんなことを説明しなければならないほど愚かだとはなッ。貴様がアリシアを苦しめてきた報いだ! 身を持って思い知るがいいッ!!」
ギリッと歯ぎしりをし、青筋を立てジェイデンは拳を握りしめている。
「ど、して……あ、れのためにっ……俺が!」
「あれだとぉッ!!」
「――ガァッ!!」
刹那、カッとしたジェイデンは怒涛の勢いでジムの首を片手で締めた。
「ぐっ!……かっ……は!」
両手を繋がれているジムはなんの抵抗もできず、苦しそうに鎖を揺らし藻掻いていた。
「初めから、私が始末しておけばッ……!! 貴様のような下衆に、アリシアが苦しめられていたのかと思うと、腸が煮えくり返る思いだッ!!」
「ふ、グッ!」
首を振りジェイデンの手から逃れるようにジムは抵抗していたが、次第に顔色が悪くなっていく。
「チッ!」
失神する寸前で手を離した。
本当ならこのまま息の根を止めたかったが、こんな呆気なく殺してしまってはアリシアに申し訳がたたない。
ジェイデンは暴走しそうになる本能をどうにか押し止めた。
ジムは酸素を求めるように、涙と涎を垂らしながら必死で呼吸をしている。
「貴様の処分はローガン上皇陛下に任せる。その代わりアリシアとの仲を認めてもらった。貴様のような奴がアリシアに触れていたかと思うと、心の底から怒りが込み上げてくるッ!!」
息を乱し、自分の感情を吐き出すようにジェイデンは激昂する。
こんな男とアリシアが数年も夫婦関係でいたと、考えたくもなかった。
「……て、ない」
「なんだと……?」
「ふ……れて、ない。……あんな、女……抱く気も……起きなかった……」
「――!」
苦しそうに呼吸を整えていたジムの口から、意外な事実が発言された。
この下衆男がアリシアを抱いていない。ということは、ジェイデンが初めてアリシアと出会い、症状に苦しみ抱いた時がアリシアの…………
「クククッ……!」
片手で口元を覆い、ジェイデンは抑えきれない歓喜を笑みを漏らす。
それと同時に、夫に暴力を振るわれ、初夜すら迎えられなかったアリシアを思い、また怒りが込み上げる。
「――やはり貴様は救いようのないクズだ。ただ、アリシアに手を出さなかったことだけは褒めてやろう。……あとは上皇陛下に存分に可愛がってもらえ。私が始末したほうが、よほどマシだったと、あとで後悔するだろう……」
ジムを一瞥し、ジェイデンはその場を後にした。
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