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旅行編
教会 ※
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*
行為が終わり甘い余韻が薄れてくると、羞恥心が一気に襲いかかってくる。
身体がワナワナと震え、カァーと顔が熱くなる。
(もぉ、私のバカバカ!なんで2度もこんなこと~!)
終わってから物凄い後悔が押し寄せてくる。ウィルソンとまだ繋がっている事も忘れ、その勢いのまま捲し立てる。
「ウィル様、今日はもう…絶対しません!お願いですから、夜も控えて下さい!」
何度も繰り返される行為で秘所もヒリヒリしてきたし、身体もかなり疲弊している。
今日きちんと休まないと、明日は動けなくなりそうだ。ウィルソンの方が体力を使っていると思うのだが、平気そうにしているのが恐ろしい。
せっかく休みを延ばしてもらったのに、これでは意味がない。
「……すまない。君が可愛くて、欲望を抑えられなかった」
後ろからギュッと抱きしめているウィルソンはルーシェの肩口に顔を埋めている。
(可愛いって…私、何もしてないよね?)
自分の言動を思い返すが全く覚えがない。
ウィルソンの中で自分はどの様に美化されているんだろう。
不思議に思っていると、ふいに身体に違和感を覚える。
未だに膣内にいるウィルソンの昂りが復活してきているのだ。
「あ…の…ウィル様、そろそろ離して下さい」
ウィルソンに後ろから抱きしめられていて逃れられないのだが、このままの状況は良くない。というかはっきり言ってまずい。
ルーシェが身体を捩って腕から逃げようともがくが、ウィルソンは中々離さないうえ、ルーシェが動く事でどんどん勢いを取り戻していく。
「……っ…ルー、そんなに…締め付けないでくれ…」
「やっ、締めてなんて……んっ、あ!」
ギュッと抱きしめたまま、ウィルソンがまた腰を動かしてくる。
「んんッ!だめっ、ウィル様…離して…あぅ!」
先ほど放たれたモノで滑りが良くなり、膣内を突かれるとたちまち甘い声が上がる。
「あっ、やぁ!もう…いやぁ……んっ、んっ~!」
結局教会に着く直前までウィルソンに貪られる事になる。
◇
「ルーシェ!お菓子スッゴく美味しかったぞ!……あれ?…どうしたんだ?」
教会に着いたハルは、直ぐにルーシェの元へと駆け寄ってきた。
ウィルソンの手を借りて何とか降りたが、正直立っているのがツライ。
しかし今日でハルとはしばらく会えなくなる。ルーシェは自分を奮い起たせて大地を踏みしめた。
「…大丈夫よ、ハル。ちょっと馬車に酔っただけだから……」
どうにか笑顔を保とうとするが、気を抜くと気だるげな表情に戻ってしまう。
隣に立つウィルソンは満たされた艶々な顔をしているのが恨めしい。
事後の色気も相まって輝いて見える程だ。
教会の前にいる出迎えの若いシスター達が、ウィルソンを見るなり顔を赤らめているのが良くわかる。
シスターといっても様々な事情で教会に身を置いている。割りと年若い女人が多いのだ。だからこそルーシェも疑われずに教会の内部に侵入できた。
「領主様、お忙しい中この様な場所にようこそお出で下さいました」
ウィルソンは年老いたシスター長と話すからと教会に入って行った。
その後を年若いシスター達が瞳を輝かせて着いていく。
ルーシェはウィルソンとは別れ、ハンナとハル達と一緒に裏側の弧児院の方へと向かう。
時間としては夕刻前だが、子供達はまだ外の庭で遊んでいた。
「ん?あっ、ハルだ!久しぶり~どうしたの!」
「ハル~エマ~アル~どこ行ってたの~?」
事情を知らない子供達は実に暢気に話しかけてくる。
全員で15名ほどだろうか。大中小とワラワラ集まり、あっという間に囲まれた。
