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舞踏会
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アリシアが王宮に来てから初めて、舞踏会が開かれた。
昔も今もアリシアは舞踏会に出たことはない。子爵家にいた時ですら夫のジムがアリシアを同伴することを嫌がり、殆どのパーティや舞踏会に出席したことはなかった。
この日も、アリシアは舞踏会に出ることもなく、侍女として会場の隅からジェイデンを眺めていた。
王宮舞踏会は他の貴族が主催するものとは全く違い、豪華絢爛で他の貴族達もこぞって着飾り、会場は熱気と人で溢れ返っていた。
ジェイデンは沢山の女性に囲まれていた。
それをずっと遠くから見ていたアリシアは、煌びやかな光景を前に思っていた。
早く、ローさんの庭園に行きたいな……。
子爵家にいた時は、こうしたパーティや舞踏会に憧れをもっており、夫と共に出席することを夢見ていた。別に夫がどうとかではなく、ただそれが子爵夫人としての地位を証明できるという自分なりの満足感だったのかもしれない。
実際夫は若い愛人と出席しており、周りからの評判も気にせず自慢していたらしい。これは知り合いの御婦人方から聞いた話だ。
今思えば何と馬鹿らしい。
自分が何に固執していたのか……だが、その当時は聞かさせる度に悔しく思い、話を聞く度に夫に詰め寄り、そしてまた暴力を受けていた。
離縁して良かったと、今、改めて思う。
自分が求めていた世界はこんな場所ではなく、もっと別にあったのだ。
ずっと汚れた世界にいて忘れていた。いや……この世界に染まらなくていけないのだと、見て見ぬ振りをしていたのかもしれない。
ぼんやりと見ていた視界の先では、ジェイデンが女性と楽しそうに踊っている。
それを見ていたアリシアは、何となく自分の心がモヤモヤしているのを感じる。
ジェイデンがどんな女性と踊っていようと関係ないのだが、自分にもわからないこのモヤモヤした違和感が拭い去れなかった。
大公様も難儀な人よね。皇帝陛下の事を想ってらっしゃるのに、こうして沢山の女性と踊らなければならないのだから……。
最近ではジェイデンに呼ばれる事も多く、その関係かロウエンとも度々顔を合わせていた。
よく分からないがロウエンはアリシアを気に入ったようで、会うと声を掛けられていた。そしてその度に、ジェイデンがアリシアとロウエンの間を割るように入って来ていたのだ。
きっと、皇帝陛下が私と話しているのが気に入らないのよね。だって大公様は皇帝陛下を……。
いつしかアリシアの中で、ジェイデンは可哀想な人という認識になっていた。
ロウエンはすでに結婚していて世継ぎもいる。
一方、ジェイデンは独り身を貫き、愛するロウエンの補佐をするため、頻繁に王宮へと出入りしていた。そんな形でしかロウエンと共に居れないからなのだろう。
アリシアにはジェイデンが憐れで仕方なかった。
添い遂げられない運命の愛。呪いの為に好きでもない女を抱かなくてはならない。
その全ての要因がアリシアをそう認識させていた。
ただ、そのおかげか、最近ではジェイデンに抱かれる抵抗感が薄れてきた。
だからといって抱かれる事を容認している訳ではなく、仕方ないという諦めに近い気持ちになってきたいた。
「次はわたくしが大公様と踊りますわっ」
「こうしてお目に掛かれるなんて……本当に素敵ね……」
「ほぅ……いつ見ても麗しいお方。一度でいいから、夜を共にしたいわ……」
「あの方に見初められるよう、もっとお近づきにならなくてはいけませんわ」
まるで順番待ちでもしているように、他のご令嬢方はジェイデンが踊り終わるのを、今が今かと心待ちにしている。
どんなに待っても努力しても、大公様の気持ちが変わる事はないのに……。
物思いにふけながら、アリシアはそんな事ばかり考えていた。
キラキラして華やかで一度でも良いから、行ってみたいと思っていた。あれほど憧れていた舞踏会とは、こんなにも味気ないものだったのかとがっかりする。
早く終わらないかと、そればかり考えていた。
そんなアリシアの視界に、一人の男性が映る。
「――!!」
忘れたくても忘れられない、今では嫌悪感しか残っていない。
