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療養と庇護
しおりを挟むそれからアリシアがはっきりと目覚めたのは2日後の事だ。
高熱にうなされ、体の倦怠感や節々の痛みと闘い、意識が安定するまで日数が掛かってしまった。
「お加減は大丈夫ですか?アリシア様」
マリアがお粥と薬湯をお盆に乗せ持ってきた。アリシアは変わらず客間を使わせてもらい、マリアから手厚い看病を受けていた。
「もう大丈夫です。ありがとうございます、マリアさん」
ベッドに横たわったまま、儚げに笑いながら扉から入ってきたマリアの問いに答えた。
「まだ安静にしていなければなりません。貴女は2日も苦しまれていたのですから…」
そしてアリシアが寝ているすぐ横で、椅子に腰掛け様子を伺っているジェイデン。
「は、はい…」
どうして大公殿下が、ここにいらっしゃるのかしら…。正直、あまり顔を合わせたくないのに。
ジェイデンは暇さえあればアリシアの様子を見に客間までやってきていた。
具合も悪く意識も朦朧としていて、細かいところまで気にしていられなかったアリシアは、ジェイデンがいようがいまいが関係なくとりあえず寝ていた。
ジェイデンもアリシアに話しかける訳でもなく、甲斐甲斐しくアリシアのタオルを取り替えたり、汗を拭いたりしてくれていた。
「あ、あの…、大公殿下……」
「はい。何でしょうっ」
やけに嬉しそうに返事を返され、アリシアは返答に困った。ゆっくり上半身を起こし、ベッドに座った状態のままジェイデンの顔を見ないように俯きながら話した。
「体調も良くなりましたし…、そろそろ…こちらをお暇させていただこうかと…」
元々はその晩だけお世話になる予定だった。しかし、予想外の出来事が重なり、結局は3日も長居する事となった。
「なぜです?」
「え…?」
「何故ここを、出て行こうとされているのですか?」
先ほどまでの嬉しそうな表情から一変し、今度は悲しげに端正な顔を歪めている。
「……??」
今日、改めてジェイデンと話したアリシアだが、ジェイデンは全く掴み所のない人物だった。
アリシアとしては体調も回復したので、予定通り修道院へ向かおうと思っていた。
「私の…体調のせいで、ご迷惑をお掛けした事にはお詫び申し上げます。今は、お返しする物もございませんが、必ず…」
「見返りを求めているわけではありません。私は、何故出て行こうとしているのか聞いているのです」
「それは…」
アリシアはベッドで座ったまま困惑し、どう返答していいのか迷走する。
これ以上の理由が無い。というより理由など必要ないはずなのだ。
何度も言うが、アリシアは元々客として来たわけでもなく、ここに留まる義務もありはしない。
だがジェイデンは真剣そのもので、からかっているわけでもなさそうだった。
助けを求めるように、近くで控えていたマリアに視線を移した。
マリアもその視線に気づくと、微笑みながらコクリと小さく頷いた。
「御主人様、アリシア様のお着替えを取って参ります。何かご用がございましたらお呼び下さい」
なにかが通じたのかと期待したが、マリアは無情にも部屋を出て行ってしまった。
どうして出て行ってしまうのかと、アリシアは視線を部屋の扉に移して途方に暮れる。
誰も部屋にいなくなり、広い空間が静けさで満たされる。気まずい思いで何か話そうとするが、アリシアにそこまでの話術はなかった。
「アリシアさん」
「はい」
「病み上がりの貴女にこんな事を申し上げるのは酷かと思いますが…」
「は…い?」
「少し、私の話を聞いて頂けませんか?」
「お話?」
「えぇ。もし体が辛ければ、寝ながらでも構いません」
やはりジェイデンの顔は真剣そのもので、とても嫌とは言えないほど切羽詰まるものを感じた。
アリシアに断る理由もなく、とりあえず軽い気持ちで頷いた。
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