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旅行編

微睡み

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*

 伯爵邸に帰る馬車の中。
 ルーシェは積もりに積もった疲れにウトウトと頭が揺れる。何度も身体がガクッと傾いてはハッとして元の位置に戻るを繰り返した。
 見兼ねたウィルソンがルーシェの隣に座り、自分の肩にルーシェの頭を固定することで収まった。

 ウィルソンの香りと温もりを感じながら、ルーシェは呆気なく意識を手放した。






 ◇


 ◇





 目を覚ますと、隣でウィルソンが寝ていた。

 周りはまだ薄暗い。鳥の囀りすらまだしない程の明け方。
 馬車に乗って揺られていたが、それ以降の記憶が無い。どうやらそのまま寝てしまったようだ。

 お互い横向きでウィルソンの腕の中で囲われるように寝ていた。目の前に逞しい胸があり、呼吸の度にゆっくりと動いている。

 起こさないよう僅かに顔を上げるとウィルソンの寝顔が目に入る。
 瞳を閉じていてもその秀麗な顔は一つも損なわれない。目を開いている時より穏やかで幼く見える。ウィルソンの規則正しい寝息を感じルーシェの頬が緩む。
 こんな無防備な寝顔を拝める機会もあまりないのだ。
 もう数え切れない程寝所を共にしていても、ウィルソンの朝は早い。ルーシェも鍛練をしているので早朝に起きるが、ウィルソンはその上をいく早さだ。
 もっとゆっくり休んでほしいのだが、気配や物音に敏感なウィルソンは少しのことですぐに目を覚ましてしまう。

 身体を動かさないように視線だけ周りに向けると、寝台の感じからあの豪華な寝室だろうことは推測できた。
 たぶんウィルソンがここまで運んでくれたんだろう。

 昨日は流石に体力の限界だった。
 というか、旅行に来てからというもの毎日色々な事で疲れているような気がする。勿論充実しているので文句や不満は全くない。

 久々にきちんと休んだおかげか頭も身体もスッキリしている。約束通りあれ以降ルーシェに手を出さず、普通に寝かせてくれたようだ。
 再びウィルソンに視線を向ける。胸元に擦り寄ると腕がピクリと動き、身体を包み込むように抱きしめられる。


「ルー…」

 寝言なのか、ポツリと呟いたウィルソンの言葉が嬉しくて胸の中に顔を埋めた。
 

(幸せだな……)


 温もりを感じながらしみじみ思う。

 なんて贅沢で甘美な褒賞なんだろう。
 こんなに側で触れ合えて、一日中一緒に居ることができる。
 きっとこれ以上自分を幸福に出来る褒賞なんて他にはない。今更ながらあの時に旅行に行きたいと言った自分を褒めてあげたい。

 ウィルソンの爽やかな香りに包まれ、うとうと微睡みだしたルーシェは瞳を閉じると再び深い眠りに入った。














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