「あれ?おねえちゃんだあれ?」
「ハル~、この人だれ?」
口々に質問するが興味深そうにルーシェとハンナを見ている。
「ルーシェって言うんだ。クッキー焼いて持ってきてくれたぞ!」
ハルが自分の事のように自慢気に言うと、子供達が目をキラキラさせてルーシェを見る。
「え?クッキー!?」
「食べたい食べたい!クッキー大好き!」
一斉に取り囲まれルーシェも焦る。ルーシェはしゃがんで子供達に目線を合わせ話す。
「みんな、こんにちは!」
「「「こんにちは~」」」
元気良く答える子供達が可愛くてルーシェはクスクスと笑う。
「みんなのためにクッキー焼いてきたから、順番に並べるかな?」
「うん、出来るよ!」
「俺も並ぶ~」
「私も!」
子供達が我先にとルーシェの前に一列に並ぶ。
「偉いね!みんなの分ちゃんとあるから大丈夫だよ」
ハンナが持っている篭から、ルーシェは一人一人にクッキーの袋を手渡していく。
もらった子供達はお礼を言いながら、ニコニコして袋を開けて食べ始める。
「ん!美味しい!いつものクッキーと違う!」
「本当だ~!すっごくサクサクしてる!なんで!?」
まだまだ余っているので、一緒に同行していたシスターに残りのクッキーを渡すことに。
「宜しければ皆さんで召し上がって下さい」
ルーシェの言葉と共にハンナがシスターに篭を預ける。
「お心遣いありがとうございます。お話は聞いております……オズワルド神父がご迷惑をおかけ致しましたこと、心よりお詫び致します……」
申し訳なさそうに腰を折り、謝罪してくるシスター。ルーシェは顔を上げてほしいとお願いする。
「とんでもございません。私の方こそ突然お騒がせを致しました。今回の件はハルの助言無しにはわからなかった事です。あの子を褒めてあげて下さい。あんな小さな身体で、勇敢に目一杯頑張ってくれました」
クッキーを食べ終えた子供達と、あっという間に広間を笑顔で追いかけっこしている。
その光景にルーシェは微笑む。これでようやくハルも安心して暮らしていける。
その事が嬉しくて仕方なかった。
「あの子…ハル達が居なくなった時はそれは皆で探しました。ですが、見つからず……周りからは心無い事も言われましたが、やはり神は全てを見ていらっしゃるのですね……まさか神父が罪を重ね、あの子に告発されようとは……」
鎮痛な面持ちで下を向いたシスターに、ルーシェはかける言葉を失ってしまう。オズワルドは人柄も良く神父として長年この教会を支えてきた。
まさかその裏であの様な悪行を重ねていようとは、誰一人として疑うものはいなかったのだという。
「神父といえど人間です。過ちを犯すこともあるでしょう…ですが、罪は必ず裁かれます。今回の事は良い教訓になったのではないのでしょうか。…シスターの皆さんの心中は図りかねますが、どうか気をしっかりお持ち下さい」
「ありがとうございます…わたくし共も突然の出来事に動揺を隠しきれません。それほどオズワルド神父を信用しておりました……まさに青天の霹靂です。これから、どうしようかと皆で模索しております」
瞳を瞑りロザリオを両手で握り締めるシスターに、ルーシェはニコニコと話す。
「それでしたらご安心下さい!領主様が王都より新たな神父を派遣して下さるそうです。明日にはいらっしゃるみたいなので、皆様で温かくお迎え下さいませ」
悲観に暮れていたシスターは、パッと表情を変え驚いた様子で話し出す。
「まぁ、明日にはいらっしゃるのですか!?随分と早い選任ですね」
「はい、領主様が皆様の為にと頑張って下さいました」
本当にウィルソンの仕事の早さには感服する。
こういった混乱を避けるために自分の人脈を使い、早期解決をしたのだろう。
「領主様が!……神は我々を見捨ててはおられなかったのですね……心より敬服致します…神のご加護があらんことを…」
