【R18】ルーシェの苦悩 ~貧乏男爵令嬢は乙女ゲームに気付かない!?~

ウリ坊

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旅行編

出会い

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 再び街中に戻り、道を歩いていると後ろからドンッと誰かがぶつかる。
 後ろを振り向くと、そこにはルーシェの腰くらいの背の小さな子供が立っていた。

「あ、ごめんなさい………」

 たぶん7、8歳くらいの男の子だろう。体が痩せ細っていて、身なりからしてかなり貧しそうだった。

「私は大丈夫だから、気にしないで」

 ルーシェが笑って言うと、男の子はペコリとお辞儀をして去って行こうとする。
 だが、通り過ぎようとした男の子の首元の服を掴んだ。

「なっ!なにすんだよ!」

 男の子はビックリして、ジタバタと暴れる。

「離してあげるけど、とりあえずその財布返して貰える?」

 掴みながらルーシェは反対の手を男の子に差し出す。
 男の子は再びビックリして、青ざめた顔でルーシェを見る。

「な、なんでわかったんだ!」

 ビクビクした表情だが、眼は鋭くルーシェを睨んでいる。

「ルー、大丈夫か?」

 隣にいたウィルソンも訝しげな表情をしている。

「私は何ともありません。貧しい子供が良くやる常套手段なんです」

 王都の下町にいたときにも普通にある日常の光景だ。貴族や成金などはカモになりやすいが、自分が狙われるとは思わなかった。
 
「窃盗は立派な犯罪だ。自警団にでも突き出すか?」

 ウィルソンが冷ややかな瞳で男の子を威圧しながら見下ろすと、男の子はヒッと息を呑んだ。

 ルーシェが男の子に財布を出すように催促すると、男の子は懐からおずおずと財布を取り出し渡す。

「返したから離してくれよ!……俺が居なくなったら、あいつらが……」

 この子の他にもお仲間がいるようだ。
 捕まるとわかった途端、震え出す。

(この子、今何て言った?)

 あいつらが死んじまう……

 最後の言葉が小さすぎで聞こえづらかったが、確かにそう聞こえた。

「あなた、名前は?」

 震え出した男の子に話しかけると、男の子はそっぽを向きながら逃げ出そうと必死でもがく。
 だが、体が細すぎるせいかすぐに力が落ちてくる。

「くっそ!離せよ!戻らないと!」
「戻る?ねぇ、名前は?」
「うるさい、そんなの聞いてもしょうがないだろ!?」

 体を揺すって逃れようとするが、体力がなく疲れ息を切らしてへたりこんでしまった。

「やはり引き渡そう。時間の無駄だ」

「やめろ!離してくれよ!」

 ウィルソンがルーシェから男の子を離そうとする。

「いえ、その必要はありません。あなた、親は?いないの?」

 再びルーシェが話しかけると、男の子は諦めたように話し出す。

「親なんか、いない……あんなヤツらいない方がましだ!」

 憤った顔で話し出す男の子。どうやら捨てられたようだ。
 この様子だと、ろくな親ではなかったのだろう。

「ルー…君は一体どうしたいんだ?子供に構ってないで、先を行こう」

 一向に男の子を離さないルーシェに痺れを切らしたウィルソンが急かしてくる。
 ルーシェはウィルソンを見ると、申し訳なさそうに頭を下げる。
 
「ウィル様…すみません、私少しだけ……お側を離れても宜しいですか?」
「ルー?どういうことだ?」
「少しの間で、いいんです。この子を送って行きます」

 ウィルソンと男の子が驚いた表情でルーシェを見る。

「なんだよ!お前なんか来なくていい!」
「ルー、関わろうとするな。それに、どんなところかもわからない危険な場所に、君一人で行かせる訳はないだろ!」
 
 二人同時に捲し立てるように喋り出す。
 道の真ん中でやり取りしているせいか、ちょっとした注目を浴びている。

「あの…とりあえず歩きませんか?目立ってるので……」

 ウィルソンはため息をつくと、ルーシェの空いている手を取る。

「いい加減手を離したらどうだ?逃げ出したら逃げ出したで構わない」

 一気に機嫌が悪くなったウィルソンに、ルーシェはシュンとしてしまう。
 自分のしていることが、余計なおせっかいだというのは重々承知の上だ。
 ウィルソンが怒るのも仕方ない。せっかくのデートを台無しにしてしまったのだから。

「ですが……」
「もう逃げないから離してくれよ!苦しいし!」

 首元の服を掴んでいたせいか、服で首が締まって苦しそうにしている。
 ルーシェは慌てて手を離す。

「あ、ごめんなさい。あなたには誰かお友達でもいるの?もしかして病気か怪我でもしているの?」
 
 男の子は服を元に戻し足早に歩き出したが、ルーシェの言葉に歩みが遅くなる。
 男の子に着いていくルーシェに、ボソボソと話す。

「わからない…ただ、ずっと熱が下がらなくて……」
「もしかして薬が欲しくて財布を盗んだの?」

 下を向きながら歩く男の子は、先ほどまでの威勢が無くなった分余計に小さく感じた。
 
 沈黙は肯定と一緒。悪い子ではなさそうだ。

「なぁ、このままだと…エマとアルは死ぬのか?ずっと苦しそうにしてて……でも、どうしていいのか、わからないんだ……」

 歩いていた男の子の体も声も小刻みに震えている。
 
 その姿が痛ましく、ルーシェの胸が痛む。







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