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見くびってもらっちゃ困るな
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でもおかしい……
あまりにも話が上手すぎる。
聞いてれば確かに対価としては妥当以上だと思うし、普通の人間ならすぐにでも飛びつくような好条件が揃ってる。だからこそ慎重にいかないといけないよね。
「――これは仮定ですが……」
「……えぇ」
「もし万が一、私がこの禁書にある薬の製造に成功したとしましょう」
「はい」
探りをいれるように静かに口を開いて、聖王様に向かって質問をしていく。
条件が良すぎるからこそ、裏がある気がする。
「しかし、その薬は流行り病には効果が無く、実は別の薬だった。……そうなった場合、聖下の判断をお聞かせください」
姿勢を正して、聖王様にズバッと核心をつく話をしてみた。
そもそも初めからおかしいんだよ、この話。
「――と、申しますと……?」
「聖下は今、ジュピター神聖国を救った場合のお話をなさっているんですよね? そもそも考古学者が解読できなかったことから、おそらく聖下もこの禁書が何を記しているのか検討もついていなかったはず。……だが、そんな曖昧なものに頼らざるを得ないほど、ジュピター神聖国は危機に瀕している……」
スラスラ話していく内に、聖王様の顔色もどんどん曇ってる。隣にいる側近の人なんて真っ青に青褪めてて、顔に出すぎだよ。
「そして聖下は、私がどのような反応をしようと関係はなかった。結果的に自分たちにとって有利に事を進め、私がはっきり断れなくなるということも想定済みだった。――要するに、禁書の解読はただの当て付けで、私にこの危機的状況をどうにかしてほしい……そういうことではないのですか?」
「――っ!」
ジッと視線を鋭くして、かなり踏み込んだ話をしながら聖王様を威圧した。
穏やかな顔して、いかにも従順そうに返事を返してるから騙されちゃうけど……この人、とんだ策士だよね。
優しいフリして美味しそうな餌をちらつかせて、罠にかかったら絶対逃げられないようにがんじがらめにするタイプだよ。
聖王様も冷や汗流して座ってた席で瞳を閉じて、両手を握りしめてた。
「ふぅ…………、シリウス公妃殿下。貴女の素晴らしく鋭い洞察力には感服いたしました。わたしがこれまで出会ったどなたよりも、貴女を恐ろしく感じます。……さすが、神の使いと崇められているお方です」
「ハハッ……、誇張し過ぎです。私など、取るに足らない小国の妃ですから。しかし相手がどうであれ、人に物事を頼む時に人を欺くことはよくありません。誠意を見せてほしいのであれば、誠意で返さなくてはならないことをお忘れなく」
にこりと笑った私に、聖王様が突然頭を下げてきた。
「せ、聖下っ?! 何をなさいますかっ!」
後ろで控えてたアレクセイって側近の人が慌てて止めようとしてる。
そのくらい大それたことなんだろうね。聖王様が非を認めて謝るってことが。
「これはわたしの不徳の致すところです。シリウス様のお言葉で目が醒めました。奢っていたつもりはございませんが、結果として誠実さに欠けていたことをお詫び申し上げます」
アルファルドが私のほうを見てて、私もアルファルドに向かって合図するように頷いた。
「…聖王聖下、頭を上げてくれ。…謝罪は受け入れる。こちらも我が妃の非礼を詫びよう。…公妃よ、大国の王に対し、礼を欠いた言動は控えるんだ」
「っ、……はい、陛下。私が出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ございません。心より深く反省しております……」
アルファルドの静かな叱責に、胸に手を当てた私は、瞳を伏せてしゅんとした態度を見せた。
そしたら、それを見てた聖王様も顔を上げて慌ててる様子。
「とんでもございません! 公王陛下、ありがとうございます……シリウス様も、こちらが不快な思いをさせてしまい、まことに申し訳ございません」
取り繕うように聖王様も私に改めて謝ってきてて、なんだか居心地悪く感じてる。
まぁ、聖王様も必死だってのは良くわかったよ。
「いえ。聖下のお気持ちは大変理解しました。自国の民が危機に瀕しているのですから、焦るお気持ちはよくわかります。しかし私は一国の妃。決断は陛下と相談してからお答えしてもよろしいですか?」
「えぇ、もちろんです」
「…では、御一行を部屋へと案内させよう。…翌日、改めて返答させてもらう」
「わかりました。お心遣い感謝申し上げます。良いお返事を期待しております」
「…善処を心がけよう。…長旅の疲れを癒やしてくれ」