涙ながらに話すシスターにルーシェは苦笑する。これにて一件落着だ。
話を終えたウィルソンも後ろにシスター達を引き連れ、裏庭までやって来た。
頬を赤らめて着いてくるシスター達は、女の顔になってしまっている。
ウィルソン本人は不機嫌そうな顔で足早にルーシェの元へ向かっている。
その状況に呆れつつも、ハルとの最後の別れの挨拶をすませる。
「ハルー!私行くから!」
追いかけっこをしていたハルがルーシェの声を聞いて、慌てたように急いで走ってくる。
「えっ!ルーシェ、もう行っちゃうのか!?」
息を切らしてやって来たハルは泣きそうな顔をしてルーシェに駆け寄る。
「うん、ハルも元気で暮らすんだよ!私ハルのこと忘れないからね!」
「う……ルーシェ……また……会えるよな………」
涙が溢れそうな程瞳に貯めたハルは、ズボンをギュッと握り締め口元を歪ませて喋る。
ルーシェはしゃがむとハルをギュッと抱きしめる。
「また会いに来るよ。ハルがちゃんと元気してるか、見に来るから」
「うぅ…ぜったい…だぞ!約束…だからな……!」
「うん!」
泣き出したハルもルーシェにしがみつく。
ルーシェは背中をポンポンと叩き、身体を離すとハルの頭を撫でる。
「俺、ルーシェみたいに強くなって、みんなを守るんだ!」
「ハルならきっと出来るよ。私も楽しみにしてるね」
「うん、そしたらルーシェの事も俺が守ってやるぞ」
「ふふふっ、それは頼もしいね。しっかり鍛練するんだよ」
「まかせろ!」
涙目のハルは腰に手をあてて精一杯強がる。
後ろで見ていたウィルソンはルーシェの隣へ並ぶと、しゃがんでいたルーシェに手を差し伸べる。
「ルー、そろそろ行くぞ」
「…はい」
再び馬車が止まっている教会の入り口まで移動する。シスター達やハルも見送りに来てくれた。
馬車に乗る前にハルが何かを決意した顔でルーシェに話をかける。
「俺、強くなったらルーシェとずっと一緒にいれるか?」
「……ん?一緒に?」
言われた意味がわからないが、何か期待するようにじっと見つめるハル。
ウィルソンがルーシェの肩を引き寄せると、ハルに向かい合う。
「ルーの隣に立ちたいなら、私に勝たなければ話にならないな」
「えっと、ウィル様?…どういう事ですか?」
「わかった!俺、領主様に勝てるくらい強くなるから!ルーシェ、それまで待っててくれよ!」
「?うん、頑張ってね?」
良くわからないまま返事をしたが、何だったんだろう。とりあえず強くて頭の回る男になってくれれば将来安泰だ。
馬車に乗り窓を開ける。馬車がゆっくりと動き出す。
「ハルー!またねー!」
ルーシェが窓から顔を出し手を振る。ハルもブンブン手を振り、追いかけてくる。
「またな!ルーシェ!また来いよ!ぜったいだからな~!」
「うん、わかった!」
ルーシェも笑顔で手を振り、教会を後にした。
行為が終わり甘い余韻が薄れてくると、羞恥心が一気に襲いかかってくる。
身体がワナワナと震え、カァーと顔が熱くなる。
(もぉ、私のバカバカ!なんで2度もこんなこと~!)
終わってから物凄い後悔が押し寄せてくる。ウィルソンとまだ繋がっている事も忘れ、その勢いのまま捲し立てる。
「ウィル様、今日はもう…絶対しません!お願いですから、夜も控えて下さい!」
何度も繰り返される行為で秘所もヒリヒリしてきたし、身体もかなり疲弊している。
今日きちんと休まないと、明日は動けなくなりそうだ。ウィルソンの方が体力を使っていると思うのだが、平気そうにしているのが恐ろしい。
せっかく休みを延ばしてもらったのに、これでは意味がない。
「……すまない。君が可愛くて、欲望を抑えられなかった」
後ろからギュッと抱きしめているウィルソンはルーシェの肩口に顔を埋めている。
(可愛いって…私、何もしてないよね?)
