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重なる不幸
しおりを挟む何故ジムが、ここに……!
ジムを見た瞬間、アリシアはパッと物陰に隠れた。
幸いにも向こうはアリシアに気付いていない。
バクバクと心臓が嫌なほど早く動いている。顔を見ることすら強い拒絶反応が起こる。
自分はよくあんな男といたのだと、今さらながら思う。
だめッ!ここにはいれない!
アリシアはそっと会場を抜け出した。
逃げるように走り、どうにか真っ暗な庭園の方までやってきた。
「はぁっ、……はぁっ……」
全速力で走ったからか、息が切れる。
そのまま庭園に併設されているベンチに腰掛け、自分の体を抱きしめた。
自分を落ち着かせるように震える体を両手で擦った。
見つからなくて良かった……もうあんな人、二度と会いたくないっ……!
久しぶりに見た元夫が酷く醜く見えた。
日々ジェイデンやロウエンといった美しい男達を見ていたせいか、自分の目が肥えてしまったのかもしれない。
元々嫌いだったが、今では嫌悪感と拒絶感しかない。
しばらくアリシアは庭園のベンチに座り、体を抱きしめたまま気持ちを落ち着かせていた。
そろそろ……戻らないといけないわ……。
このまま、部屋へ戻っていてはダメかしら……私がいても、意味などないのだし……。
ジェイデンはアリシアに会場にいてくれと言っていた。だからアリシアもああして壁際で待機していたのだ。
飲み物をジェイデンに渡し、たまに身なりを整えるくらいしか役どころがない。
元夫にも会いたくないし、ジェイデンが他の女性と踊っているのも見たくなかった。
深いため息を吐きながら、アリシアは立ち上がった。
見上げると夜空には星が瞬き、半分に欠けた月も出ている。こんなにも綺麗な月夜なのに、アリシアの心は真っ暗闇で満たされていた。
とぼとぼと来た道を戻っていた。
何日も皇宮に滞在していて、中の通路も迷わず戻れるようになっていた。
「オイッ!そこのお前っ!」
「ッ!!」
突然かけられた怒鳴り声。
心臓が再びバクバクと早く動く。
忘れもしないこの高圧的な言葉。
元夫のジムだ。
咄嗟に俯き、アリシアはガタガタと震えだした。
「今すぐ酒を持って来いっ!さっさとしろぉっ!」
ジムは一人だった。先ほどまでいた愛人の姿が見えない。すでに酔っ払っていて、呂律も怪しくなっていた。
こうなるとさらにジムの手が早くなる。子爵家では手に負えない状態だった。
「ったく!どいつもこいつもぉッ!俺を、バカにしやがってぇー!」
苛立っているのか、空になったグラスを思うまま地面に叩きつけた。
ガッシャーンッ!!
粉々に砕けたグラスが四方に飛び散り散乱した。
「ヒッ!」
条件反射で咄嗟に体を竦めた。
その反応を見たジムは何かに気付いたように、ふらふらとアリシアに近づく。
「ん?お、まえ……」
アリシアは怖くて足が動かない。
呼吸も荒く、冷や汗をかいて体中の力が抜けてしまいそうだった。
かろうじて後退りをし、距離を取るが、ジムは手を伸ばしてアリシアの被っていた頭飾りを力任せに掴んだ。
「キャッ!」
「……やっぱりな。お前か、アリシア!」
「ッ!」
酩酊としているジムは皮肉げな顔でアリシアを見ていた。
持っていた頭飾りを地面に投げ、震えているアリシアの手首を掴んだ。
「い、嫌ッ!は、離してッ!」
「このっ!アリシアの分際で騒ぐなッ!!」
バシンッ!!
思い切り平手で頬を叩かれた。
久しぶりに味わう絶望感と鋭い痛み。
「お前のせいだ!俺が馬鹿にされるのもっ!家が傾いたのもッ!!お前が勝手に出て行ったからだろうがッ!!」
酔っ払っているのか、ジムの言っていることはめちゃくちゃだった。
むしろ出て行けと離縁書を渡したのはジムの方だ。
それをアリシアのせいにしている。
「俺に相手にされないから、わざと出て行ったんだろ!?お前なんて相手にしたくもないが、そこまで俺が恋しいのか?……まぁ、ちょうどいい。来いっ!!」
「痛ッ……」
掴まれた手首を強引に引っ張り、引き摺るように庭園近くにある部屋まで連れて行く。
「やぁ!い、やっ!やめてっ!あなたとは、もう関係ないのっ!!触らないで!!」
アリシアは扉の前で精一杯暴れて反抗的する。
そこでまたジムはカッとなりアリシアの髪をグッと掴む。
「痛いッ!!」
「大人しくしろっ!俺が相手してやるって言ってんだ!お前もずっと願っていただろ?!」
「なっ……!」
「連れてきた女が大公の方がいいって、俺をバカにしやがったんだ!むしゃくしゃしてたが、ちょうど良くお前がいたからな……」
アリシアの体がさらにガタガタと震える。
この男は何を言ってるのか。
あれほどアリシアを毛嫌いして、家にいた時は暴力を振るうだけで見向きもしなかったのに。
今になって自分の都合でアリシアに手を出そうとしている。
ぐいっと手首を引っ張り、扉を開けてアリシアを部屋へと連れ込んだ。
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