【R18】ルーシェの苦悩 ~貧乏男爵令嬢は乙女ゲームに気付かない!?~

ウリ坊

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旅行編

お菓子作り 2

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 料理人の一人が物を落とした音で、ハッとなる。

「も、申し訳ございません!」
 
 良い雰囲気になっている場合ではない。

 意図せず調理場でイチャイチャする羽目になってしまった。
 そう思うと一気に羞恥心が沸いてくる。ルーシェの腰に回っていた手が臀部を撫で始める。
 これ以上放っておくとどんどん良からぬ方向へ行きそうなので、先に断っておく。

「ウィル様…申し訳ございませんが、まだやることがありますので失礼致します」

 ちょっと強引に掴まれていた手を外し、ウィルソンの膝から降りた。

「ルー…」

 ウィルソンは椅子に座りながら不服そうな顔でルーシェを見ている。

「あとは分ければ終わりですから、少しだけお待ち下さいませ」

 ルーシェはその視線に気付かない振りをして、冷めたクッキーとキャラメルを篭に入れ始める。
 クッキーは個包装にして種類別に分けた。子供達が数で喧嘩にならないようにと配慮する。
 
 座っていたウィルソンは立ち上がり、ルーシェの肩に手を回し後ろから抱きしめてくる。

「ひゃっ」

「君はマメだな」

 耳元で囁かれ、思わず変な声が出てしまった。
  
 不意打ちはやめてほしい。せっかく抜け出してきたのにこれでは意味がない。

 旅行に来てからウィルソンはおかしい。
 甘い。とにかく甘過ぎる。

 普段はお互いの時間が合わず、大体が夜の間くらいしか一緒にいない。多忙な時などはお城に泊まることもあるし、休日も登城するウィルソンはお屋敷にいることがあまりない。

 ここまで長い時間一緒に居たことが無いせいもあるが、ウィルソンはこんな性格だっただろうか。
 こんなにべったりくっついて片時も離そうとしないのは何なのだろう。

 どうも距離感がおかしい。
 
 勿論嫌な訳ではない。触れられるのは嬉しいのだが、他の人の目も気になるしドキドキし過ぎて心臓に悪い。
 できれば二人きりの時だけにしてほしい。
 あからさまに周りに見せつけるような行動は控えてもらいたい。
 
 調理場を見回すと、料理人達の顔が赤い。
 新人と言われていた若い料理人は特に動きがぎこちない。

 領主など普通なら調理場にはあまり近づかないものだ。
 ウィルソンは特に気難しい怖い領主で通っているようだし、こんな風に婚約者とイチャついているのを目の当たりにしてどう思われていることやら。

(とにかくさっさと作業を終わらせよう!この場から去るのが一番の解決策)

 そう決めると、手際よく袋詰めを行い、次々篭へとクッキーが消えていく。

 途中ウィルソンにちょっかいを出され、邪魔されながらもようやく作業を終えた。
 
 ふぅ~と息をつき、篭を持つと場所を提供してくれた料理人達にお礼を言う。

「お忙しいのに調理場を貸して頂き、ありがとうございました!あと、色々お話が聞けて楽しかったです」

 笑顔でお礼を言ったのだが、背後のウィルソンが怖いのか、返答がぎこちなかった。

「と、とんでもございません!こちらこそご教授頂きまして、大変勉強になりました!」

 料理長が頭をペコペコ下げながら、お礼を言ってもらい恐縮してしまう。
 後ろに居るウィルソンを見上げ、何か言ってくれと目で訴える。
 ウィルソンは小さくため息をはき、料理人達に向かい声をかける。

「彼女が世話になったな」

「え?いえ!勿体なきお言葉!!め、め、滅相もございません!」

 料理人達はビシッと直立し、深々と腰を曲げていた。
 
「では失礼します。また機会があればお話し聞かせて下さいね」
 
「は、はい!是非とも!」

 軽く頭を下げ調理場を後にする。廊下に出ると持っていた篭をウィルソンに取り上げられた。

「あ、ウィル様…そのくらい持てます」
 
「君が持つ必要はない。こういった物は他の者に持たせるんだ」

 そう言って後ろに控えていた侍女に篭を渡す。
 侍女はウィルソンから篭を受け取る。
 ウィルソンは空いた手をルーシェの腰に回し、顎に手をかけ自分の方を向かせる。

「ウィル様?…んっ!」

 顔が近づいてきたと思った瞬間に唇が重なった。
 早技すぎて回避出来なかった。
 侍女がすぐ側にいるのに、構わず舌を入れてくる。

「ん!……んっ………ゃ………」

 何とか離れようと試みるが力では敵わない。
 逆に強い力で抱き込まれ、逃げられないよう後頭部を手で押さえる。

「んっ……んっ……ふ…ぅ……」

 舌を絡めて吸われると、ゾクゾクと甘い痺れが身体を巡り次第に力が入らなくなる。

「ん……はぁ………ぁ……」

 たっぷり舌で蹂躙され、唇を離されたが力が入らずウィルソンの腕の中に囚われる。

「他の男に君のその顔を見せたくないから我慢したんだ……褒めてくれ」

 抱きしめているルーシェの頭にキスを落とす。
 
 ルーシェは腕の中で羞恥に震える。
 確かに調理場でキスされるのは嫌だが、どうせなら誰もいない所まで我慢してほしかった。
 
「それは…ご配慮…ありがとう…ございます」

 本音は呑み込み、とりあえずお礼を言う。
 ウィルソンと一緒にいるには、こういう事にも多少は慣れなくてはいけないのだ。
 まだ気を使ってくれるだけましだ。
 
 赤くなった顔を上げると、愛おしげな顔で見ていたウィルソンと目が合う。
 ドキンと心臓が跳ねる。
 
(やっぱり甘い…こんな近くに一緒にいて、元の生活に戻れるかな……)

 ここまで四六時中ベタベタして、王都に戻ったら物足りなくなりそうで怖い。
 普段我慢してる訳ではないが、一日中一緒に居られることが幸せ過ぎて感覚が麻痺しそうだ。

 再び近づく秀麗な顔に魅入られながら、与えられる唇の感触を甘受する。















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 読んで頂き、ありがとうございます!
 まだイチャイチャ続きます。もう少しお付き合い下さいませ。
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