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深夜の声

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 こんな好待遇を受けたのは何年振りだろう。
 
 実家に居たとき位なので、3年以上は経っている。
 
 久しく無かった人の優しさに触れ、擽ったい気持ちで布団に入り眠気に誘われるまま瞳を閉じた。



 眠りについてから、どのくらい経っただろう。

 喉の渇きを覚えて目を覚ました。

 アリシアは起き上がり、近くのサイドテーブルに用意されていた水差しからコップに注いで、喉の渇きを潤した。

 まだ辺りは暗く、夜中だということがよく分かる。

 体もどことなく怠く、もう一眠りしようと布団に横になった。

 ふと、静けさの中に呻くような声が聞こえた。
 
 遠くから聞こえる。

 おそらく、部屋の外からだ。

 酷く苦しそうな声に眠る事も出来ず、アリシアはまたゆっくりと起き上がった。

 ベッドから降り、足に心地良い絨毯を踏みしめながら部屋の扉をそっと開けた。

 部屋の外も真っ暗で辺りはシーン…と静まり返っている。

 気のせいか…、と扉を閉めようとした刹那、また呻くような声が響いた。
 
 今度はもっとハッキリと聞こえる。

 これはどう聞いても男性の声。何かに苦しむ様なうめき声が廊下に響いていた。

 誰…?
 こんな真夜中に、誰かが苦しんでる…。

 廊下を覗いたまま、その声に誘われるかのように部屋の外へと出た。

 アリシアは怖い、というより心配の方が先立っていた。
 それほど酷く苦しそうな、体の底から絞り出すような声だった。
 広く長い廊下を一歩ずつ歩き、声に導かれるまま一番奥の大きな部屋の前までやってきた。

 部屋の前まで来ると、更にハッキリと声が聞こえる。

「う…、ぐぅッ……、は、あぁ!!」
 
 アリシアは焦った。この中の人物が何かに苦しんでいて、このまま死んでしまうのではないか。
 
「あの、大丈夫ですか!?どこか苦しいのですか?!」

 ドンドンと部屋をノックしながら安否を確認した。
 
 返事はなかった。急に部屋の中もシーン…と静まり返った。

 アリシアは怖くなった。
 もしかしたら中にいる人物が倒れてしまったのかと。

「誰か、呼んで参ります。少しお待ち下さっ─」

 急いで人を呼ぼうとした瞬間、部屋の扉が開き手が伸び、腕を掴まれ中へと連れ込まれた。

「─ッ!!」

 叫ぼうした声は反対側の大きな手によって阻まれた。
 そして無情にも部屋の扉がパタンと閉まる。



 羽交い締めにされ、口元は大きな手で覆われ身動きが取れなかった。

「んっ!んん!!」

 くぐもった声しか出ず、助けを呼ぶことも出来ない。
 この人物が誰なのかも分からず、恐怖がアリシアを支配していく。
 
「静…かに……」

 苦しそうな掠れる程の声が聞こえ、アリシアはハッとした。

 この声の主はジェイデンだった。
 絞り出すように出された声も、まだ苦しそうで触れ合った体が異常に熱く、背後から聞こえる息遣いも酷く荒かった。

 ひとまずアリシアは暴れるのをやめた。するとジェイデンは口元を覆っていた手を外してくれる。

「申し訳…ございません、大公殿下…。殿下の寝所とは知らず…、その…、心配で…」
 
 まだ背後から羽交い締めにしている拘束は解かれていない。
 アリシアは必死で弁明していく。

「お体は大丈夫ですか?…余りに苦しそうでしたので…、人をお呼びっ…!」
 



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