【R18】アリシアの秘密のお仕事

明るみ

　
　アリシアはジェイデンに邸宅を案内され、侍女をつけてもらいまずは浴室へと向かった。
　侍女はマリアと言い、着ていたフードを預かると声を掛けられたが、アリシアは頑として断った。
　浴室も貴族ならば通常世話をする者がいるのだが、それらも全て断った。
　ようやく一人になれた浴室で汚れた服を黙々と脱いだ。扉を開け中に入ると、まるで王族が浸かるような広い浴槽が広がっていた。
　
　凄い…、浴槽までまるで違う…。

　ひとまず体の汚れを落とし、良く洗ってから湯槽へ浸かる。凍えた体が生き返るように温かい。湯に浸かり自分の体を見た。　
　全身に暴行されたアザが点々と出来ている。新しいもの、消えかけているもの…赤黒いものや青黒くなってしまっているもの。
　体裁が悪いからとジムは首から上に危害を加える事は少なかった。見えない部分を狙いアリシアに暴力を振るっていた。
　今回頬を叩いたのも、離縁するからなのだろう。もう気を回さなくて良くなかったからか、最後の平手打ちは痛かった。
　夫のジムは泣きもしないと言っていたが、アリシアも初めは泣いていた。ただ人前で見せず、一人になった時に涙を流していた。　
　夫の前で泣いていたら、少しは同情されただろうか…。そんな疑問が頭を過るが、今さら答えなどわかりはしない。どうやっても結果は変わらなかったのだろう。

　お湯に映る自分の顔があまりにひどくて、思わず目を逸らす。
　肩までの短い薄桃色の髪、これも腰まであったものをある日怒ったジムに切られた。原因も覚えていない程些細な事だったと思う。そして悲壮感に満ちている灰色の瞳。これも薄汚れた色だと、散々ジムに馬鹿にされていた。
　自分の容姿がどうと気にするアリシアではなかったが、流石に長い間ここまで罵られていたら自信というものは欠片も残らなかった。

　もう関係ない。
　自分がどうであろうと、生涯を神に捧げる身だ。醜かろうが汚かろうが、神は差別することはない。

　信仰に厚い訳でもなかったが、そう思う事がアリシアの救いになっていた。
　
　体も十分温まり、湯槽から上がった。
　浴室を出てて体を拭こうとしたアリシアに、いつの間にか入ってきた侍女のマリアが、タオルを手に待ち構えてた。

「せめて、お着替えだけでも、──ッ！…そのお顔はどうなさったのですか！？」
　
　アリシアの顔を見たマリアが心配そうに声を荒らげた。見られた衝撃にギクリと体が震えた。

「その御身体もッ……」
　
　直ぐに立ち竦んでいたアリシアに近づいてタオルで覆ってくれたが、気まずさと動揺を隠せなかった。

「……少し、ぶつけただけなので…すぐに…治ります…」

　俯いてぎこちなく話したが、その言葉をいうだけで精一杯だった。

「お着替えが済みましたら、お医者様をお呼び致しますっ」

「大丈夫です。お気遣いなく…」

「お嬢様、その傷は放っといてはいけませんっ。是非、治療を受けて下さいませっ。そちらのお顔の腫れは、直ぐに冷やさななければッ…」

　話しながら有能な侍女はアリシアの身体を優しく拭き、痛々しそうにアリシアを見ていた。