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治療

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 アリシアが止める間もなく、マリアは支度を整え直ぐに医師の手配をしてくれた。
 客室に通されたアリシアはベッドに寝かされ、入ってきた医師に診察を受ける。
 
「これは…」

 有り難い事に医師も女性だった。その医師も一言そう言うと黙々と手当てをしてくれた。
 
「頬の湿布は明日の朝、また交換させて頂きます。その御身体のアザも…傷にはなっていないので、しばらく安静にしていれば数日で消えるでしょう。ですが、酷いものは跡が残るかもしれません…」
 
 ベッドに座ったまま起き上がったアリシアを見て、女性医師は立ちながら哀れむような表情を見せている。

「そうですか。大丈夫です…」

 詳しい理由を聞かれないだけでもアリシアはホッとした。事細かく説明などしたくなかった。
 
「では、ごゆっくりお休み下さい」

 そう言い、女性医師は出ていった。
 頬に貼られた湿布はヒンヤリして腫れた頬を冷やしてくれた。

「ひとまず横になり、お休み下さいませ」
 
 側で控えていたマリアが心配そうに布団を掛けてくれる。アリシアはその言葉に甘え、ベッドへ横になった。

「見ず知らずの私にここまでして頂いて…、本当にありがとうございます…」

 寝そべった状態でマリアにお礼を言った。
 子爵家ではアリシアが叩かれていても、手当などされることもなく…、それが日常的になっていたからか、使用人達もアリシアを特別心配する事もなかった。
 大公であるジェイデンが連れて来た客人なのだから、相応の対応をしなければならないのだろうが、それでもアリシアの荒んでいた心にマリアの姿は眩しく映る。
 
「いえ…、お気に為さらずとも宜しいですよ?差し支えなければ、お嬢様のお名前を聞かせて頂いても宜しいでしょうか」

 起き上がろうとしたアリシアを制止し、マリアは優しくベッドへとアリシアの身体を寝かした。
 お嬢様などと呼ばれる年でもないが、訂正する気にもなれずそのまま促した。
 
「あっ…、申し…遅れました。私はアリシア……、アリシア=……バァルクハルム…、と申します」

 バァルクハルムは子爵家の方の家門だ。
 本来ならば旧姓を名乗るべきなのだろうが、アリシアと夫の離縁はまだ承諾されていない。
 
 もちろんマリアがそんな細かい事まで気にする訳もなく、にこりと微笑んで再び布団をかけ直した。

「アリシア様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「……はい」

 一晩だけの関係だが、こうして誠意を見せてくれる姿勢はさすが大公家の侍女といえる。

「ありがとう御座います。私はマリアと申します。…ではアリシア様、ごゆるりとお体をご自愛下さいませ。こちらの灯りも消させて頂きますね。お休みなさいませ…」

「あ…、はい。お休み…なさい」

 ベッドから離れたマリアが一礼して部屋を出ていった。

 元の部屋の倍は有りそうな程の広い部屋で一人、取り残された。
 布団に入り薄暗闇の中、辺りをキョロキョロし落ちつかない。
 一辺に様々な出来事が起き、アリシアにとっては事実を受け止め切れていなかった。



 
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