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悔恨
しおりを挟む結局帰り道、アリシアは迷子になった。
城の付近まではご老人に案内されたが、そこから後はどうやって来たのか全く覚えておらず、近くにいた皇宮の使用人に事情を説明し、ジェイデンの部屋の近くまで案内してもらった。
そこから数日間、ジェイデンに呼ばれる事のないアリシアは、次の日も、その次の日も…、そのご老人の庭園へと足を運んだ。
心が荒んでいたアリシアにとって、ご老人と話す時だけは唯一穏やかで楽しい時間だった。
「今日のお茶の味はどうだい?アリー」
「んっ…!美味しいですっ。これは…もしや、ルビオの茶葉ですか?」
「はははっ、アリーの舌には負けるよ。良くわかったね」
「ルビオの花の香りがしました」
「いい香りだろ?今の時期しか飲めないお茶なんだよ」
この日も、外付けされている庭園のテーブルセットで話しながら二人でお茶を楽しんでいた。
アリシアはご老人と沢山の話をした。
「あの、ローさんは…どうしてこちらで、お仕事をされてるんですか?」
「…わたしかい?」
「こんな広いお庭を手入れするのは、大変ですよね…?」
「ここはね…、わたしの思い出の庭なんだよ…」
「思い出?」
「あぁ…。まだわたしが若かった頃…、妻が好んで来ていたのが、この庭なんだ」
持っていたカップをテーブルの上に置き、ご老人…ローは美しく咲き誇る庭園を見渡した。
「奥様が…」
「その頃のわたしはね、わからなかったんだよ」
「わからない?」
「うん。わたしもね、忙しさにかまけて…中々妻を構ってあげられなかった…。彼女が寂しい思いをしていたのはわかっていたのに、彼女の優しさに甘えてたのさ…。ようやく落ち着いた時には、彼女は死の間際だった…」
「──え…?」
「そんなになるまで放っておくなんてバカだろ?彼女は、わたしに心配をかけまいと、ずっと無理して報せなかったのさ…。その時に、初めて気づいたんだよ。そういえば、最後に妻と話したのはいつだろうって…。彼女とお茶を飲んだのは?彼女の笑顔を見たのは…?ってね。……今、こうしてわたしが一人でいるのも、結局は自分のせいなのさ」
ローの金色の瞳は哀しみに溢れていて、その表情には後悔するような寂しさが漂っていた。
「失ってから気づいたって遅いんだよ。生きてる間に、もっと彼女との時間を大切にすれば良かったなんてさ…」
「ローさん…」
哀愁の漂うローの姿に、話を聞いていたアリシアの心が痛んだ。
愛する者を失う気持ちはアリシアにはわからないが、ローの気持を思うと自分の事のように悲しくなった。
「君は似てるんだ」
「はい?」
突然話を振られ、アリシアは驚く。
「わたしの妻にね」
「お、奥様にですか?そんな…、申し訳ないです。私なんて…」
「君は十分可愛らしいよ。それに君の笑顔を見ていると、とても癒やされる」
「や……いえ……」
冗談で言われているのだろうが、こういった言葉に慣れていないアリシアは、それだけで顔が赤くなっていく。
「はははっ、やはりアリーは可愛いね。初々しくて、染まってない感じがとてもいいよ。わたしがあと30年若ければ、すぐに口説いていたさっ」
先ほどと打って変わり、ローは笑顔を見せた。からかわれているとわかり、アリシアもふっと笑う。
「ローさんたらっ、冗談が過ぎますよ」
「いやいや、本心だよ」
「ふふっ、わかりました」
ここにいる時だけは楽しく時間が流れ、アリシアも穏やかに過ごせていた。
だが次の日、ジェイデンに呼び出される。
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