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理不尽

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 ある日、アリシアはジェイデンに呼び出された。

「え…?わ、たしが…ですか?」

 呼びに来たのは侍女長だった。

「早くなさい。旦那様をお待たせしてはなりません」

「ッ、はい…」

 洗濯物を干していたアリシアは、その足で急ぎジェイデンの元へと向かった。

 いつもなら、訪れる事のない部屋。
 
 扉の前で、アリシアはノックを躊躇う。
 
 大公様が私を呼ぶ用事など、無いはず…。
 なのにどうして…。

 一抹の不安を抱え、呼ばれたからには拒否も出来ない。
 軽く扉をノックし、中へと入った。
 
 書斎の机にはジェイデンが腰を掛け、その右隣にはジェイデンの最側近である、ブルーノが立っていた。
 
「失礼致します。…何か、お呼びでございますか?」

 穏やかに微笑んでいるジェイデンと違い、強面のブルーノがアリシアは苦手だった。
 ニコリともしないブルーノと話す機会などまずないが、この氷のような冷たい瞳で見られると、身体が強張る。

 短い金髪に青い瞳…、この特徴が夫の色と同じだった。加えて、高圧的な眼差しが更に似ている。
 顔の造りでいえば、ブルーノの方が数倍上だが、それはアリシアには関係なかった。

「お呼び立てして申し訳ございません。突然なのですが、私と共に皇宮へと行っていただきます」

 微笑んでいるジェイデンは普通に話していたが、言われた内容は普通ではなかった。
 
「……はい?」

 用件はわかったが、なぜなのかがまるでわからない。
 アリシアは立ったまま、困惑する。

 私が…、皇宮へ?
 何のために…。
 
「明日の朝、入宮する。いつでも出られるよう、準備をすませておけ」

「…ッ、しかし…」

「口答えはいらない。お前は言われた通り、準備を整えればいいっ」

「──」

 相変わらずブルーノの高圧的な態度に、アリシアは立ったままスカートのエプロンをグッと握り締めた。 

 胸の中に澱むように渦巻くものを感じる。
 この手の男がアリシアは一番嫌いだった。
 
 親族を人質に取られているアリシアに、これ以上の文句は言えない。
 感情よりも理性を優先し、仕事だと割り切るしかなかった。アリシアが選べるものなど、ここには存在しないからだ。 
 ふつふつと湧く憤りを、どうにか飲み込んだ。

「かしこまりました…。では、失礼致します」
 
 アリシアの顔から、スッ…と感情が消える。
 
 ジェイデンの部屋の扉をパタリと閉め、一刻も早くこの場から離れたくて、走って部屋まで戻った。

 

 自分の部屋まで戻って、ベッドに拳を叩きつける。

 悔しいっ…!悔しい、悔しいっ!!

 金で全てを解決しようとする男、女を道具としか見ていない男、口答えするなと威圧的に話す男…。

 男なんて、男なんてッ…、大っ嫌いッ…!!

 ボンッとまたベッドに拳を叩きつけた。
 何故、自分ばかりが理不尽な要求をされなければならないのか…。

 込み上げる怒りの矛先を、罪のないベッドに向ける事しかできなかった。


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