変わらず若い女性を隣に連れ、締まりのないだらしない顔をしている。
元夫のジムだった。
昔も今もアリシアは舞踏会に出たことはない。子爵家にいた時ですら夫のジムがアリシアを同伴することを嫌がり、殆どのパーティや舞踏会に出席したことはなかった。
この日も、アリシアは舞踏会に出ることもなく、侍女として会場の隅からジェイデンを眺めていた。
王宮舞踏会は他の貴族が主催するものとは全く違い、豪華絢爛で他の貴族達もこぞって着飾り、会場は熱気と人で溢れ返っていた。
ジェイデンは沢山の女性に囲まれていた。
それをずっと遠くから見ていたアリシアは、煌びやかな光景を前に思っていた。
早く、ローさんの庭園に行きたいな……。
子爵家にいた時は、こうしたパーティや舞踏会に憧れをもっており、夫と共に出席することを夢見ていた。別に夫がどうとかではなく、ただそれが子爵夫人としての地位を証明できるという自分なりの満足感だったのかもしれない。
実際夫は若い愛人と出席しており、周りからの評判も気にせず自慢していたらしい。これは知り合いの御婦人方から聞いた話だ。
今思えば何と馬鹿らしい。
自分が何に固執していたのか……だが、その当時は聞かさせる度に悔しく思い、話を聞く度に夫に詰め寄り、そしてまた暴力を受けていた。
離縁して良かったと、今、改めて思う。
自分が求めていた世界はこんな場所ではなく、もっと別にあったのだ。
ずっと汚れた世界にいて忘れていた。いや……この世界に染まらなくていけないのだと、見て見ぬ振りをしていたのかもしれない。
ぼんやりと見ていた視界の先では、ジェイデンが女性と楽しそうに踊っている。
それを見ていたアリシアは、何となく自分の心がモヤモヤしているのを感じる。
ジェイデンがどんな女性と踊っていようと関係ないのだが、自分にもわからないこのモヤモヤした違和感が拭い去れなかった。
大公様も難儀な人よね。皇帝陛下の事を想ってらっしゃるのに、こうして沢山の女性と踊らなければならないのだから……。
最近ではジェイデンに呼ばれる事も多く、その関係かロウエンとも度々顔を合わせていた。
よく分からないがロウエンはアリシアを気に入ったようで、会うと声を掛けられていた。そしてその度に、ジェイデンがアリシアとロウエンの間を割るように入って来ていたのだ。
きっと、皇帝陛下が私と話しているのが気に入らないのよね。だって大公様は皇帝陛下を……。
いつしかアリシアの中で、ジェイデンは可哀想な人という認識になっていた。
ロウエンはすでに結婚していて世継ぎもいる。
一方、ジェイデンは独り身を貫き、愛するロウエンの補佐をするため、頻繁に王宮へと出入りしていた。そんな形でしかロウエンと共に居れないからなのだろう。
アリシアにはジェイデンが憐れで仕方なかった。
添い遂げられない運命の愛。呪いの為に好きでもない女を抱かなくてはならない。
その全ての要因がアリシアをそう認識させていた。
ただ、そのおかげか、最近ではジェイデンに抱かれる抵抗感が薄れてきた。
だからといって抱かれる事を容認している訳ではなく、仕方ないという諦めに近い気持ちになってきたいた。
「次はわたくしが大公様と踊りますわっ」
「こうしてお目に掛かれるなんて……本当に素敵ね……」
「ほぅ……いつ見ても麗しいお方。一度でいいから、夜を共にしたいわ……」
「あの方に見初められるよう、もっとお近づきにならなくてはいけませんわ」
まるで順番待ちでもしているように、他のご令嬢方はジェイデンが踊り終わるのを、今が今かと心待ちにしている。
どんなに待っても努力しても、大公様の気持ちが変わる事はないのに……。
物思いにふけながら、アリシアはそんな事ばかり考えていた。
キラキラして華やかで一度でも良いから、行ってみたいと思っていた。あれほど憧れていた舞踏会とは、こんなにも味気ないものだったのかとがっかりする。
早く終わらないかと、そればかり考えていた。
そんなアリシアの視界に、一人の男性が映る。
「――!!」
忘れたくても忘れられない、今では嫌悪感しか残っていない。
変わらず若い女性を隣に連れ、締まりのないだらしない顔をしている。
元夫のジムだった。
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