自分の言動を思い返すが全く覚えがない。
ウィルソンの中で自分はどの様に美化されているんだろう。
不思議に思っていると、ふいに身体に違和感を覚える。
未だに膣内にいるウィルソンの昂りが復活してきているのだ。
「あ…の…ウィル様、そろそろ離して下さい」
ウィルソンに後ろから抱きしめられていて逃れられないのだが、このままの状況は良くない。というかはっきり言ってまずい。
ルーシェが身体を捩って腕から逃げようともがくが、ウィルソンは中々離さないうえ、ルーシェが動く事でどんどん勢いを取り戻していく。
「……っ…ルー、そんなに…締め付けないでくれ…」
「やっ、締めてなんて……んっ、あ!」
ギュッと抱きしめたまま、ウィルソンがまた腰を動かしてくる。
「んんッ!だめっ、ウィル様…離して…あぅ!」
先ほど放たれたモノで滑りが良くなり、膣内を突かれるとたちまち甘い声が上がる。
「あっ、やぁ!もう…いやぁ……んっ、んっ~!」
結局教会に着く直前までウィルソンに貪られる事になる。
◇
「ルーシェ!お菓子スッゴく美味しかったぞ!……あれ?…どうしたんだ?」
教会に着いたハルは、直ぐにルーシェの元へと駆け寄ってきた。
ウィルソンの手を借りて何とか降りたが、正直立っているのがツライ。
しかし今日でハルとはしばらく会えなくなる。ルーシェは自分を奮い起たせて大地を踏みしめた。
「…大丈夫よ、ハル。ちょっと馬車に酔っただけだから……」
どうにか笑顔を保とうとするが、気を抜くと気だるげな表情に戻ってしまう。
隣に立つウィルソンは満たされた艶々な顔をしているのが恨めしい。
事後の色気も相まって輝いて見える程だ。
教会の前にいる出迎えの若いシスター達が、ウィルソンを見るなり顔を赤らめているのが良くわかる。
シスターといっても様々な事情で教会に身を置いている。割りと年若い女人が多いのだ。だからこそルーシェも疑われずに教会の内部に侵入できた。
「領主様、お忙しい中この様な場所にようこそお出で下さいました」
ウィルソンは年老いたシスター長と話すからと教会に入って行った。
その後を年若いシスター達が瞳を輝かせて着いていく。
ルーシェはウィルソンとは別れ、ハンナとハル達と一緒に裏側の弧児院の方へと向かう。
時間としては夕刻前だが、子供達はまだ外の庭で遊んでいた。
「ん?あっ、ハルだ!久しぶり~どうしたの!」
「ハル~エマ~アル~どこ行ってたの~?」
事情を知らない子供達は実に暢気に話しかけてくる。
全員で15名ほどだろうか。大中小とワラワラ集まり、あっという間に囲まれた。
「あれ?おねえちゃんだあれ?」
「ハル~、この人だれ?」
口々に質問するが興味深そうにルーシェとハンナを見ている。
「ルーシェって言うんだ。クッキー焼いて持ってきてくれたぞ!」
ハルが自分の事のように自慢気に言うと、子供達が目をキラキラさせてルーシェを見る。
「え?クッキー!?」
「食べたい食べたい!クッキー大好き!」
一斉に取り囲まれルーシェも焦る。ルーシェはしゃがんで子供達に目線を合わせ話す。
「みんな、こんにちは!」
「「「こんにちは~」」」
元気良く答える子供達が可愛くてルーシェはクスクスと笑う。
「みんなのためにクッキー焼いてきたから、順番に並べるかな?」
「うん、出来るよ!」
「俺も並ぶ~」
「私も!」
子供達が我先にとルーシェの前に一列に並ぶ。
「偉いね!みんなの分ちゃんとあるから大丈夫だよ」
ハンナが持っている篭から、ルーシェは一人一人にクッキーの袋を手渡していく。
もらった子供達はお礼を言いながら、ニコニコして袋を開けて食べ始める。
「ん!美味しい!いつものクッキーと違う!」
「本当だ~!すっごくサクサクしてる!なんで!?」
まだまだ余っているので、一緒に同行していたシスターに残りのクッキーを渡すことに。
「宜しければ皆さんで召し上がって下さい」
ルーシェの言葉と共にハンナがシスターに篭を預ける。
「お心遣いありがとうございます。お話は聞いております……オズワルド神父がご迷惑をおかけ致しましたこと、心よりお詫び致します……」
申し訳なさそうに腰を折り、謝罪してくるシスター。ルーシェは顔を上げてほしいとお願いする。
「とんでもございません。私の方こそ突然お騒がせを致しました。今回の件はハルの助言無しにはわからなかった事です。あの子を褒めてあげて下さい。あんな小さな身体で、勇敢に目一杯頑張ってくれました」
クッキーを食べ終えた子供達と、あっという間に広間を笑顔で追いかけっこしている。
その光景にルーシェは微笑む。これでようやくハルも安心して暮らしていける。
その事が嬉しくて仕方なかった。