席を立った聖王様たちが、ペコリと頭を下げて部屋から出て行った。
あまりにも話が上手すぎる。
聞いてれば確かに対価としては妥当以上だと思うし、普通の人間ならすぐにでも飛びつくような好条件が揃ってる。だからこそ慎重にいかないといけないよね。
「――これは仮定ですが……」
「……えぇ」
「もし万が一、私がこの禁書にある薬の製造に成功したとしましょう」
「はい」
探りをいれるように静かに口を開いて、聖王様に向かって質問をしていく。
条件が良すぎるからこそ、裏がある気がする。
「しかし、その薬は流行り病には効果が無く、実は別の薬だった。……そうなった場合、聖下の判断をお聞かせください」
姿勢を正して、聖王様にズバッと核心をつく話をしてみた。
そもそも初めからおかしいんだよ、この話。
「――と、申しますと……?」
「聖下は今、ジュピター神聖国を救った場合のお話をなさっているんですよね? そもそも考古学者が解読できなかったことから、おそらく聖下もこの禁書が何を記しているのか検討もついていなかったはず。……だが、そんな曖昧なものに頼らざるを得ないほど、ジュピター神聖国は危機に瀕している……」
スラスラ話していく内に、聖王様の顔色もどんどん曇ってる。隣にいる側近の人なんて真っ青に青褪めてて、顔に出すぎだよ。
「そして聖下は、私がどのような反応をしようと関係はなかった。結果的に自分たちにとって有利に事を進め、私がはっきり断れなくなるということも想定済みだった。――要するに、禁書の解読はただの当て付けで、私にこの危機的状況をどうにかしてほしい……そういうことではないのですか?」
「――っ!」
ジッと視線を鋭くして、かなり踏み込んだ話をしながら聖王様を威圧した。
穏やかな顔して、いかにも従順そうに返事を返してるから騙されちゃうけど……この人、とんだ策士だよね。
優しいフリして美味しそうな餌をちらつかせて、罠にかかったら絶対逃げられないようにがんじがらめにするタイプだよ。
聖王様も冷や汗流して座ってた席で瞳を閉じて、両手を握りしめてた。
「ふぅ…………、シリウス公妃殿下。貴女の素晴らしく鋭い洞察力には感服いたしました。わたしがこれまで出会ったどなたよりも、貴女を恐ろしく感じます。……さすが、神の使いと崇められているお方です」
「ハハッ……、誇張し過ぎです。私など、取るに足らない小国の妃ですから。しかし相手がどうであれ、人に物事を頼む時に人を欺くことはよくありません。誠意を見せてほしいのであれば、誠意で返さなくてはならないことをお忘れなく」
にこりと笑った私に、聖王様が突然頭を下げてきた。
「せ、聖下っ?! 何をなさいますかっ!」
後ろで控えてたアレクセイって側近の人が慌てて止めようとしてる。
そのくらい大それたことなんだろうね。聖王様が非を認めて謝るってことが。
「これはわたしの不徳の致すところです。シリウス様のお言葉で目が醒めました。奢っていたつもりはございませんが、結果として誠実さに欠けていたことをお詫び申し上げます」
アルファルドが私のほうを見てて、私もアルファルドに向かって合図するように頷いた。
「…聖王聖下、頭を上げてくれ。…謝罪は受け入れる。こちらも我が妃の非礼を詫びよう。…公妃よ、大国の王に対し、礼を欠いた言動は控えるんだ」
「っ、……はい、陛下。私が出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ございません。心より深く反省しております……」
アルファルドの静かな叱責に、胸に手を当てた私は、瞳を伏せてしゅんとした態度を見せた。
そしたら、それを見てた聖王様も顔を上げて慌ててる様子。
「とんでもございません! 公王陛下、ありがとうございます……シリウス様も、こちらが不快な思いをさせてしまい、まことに申し訳ございません」
取り繕うように聖王様も私に改めて謝ってきてて、なんだか居心地悪く感じてる。
まぁ、聖王様も必死だってのは良くわかったよ。
「いえ。聖下のお気持ちは大変理解しました。自国の民が危機に瀕しているのですから、焦るお気持ちはよくわかります。しかし私は一国の妃。決断は陛下と相談してからお答えしてもよろしいですか?」
「えぇ、もちろんです」
「…では、御一行を部屋へと案内させよう。…翌日、改めて返答させてもらう」
「わかりました。お心遣い感謝申し上げます。良いお返事を期待しております」
「…善処を心がけよう。…長旅の疲れを癒やしてくれ」
席を立った聖王様たちが、ペコリと頭を下げて部屋から出て行った。
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