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大公家
しおりを挟む案内された邸宅は一言では言い尽くせない程、子爵家の屋敷とは掛け離れていた。
お屋敷の規模から邸宅の内部、使用人の人数まで…。
真夜中だというのに使用人達がジェイデンを出迎える為にエントランスホールに勢ぞろいしていた。
「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」
扉が開かれ、一様に教育の施された綺麗なお辞儀で迎えられる。
「…っ!」
アリシアはジェイデンの後に続こうと背中を追ったが、扉を潜ることすら躊躇われた。
ここは自分が足を踏み入れて良い場所ではない。
扉の前で立ち止まったまま足が止まる。
子爵家はこんな対応はなかった。
使用人ですらアリシアを下に見ている節があった。それも全て、夫であるジムの態度のせいだ。
所構わずアリシアに暴力を振るい、罵声を浴びさせ、妻とは思えぬような対応をしていた。
アリシアは余りに場違いな雰囲気に、思わず後退る。
このまま逃げてしまいたい。
もうアリシアは体裁など気にする必要もない。ジェイデンに背を向けて、嵐の中へ舞い戻ろうと体を捻った。
「どちらへ行かれるのですか?まさかこの豪雨の中、外へ飛び出そうとでもしているのですか…?」
心を読んで引き留めるようにジェイデンは、引き下がるアリシアの手首を掴んだ。
「あ…、いえ…」
雨の重みで水滴の垂れているフードで見えにくいが、明るみに晒されたジェイデンを直視できずアリシアは視線を下に向けた。
自分の腫れた頬も見られたくなかった。
こんな綺麗に整えられたカーペットに足を踏み入れるのも嫌だった。
どうしてこうなってしまったのだろう…。
善行の為だとしたことが、仇になって返って来てしまった。
やはり見て見ぬふりをすれば良かったのかと、今更ながら後悔している。
「さぁ、お入り下さい。直ぐに温かい部屋をご用意致します」
優雅に微笑むジェイデンは今までアリシアが見てきた男とは違い、優しさと正義感に溢れていた。
「──…はい」
ここまで来て断る事も出来ず、アリシアは邸宅へと足を進めた。
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