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旅行編
出会い
しおりを挟む再び街中に戻り、道を歩いていると後ろからドンッと誰かがぶつかる。
後ろを振り向くと、そこにはルーシェの腰くらいの背の小さな子供が立っていた。
「あ、ごめんなさい………」
たぶん7、8歳くらいの男の子だろう。体が痩せ細っていて、身なりからしてかなり貧しそうだった。
「私は大丈夫だから、気にしないで」
ルーシェが笑って言うと、男の子はペコリとお辞儀をして去って行こうとする。
だが、通り過ぎようとした男の子の首元の服を掴んだ。
「なっ!なにすんだよ!」
男の子はビックリして、ジタバタと暴れる。
「離してあげるけど、とりあえずその財布返して貰える?」
掴みながらルーシェは反対の手を男の子に差し出す。
男の子は再びビックリして、青ざめた顔でルーシェを見る。
「な、なんでわかったんだ!」
ビクビクした表情だが、眼は鋭くルーシェを睨んでいる。
「ルー、大丈夫か?」
隣にいたウィルソンも訝しげな表情をしている。
「私は何ともありません。貧しい子供が良くやる常套手段なんです」
王都の下町にいたときにも普通にある日常の光景だ。貴族や成金などはカモになりやすいが、自分が狙われるとは思わなかった。
「窃盗は立派な犯罪だ。自警団にでも突き出すか?」
ウィルソンが冷ややかな瞳で男の子を威圧しながら見下ろすと、男の子はヒッと息を呑んだ。
ルーシェが男の子に財布を出すように催促すると、男の子は懐からおずおずと財布を取り出し渡す。
「返したから離してくれよ!……俺が居なくなったら、あいつらが……」
この子の他にもお仲間がいるようだ。
捕まるとわかった途端、震え出す。
(この子、今何て言った?)
あいつらが死んじまう……
最後の言葉が小さすぎで聞こえづらかったが、確かにそう聞こえた。
「あなた、名前は?」
震え出した男の子に話しかけると、男の子はそっぽを向きながら逃げ出そうと必死でもがく。
だが、体が細すぎるせいかすぐに力が落ちてくる。
「くっそ!離せよ!戻らないと!」
「戻る?ねぇ、名前は?」
「うるさい、そんなの聞いてもしょうがないだろ!?」
体を揺すって逃れようとするが、体力がなく疲れ息を切らしてへたりこんでしまった。
「やはり引き渡そう。時間の無駄だ」
「やめろ!離してくれよ!」
ウィルソンがルーシェから男の子を離そうとする。
「いえ、その必要はありません。あなた、親は?いないの?」
再びルーシェが話しかけると、男の子は諦めたように話し出す。
「親なんか、いない……あんなヤツらいない方がましだ!」
憤った顔で話し出す男の子。どうやら捨てられたようだ。
この様子だと、ろくな親ではなかったのだろう。
「ルー…君は一体どうしたいんだ?子供に構ってないで、先を行こう」
一向に男の子を離さないルーシェに痺れを切らしたウィルソンが急かしてくる。
ルーシェはウィルソンを見ると、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ウィル様…すみません、私少しだけ……お側を離れても宜しいですか?」
「ルー?どういうことだ?」
「少しの間で、いいんです。この子を送って行きます」
ウィルソンと男の子が驚いた表情でルーシェを見る。
「なんだよ!お前なんか来なくていい!」
「ルー、関わろうとするな。それに、どんなところかもわからない危険な場所に、君一人で行かせる訳はないだろ!」
二人同時に捲し立てるように喋り出す。
道の真ん中でやり取りしているせいか、ちょっとした注目を浴びている。
「あの…とりあえず歩きませんか?目立ってるので……」
ウィルソンはため息をつくと、ルーシェの空いている手を取る。
「いい加減手を離したらどうだ?逃げ出したら逃げ出したで構わない」
一気に機嫌が悪くなったウィルソンに、ルーシェはシュンとしてしまう。
自分のしていることが、余計なおせっかいだというのは重々承知の上だ。
ウィルソンが怒るのも仕方ない。せっかくのデートを台無しにしてしまったのだから。
「ですが……」
「もう逃げないから離してくれよ!苦しいし!」
首元の服を掴んでいたせいか、服で首が締まって苦しそうにしている。
ルーシェは慌てて手を離す。
「あ、ごめんなさい。あなたには誰かお友達でもいるの?もしかして病気か怪我でもしているの?」
男の子は服を元に戻し足早に歩き出したが、ルーシェの言葉に歩みが遅くなる。
男の子に着いていくルーシェに、ボソボソと話す。
「わからない…ただ、ずっと熱が下がらなくて……」
「もしかして薬が欲しくて財布を盗んだの?」
下を向きながら歩く男の子は、先ほどまでの威勢が無くなった分余計に小さく感じた。
沈黙は肯定と一緒。悪い子ではなさそうだ。
「なぁ、このままだと…エマとアルは死ぬのか?ずっと苦しそうにしてて……でも、どうしていいのか、わからないんだ……」
歩いていた男の子の体も声も小刻みに震えている。
その姿が痛ましく、ルーシェの胸が痛む。
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