虐げられた第八王女は冷酷公爵に愛される

ウリ坊

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番外編

初夜 最終話

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「………うっ」

 食事を取っていたクラウディアが突然声を上げ、その手を止めた。
 口を押さえ、顔色も悪く口元を押さえていた。

「…母様?大丈夫ですか?」

 同じく隣で食事を取っていたオースティンが心配そうに口元を押さえているクラウディアに声をかけた。

「えぇ。大丈夫よ」

 ナフキンを口に当て、笑ってはいるが顔色は良くない。

「まさか、食事に何かっ」

 近くで控えてたいたメリーも騒ぎ出し、アサラト公爵家の中は騒ぎになる。

 ひとまずクラウディアは部屋に移動し、医者に診察してもらう。

「うむ……奥様、最近食べ物を口にすると気分が悪い時が増えましたか?」

 強制的にベッドへ横になり上半身だけ起きていたクラウディアの体の様子を観察し、次に質問していく。

「……はい、たまに気分の悪い時があります。そういえばこの辺りがむかむかする時も…」

 クラウディアは胃を押さえて近頃の自分の体調を話していく。

「では、月の物が最後に来たのはいつくらいですかな?」

 そこまで聞かれ、ようやくクラウディアはハッとする。お腹にそっと手を当て、驚きの表情で口元を押さえた。

 言われてみれば最後に月の物が来たのは二月以上前だった。

「……」

「まだ断言は出来ませんが…奥様にご懐妊の兆しがございますな」

 周りで聞いていたメリーやスティーブが喜びの声を上げる。

「本当ですか!?クラウディア様っ!おめでとう御座います!!」
「メアリ殿、まだ確定では御座いませんよ?…ですが奥様、お喜び申し上げます。」

 オースティンは判らない顔をしてクラウディアが寝ているベッドに寄り添っている。

「かいにん?何かの病気ですか?でもおめでとうって??」

 首を傾げて不思議そうにしているオースティンを、周りは微笑ましい目で見ていた。





 ◇





「あの…、ジーク……」

「何だ?」

 この日もジークフリートは夜遅かったが帰って来た。私室に二人でいたのだが、クラウディアは話の途中で口籠る。

 他の使用人や医師には口止めしてもらい、クラウディアから直接伝えたいと話していた。

 横になっていたクラウディアはベッドから降り、立っていたジークフリートの方へゆっくりと近づいて目の前で止まった。

「……あの……」

 周りは喜んでくれたが、ジークフリートが喜ぶかはわからない。初めてオースティンを身籠った時の父王に激高された記憶が頭を掠めた。

「どうしたのだ?」

 思い詰めた顔をして俯いていたクラウディアの顎を取り、自分の方へと顔を向けさせた。

「…っ」

「クラウディア?」

 気高くも貴い緋色の瞳が不安に揺れながらジークフリートを映している。

「………しばらく……、夜の営みは…控えて、下さいませんか?」

 ひどく言いづらそうに話すクラウディアをジークフリートは訝しげに見ている。

「何故だ…私との交わりに満足できないのか」

 途端にジークフリートは不機嫌になり、精悍な顔を歪めてクラウディアを問い詰める。

「いえ…、違いますっ」

 クラウディアは頬を僅かに染め、急いで誤解をといた。

「では、何故」

 否定はしたが、まだジークフリートは疑いの眼差しを向けている。

 立っていたジークフリートの大きな手を取り、まだ平らな腹部へとその手をスッと導いた。

「まだ、わかりませんが…ここに私と…貴方の子が……」

 まだ不安げに緋色の瞳を揺らし、ジークフリートの反応をジッと窺っている。

「─っ!」

 ジークフリートは瞠目した後、お腹に当てていた手の力を抜いて優しく撫でていく。

「そうか…。私達の子か……」
 
 感慨深げにポツリと呟いたジークフリートが、そのままクラウディアを抱きしめた。

「わかった。自重しよう。そして今度こそは、この目で見守る事ができるんだな」

 抱きしめられた腕が思いの外優しくて、クラウディアはまた泣きたい気持ちになった。

 オースティンの時はジークフリートは全く関与しておらず、突然降って湧いた我が子の存在に受け入れるまで時間が掛かった。

 クラウディアも初めての懐妊は、不安と絶望に満ち溢れていた。
 だがオースティンがいたからこそ、クラウディアは今まで生きる事が出来た。

 そしてまた新しい生命が生まれようとしている。

 クラウディアは愛しい者の腕の中で、今まで感じた事のない幸福を感じるのであった。






 
 月日が過ぎ、母子ともに無事を喜びながら新たな生命が産声を上げる。

 見事な銀髪に、貴い緋色の瞳の女の子。
 
 だが、この時の二人には、まだまだ先の話…。
 















 ────完



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