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言いがかり

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 ローとの日々を楽しく過ごす一方で、どうしても皇宮の陛下の宮を通らなければならず、様子を伺いながら慎重に通るよう心掛けていた。
 ジェイデンはやはり忙しいのか、アリシアが務めを果たす時以外は特に音沙汰もなく、何か言われる事も部屋へ訪れる事もなかった。
 そしてここを通ると、高い確率で皇帝陛下と並ぶジェイデンに遭遇する。
 アリシアなど、目に掛かる事すらできないほど高貴な人々、足を踏み入れる事も憚られる綺羅びやかな宮殿、沢山の騎士や使用人を従え、その中を当たり前のように堂々と歩いている。まさに雲の上の存在。
 それを目の当たりにしたアリシアは、一つの考えに行き着いた。

 ジェイデンはアリシアを見せたくないのだ。

 たとえ大公の侍女を装っていても、見るからに花のない年増の女を隣に連れて歩きたくないから、必要のない時以外部屋から出さないのだろう。
 皇宮で仕える侍女はもちろん、使用人でさえも身なりはきちんしており、名門の家の出で美しい女性が多い。ここでは外見も採用条件に入る。
 
 本当に私は、大公様の症状を抑える為だけに連れて来られたのね。こんなにも多くの女性に求められているのなら、私なんて連れて来なくても、他の方をご所望になればいいのにッ…。

 何かを期待していた訳ではないが、厳しい現実をつきつけられ、心が苦いもので締め付けられる。
 またジェイデン達が通り過ぎるまで柱の影に隠れ、行き場のない憤りを感じていた。
 
 そんな事を考えていたからかもしれないが、油断していたアリシアは考えなしに柱の影から出て廊下を歩き出した。

「まっ!またあなたなの!?」

 背後から声を掛けられ、アリシアはビクッと体を震わせた。
 もう少し人が居なくなってから出れば良かったのだと、今更ながら後悔する。

 ゆっくりと振り返ると、この前見た3人の侍女達だった。

「ここは皇帝陛下のお足元なのよ!何故、あなたのような余所者が勝手に出入りしているの!」
「衛兵を呼んで参りますわ」

 不審者のように引っ捕らえようとする皇宮の侍女達に、アリシアは一層焦る。

「っ!違いますっ、私は…」
「何が違うのかしら?そもそもこちらの宮は、限られた人間しか出入りは許されておりませんのよッ」

 少し離れた対面で、侍女達にキツい口調で言われ睨まれる。

「私はっ…」

 アリシアはここで、自分が大公家の侍女だと名乗ってもいいのか迷った。
 ただでさえ最側近のブルーノには、必要ない時は部屋から出るなと言われていた。

 どうすればっ…!

 咄嗟にアリシアはその場から走り出した。

「あっ!お待ちなさいッ!!」
「逃げたわっ」

 とにかくこの場から逃げ出さなくてはっ!

 騒ぐ侍女達を無視して、全速力で走り出した。

 必死に走って、なんとかローのいる庭園までたどり着いたのだった。


 
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