「あの子…ハル達が居なくなった時はそれは皆で探しました。ですが、見つからず……周りからは心無い事も言われましたが、やはり神は全てを見ていらっしゃるのですね……まさか神父が罪を重ね、あの子に告発されようとは……」
鎮痛な面持ちで下を向いたシスターに、ルーシェはかける言葉を失ってしまう。オズワルドは人柄も良く神父として長年この教会を支えてきた。
まさかその裏であの様な悪行を重ねていようとは、誰一人として疑うものはいなかったのだという。
「神父といえど人間です。過ちを犯すこともあるでしょう…ですが、罪は必ず裁かれます。今回の事は良い教訓になったのではないのでしょうか。…シスターの皆さんの心中は図りかねますが、どうか気をしっかりお持ち下さい」
「ありがとうございます…わたくし共も突然の出来事に動揺を隠しきれません。それほどオズワルド神父を信用しておりました……まさに青天の霹靂です。これから、どうしようかと皆で模索しております」
瞳を瞑りロザリオを両手で握り締めるシスターに、ルーシェはニコニコと話す。
「それでしたらご安心下さい!領主様が王都より新たな神父を派遣して下さるそうです。明日にはいらっしゃるみたいなので、皆様で温かくお迎え下さいませ」
悲観に暮れていたシスターは、パッと表情を変え驚いた様子で話し出す。
「まぁ、明日にはいらっしゃるのですか!?随分と早い選任ですね」
「はい、領主様が皆様の為にと頑張って下さいました」
本当にウィルソンの仕事の早さには感服する。
こういった混乱を避けるために自分の人脈を使い、早期解決をしたのだろう。
「領主様が!……神は我々を見捨ててはおられなかったのですね……心より敬服致します…神のご加護があらんことを…」
涙ながらに話すシスターにルーシェは苦笑する。これにて一件落着だ。
話を終えたウィルソンも後ろにシスター達を引き連れ、裏庭までやって来た。
頬を赤らめて着いてくるシスター達は、女の顔になってしまっている。
ウィルソン本人は不機嫌そうな顔で足早にルーシェの元へ向かっている。
その状況に呆れつつも、ハルとの最後の別れの挨拶をすませる。
「ハルー!私行くから!」
追いかけっこをしていたハルがルーシェの声を聞いて、慌てたように急いで走ってくる。
「えっ!ルーシェ、もう行っちゃうのか!?」
息を切らしてやって来たハルは泣きそうな顔をしてルーシェに駆け寄る。
「うん、ハルも元気で暮らすんだよ!私ハルのこと忘れないからね!」
「う……ルーシェ……また……会えるよな………」
涙が溢れそうな程瞳に貯めたハルは、ズボンをギュッと握り締め口元を歪ませて喋る。
ルーシェはしゃがむとハルをギュッと抱きしめる。
「また会いに来るよ。ハルがちゃんと元気してるか、見に来るから」
「うぅ…ぜったい…だぞ!約束…だからな……!」
「うん!」
泣き出したハルもルーシェにしがみつく。
ルーシェは背中をポンポンと叩き、身体を離すとハルの頭を撫でる。
「俺、ルーシェみたいに強くなって、みんなを守るんだ!」
「ハルならきっと出来るよ。私も楽しみにしてるね」
「うん、そしたらルーシェの事も俺が守ってやるぞ」
「ふふふっ、それは頼もしいね。しっかり鍛練するんだよ」
「まかせろ!」
涙目のハルは腰に手をあてて精一杯強がる。
後ろで見ていたウィルソンはルーシェの隣へ並ぶと、しゃがんでいたルーシェに手を差し伸べる。
「ルー、そろそろ行くぞ」
「…はい」
再び馬車が止まっている教会の入り口まで移動する。シスター達やハルも見送りに来てくれた。
馬車に乗る前にハルが何かを決意した顔でルーシェに話をかける。
「俺、強くなったらルーシェとずっと一緒にいれるか?」
「……ん?一緒に?」
言われた意味がわからないが、何か期待するようにじっと見つめるハル。
ウィルソンがルーシェの肩を引き寄せると、ハルに向かい合う。
「ルーの隣に立ちたいなら、私に勝たなければ話にならないな」
「えっと、ウィル様?…どういう事ですか?」
「わかった!俺、領主様に勝てるくらい強くなるから!ルーシェ、それまで待っててくれよ!」
「?うん、頑張ってね?」
良くわからないまま返事をしたが、何だったんだろう。とりあえず強くて頭の回る男になってくれれば将来安泰だ。
馬車に乗り窓を開ける。馬車がゆっくりと動き出す。
「ハルー!またねー!」
ルーシェが窓から顔を出し手を振る。ハルもブンブン手を振り、追いかけてくる。
「またな!ルーシェ!また来いよ!ぜったいだからな~!」
「うん、わかった!」
ルーシェも笑顔で手を振り、教会を後にした。
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