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番外編

初夜 5

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「突然…、どうしたというのだ…」

 さすがのジークフリートもクラウディアの行動に驚き、まだ甘えるように抱きついているクラウディアへと疑問を投げかけた。

「私が…、こうするのは…お嫌ですか?」

 ジークフリートの胸元から顔だけ離して見上げ、とろんと潤んだ瞳でジークフリートを見つめた。

「…っ!」

 上気した薔薇色の頬に、誘うように見つめている王族の証である緋色の瞳。その瞳で見つめられジークフリートは魅了されたかのように動けなくなる。
 クラウディアはパッと視線を外し、再びジークフリートの胸元へと頬を擦り寄せる。

「ジークっ……ジーク……」

 甘ったるく名を呼ぶクラウディアに、戸惑いを見せていたジークフリートは堪らずにその場でクラウディアを抱え上げた。

「あっ…」

 咄嗟にジークフリートの首に抱きつき、ジークフリートはクラウディアへと顔を近づけた。

「そなたは…私を試しているのか?」

「…ためす?」

 呂律もあまり回っていないクラウディアに、ジークフリートは酔いのせいだとすぐに気付いた。

「王族には珍しく…酒に弱いのだな」

 ジークフリートの精悍な顔がすぐ近くにあり、クラウディアをジッと見つめている。
 酔いの回っているクラウディアは欲望の赴くまま、いつもはしないであろう行動に出る。

 ジークフリートの首に回していた手を引き寄せて、間近にある唇に自らの唇を重ねた。

「んっ…」

 ただ唇を合わせるだけの口づけだが、クラウディアからこういった行動を取ることが今までに一度もなかった。
 そのまま何度もジークフリートの唇に、軽く唇を合わせていく。重なる唇の感触が心地よく、夢見心地でクラウディアはジークフリートの唇にキスをしていく。

「ん…、っ……んんっ」
 
 軽い口づけしかしないクラウディアに焦れたのか、ジークフリートが舌を入れて、今度は濃厚に唇を重ねていく。
 珍しくクラウディアも舌を絡めてジークフリートに応じていく。
 それだけでクラウディアの官能を刺激して、また身体が疼き出してくる。
 しばらく貪られたクラウディアは唇を離され、息も絶え絶えにジークフリートを見る。

「はぁ…、ぁ…」

「あまり可愛らしい事ばかりしていると、酷く抱いてしまうぞ?」

 とろりと潤んでいる瞳に唇を寄せ、瞼にキスを落としていく。
 
「……私は、可愛くなんて…ありません…」

 今度はとろりとしていた緋色の瞳が潤みだし、ゆらゆらと揺れている。
 
「綺麗でもなく…、身体も見窄らしくて…、せっかく…選んでもらったドレスも…似合いません……」

 ポロッと溢れ出した涙にジークフリートはまた驚きと戸惑いを見せる。
 いつものクラウディアならばそのまま感情を抑え、口に出さずに飲み込んでしまうであろう言葉。
 
「ジークは…こんなに素敵で、何でも持っていて…私なんかには…勿体ない…人です…」
 
 クラウディアは驚きに目を見張っているジークフリートの頬を両手でそっと触れた。

「駄目だとわかって、いたのに…それでも…、私の心から、貴方を消す事はできませんでした…」

 また一筋、緋色の瞳から雫が溢れる。
 ジークフリートは声を出すことも出来ず、その瞳に魅入られたかのように逸らせないでいる。

「あなたが…好きです…。ジークが……す…き……」

 ジークフリートを一身に見つめていた瞳が次第にゆっくりと閉じていく。クラウディアの添えていた手がだらりと下に落ちて身体の力が抜け、すぅすぅと寝息を立ててジークフリートの腕の中で完全に瞳を閉じた。

 魅入られるように見ていたジークフリートがはっと我に返る。
 
「──はっ…、私をここまで煽っておいて寝るとは……良い度胸だ。寝れるものなら寝ているがいい…」

 腕の中で酔い潰れて寝ているクラウディアに、ジークフリートの放った不穏な一言は届かなかった。

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