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ハプニング

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「おや、アリー?息を切らしてどうしたんだい?」

 花の咲き乱れる庭園を急いで駆け抜けた。一刻も早くローに会いたかったからだ。

「はぁ、はぁ…、ごめん…なさい……。はぁ…、見つかって、しまって…」
「見つかる?」
「はい…、実は、私…、部屋から出るなと言われてまして…」

 また庭園のテーブルセットに案内され、ざっくりとローに事情を話した。
 
「そうだったのかい。アリーは大変なんだね」
「いえ、元はと言えば…言い付けを守らない私がいけないんです…」

 お茶も出してもらい、温かい飲み物を飲んだおかげが、気持ちが落ち着いて来た。

「私…、もう、ここには来れないです。また見つかってしまえば、ローさんにもご迷惑をかけてしまいます」
「わたしはいいんだよ。ただ、アリーとこうしてお茶を飲めなくなるのはとても悲しいね…」

 アリシアはポロッと泣き出した。

「アリーっ、急にどうしたんだっ?!」
「だって、私…ローさんとお話するのっ、すごく…楽しみに、してたのにっ…」
「アリー……」

 椅子に座って泣き出すアリシアに、ローは立ち上がってハンカチを差し出した。
 アリシアは泣きながらそれを受け取る。

「ぅっ、くっ…すみ…ま、せん…」
「いいんだよ。わたしはね、嬉しく仕方ないのさ…。こんなに泣いてまで、わたしに会いに来たいなんて言われてね」
「本当、です。私…、これまでで、一番、楽しくてっ…。だから、もう、ここに来れないのが、悔しいっ…」

 まだ嗚咽を漏らし泣いているアリシアの肩をローは抱き寄せた。
 
「アリー、ありがとうっ。もう、こんな思いになる事なんて、無いと思っていたよ…。君のおかげで、わたしもとても楽しかったんだ…」 

 貰ったハンカチを両手で掴み、顔を覆っているアリシアに、ローは優しく諭すように話しかける。

 アリシアも次第に落ち着いて来た。

「すみません、ローさん。みっともなく、取り乱してしまって」

 貰ったハンカチから顔を放し、涙に腫らした目元をゆっくりと出した。

「いいんだよ、アリー」

 ローもアリシアの肩を離し、にこりと笑いかけた。
 
「まだ、ここに滞在するんだろう?機会はいくらでもあるさ。わたしが秘密の抜け道を教えてあげるよ」
「秘密の…抜け道…?」
「そうだよ。これはね…一部の人間しか知らない、秘密の通路なのさ」

 一通り説明されたが、実際に見ていないアリシアには良くわからなかった。
 どうして庭師であるローが、ここまで皇宮の内部に詳しいのか疑問も残る。

「使うかはわかりませんが、まだここに居なければならないんです…。もう、嫌なんですっ…、ただ呼ばれるまで部屋に待機していなければいけないなんてっ!わがままだと言われても仕方ありませんっ。もちろん、ローさんにご迷惑はおかけしません!」

 顔を上げたアリシアが、必死にローに訴える。
 
「もちろん、いつでもおいで。わたしに迷惑なんて考えなくていいんだよ。どうせ老い先短い身だしね」
「縁起でもない事言わないで下さい…。ローさんがいなくなったら、すごく悲しいです…」
「…君に出会えて嬉しいのは、わたしの方なんだよっ。だから……うっ…ぐぅっ…!!」

 突然ローが苦しそうに、胸を押さえてしゃがみ込んだ。

「ローさん?ローさんっ!?」

 しゃがみ込んだローに寄り添うように、アリシアも急いで椅子から立ち上がり様子を伺う。

「ううっ!…くっ!」
 
 顔が真っ青で、呼吸もかなり荒い、冷や汗も酷く、ローはその場に倒れ込んだ。

「ローさん!しっかりしてっ!」

 意識も朦朧としているのか、ローはとても苦しそうにしていて問いかけに反応できていない。

 アリシアは渾身の力でローを何とか支え、家の中のベッドに横たえた。
 だが、ローの容態は一向に良くならない、呼吸が苦しくならないよう、咄嗟にシャツの前を開けた。

「ぐっ…、く、すり…」

 ローは震える手で、棚の上にある瓶を差している。

「薬ですね?!」

 棚にある瓶には固めた薬が何個も入っており、瓶には2粒服用と書かれていた。
 アリシアは薬を手に乗せ、急いで水を汲みローの元へと駆け寄った。

「ローさん薬です!」

 寝ていたローの体を少し起こし、薬を口に入れ、ゆっくりと水を飲ませていく。

「っ、ゴホッゴホッ…!」
「大丈夫ですか?!ローさん!!」
「はぁ、はぁっ…」

 何とか薬は飲んでくれたが、顔色も戻らず予断を許さない状況だ。

「待っててローさんっ!誰か呼んできます!!」

 再びベッドへ寝かせ、アリシアはローの体を少しだけ横に向かせた。もしもの時に吐瀉物が喉に詰まらないようにするためだ。

 そのまま、急いで庭園を走り抜けた。

「あっ!!」

 あまりに急いでいて、落ちていた小石に躓き派手に転んだ。

「つぅ…」
 
 着ていたお仕着せが泥だらけになった。痛みに耐えながら勢いよく起き上がる。膝も擦りむいたのか血が滲んでいた。
 アリシアは気に留めことなく、そのまま皇宮へと走り出した。
 

 

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