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旅行編
お出掛けデート 1
しおりを挟む朝の行為の後疲れてしまい、朝食を食べてから戻って休んでいたら、いつの間にかウトウトと寝てしまった。ウィルソンも気遣って寝かせてくれたようで、起きたら結構時間が経っていた。
結局お昼近くになってから街に繰り出すことに。
昨日は暗くて良くわからなかったが、こうして街の様子を見ていると活気があり、ルーシェが働いていた下町の様な感じがして親しみが持てる。
アレキサンドロスの北側に位置するこのペパレッドという街は貿易や物流が栄え、漁業も盛んなことから人々の賑わいも凄かった。
あまり他の街に遠出したことのないルーシェは、見るもの全てが珍しくて、ついつい足を止めて、露店やブティックに見入ってしまう。
「何か気に入ったものがあったら言ってくれ」
ウィルソンがその度に聞いてくるが、ルーシェは慌てて首を振る。
ただでさえ連れて来てもらっているのに、これ以上何かしてもらうつもりはない。
お金なら自分も少しは持って来ている。
クロウドのお屋敷の人達や、両親にお土産として何か買おうと思っていたから。
「見るのが好きなので大丈夫です。あ、ウィル様…あれはなんでしょう?」
少し離れた露店でアクセサリーを売っている。
ルーシェはめったに買ったり身に付けたりしないが、こうしてキラキラしたものを見るのは大好きだ。
「うわぁ~可愛い!これって、珊瑚ですよね?」
珊瑚の赤ピンク色が鮮やかに台を彩っている。近くにより、屈んで見ていると声をかけられる。
「あら、良く知ってるわね!そう、これは全部珊瑚から出来た物なのよ!うちの自慢の商品なの!綺麗でしょ?」
ルーシェより少し上くらいの売り子が、得意気に説明していく。
「はい、凄く綺麗です!あ、これはもしかして翡翠ですか?」
「そうよ!あなた……本当に良くわかるわね?ここら辺でも滅多に取れない貴重な石なのに。ほとんど市場には出回らないのよ」
そこ言葉にギクリとする。前世ではそこまで珍しくない石だっただけに、そんな貴重な物だとは思わなかった。
「えー…と、あの…たまたま、見かけたことがあって……」
しどろもどろになりながら、誤魔化す。
「君は意外と博識なんだな」
「ウィル様!すみません……自分ばかり楽しんでしまって!」
見ている後ろから声を掛けられ、立ち上がって慌てて謝る。
「大丈夫だ。しかし、良くこんな場所でヒスイが出ているな。王都でもあまり見ない」
「ウィル様…こんな場所とは失礼ですよ」
ルーシェがすかさず突っ込む。
「いえいえ!とんでもない!お気になさらずに!!」
ウィルソンを見た売り子が、目を輝かせ顔を真っ赤にして喋り出す。
「ルー、そろそろ行こう。疲れただろう?」
ルーシェの髪を一房手に取ると、そこにキスを落とす。そのあまりに自然な仕草に一瞬外だと忘れてしまう。ハッとして、恥ずかしさに俯いてしまう。
「はい…でも、まだ疲れてはないです……」
人前だから少し遠慮してくれているとは思うが、周りにいた女性達や売り子の女の子もポーとした顔でその光景を目に焼き付けている。
実はさっきからこうなのだ。
またしても同じ反応にルーシェは辟易とする。
ウィルソンは見目がかなり良い。その立ち振舞いも格好も、滲みでるオーラも、どう見たって位の高い貴族そのものだ。
偉そうにしているわけじゃないのに、溢れでる品格は隠せるものではない。
その隣にいる自分と来たら、むしろこの街の一部になっているんじゃないかというほど馴染んでいる。化粧はあまりしていないが、派手ではないわりと良いドレスも着せてもらった。なのに、どうしても貴族のご令嬢には見えない。
見えたとしても、裕福な商家の娘くらいだろう。
なんで一緒にいるのがこの娘なの?という顔で見られるが、もう慣れっこだ。散々学園で経験してきたので、そんな視線も余裕を持ってかわしている。
(本当にウィル様は、私には勿体ないくらい素敵な人だから、他の人の気持ちはよくわかる………ん?…そういえばウィル様って、何で私のこと好きになったんだろう?)
改めて隣を歩いているウィルソンを見るが、相変わらず見惚れるほど秀麗な顔で、ルーシェがはぐれないように腕を組んでエスコートしてくれている。
(うーん…今さらだけど、全く理由はわからない……そもそもウィル様は女嫌いなはず……あのメモには幼い頃、酷い目にあったとしか書いてなかった)
その事に関し、もちろん詮索するつもりはない。
ウィルソンもルーシェの前世を無理に聞こうとはしてこない。
これもルーシェの偏見だが、恋人同士になれば、何でもお互いの事を知っていて当然なんだと、自分勝手に思っていた。
前世の友達なんかは良く彼氏の行動やスケジュールで知らないこともあり、なんで恋人同士なのに、と不思議に思っていた。
お互い好きあっていても、やはり踏み込んで良い部分と踏み込まれたくない部分があるのは、どのような関係でも同じなんだ。としみじみ思う。
(私が知らないウィル様の顔なんて、きっと沢山ある。それを知ったとしても……私がこの人から離れたいなんて思うことは、一生来ないんだろうな………)
まぁ、逆はあるかもしれないが……
ウィルソンが自分に愛想を尽かすことはあるかもしれない。
そんな日がもし来るとしたら、自分はどうなるんだろう……想像もしたくない。
腕に添えてあった手をギュッと握る。
もう、この手は離せないし、離したくない。
「どうした?」
急に腕を握った事を疑問に思ったのか、気遣わしげに聞いてくる。
「いえ、何でもありません」
誤魔化すように笑顔で答えると、ちょっと不思議そうにしながらも、ウィルソンも笑って返してくれる。そして組んでいた腕を崩し、ルーシェの手を絡める様に繋ぎ直す。恋人繋ぎといわれるものだ。
「もう少しで着くから、そこでお茶にしよう」
「は、はい」
ルーシェは顔を真っ赤に染める。
こうしたデートでこうやって手を繋ぐのが、前世からの憧れだった。
絡まる指が熱くて、胸がドキドキする。
(これは思った以上に、ヤバい………)
ウィルソンの仕事の関係上、まともにデートやお出掛けなどしたことがない。自分も仕事や学業に忙しく、不満なども特になかった。
だから学園の偽婚約者以来、久しぶりに人前でこうして手を繋いだ様な気がする。
あの時はまだウィルソンとは恋仲ではなく、婚約者のフリなのだからと、なるべく深く考えないようにしていたから。
周りの視線が更に痛い気がするが、気にしない。
昔の自分を振り返り、ルーシェは今ある幸せをかみしめるのだった。
********************************
いつも読んで頂き、ありがとうございます!プライベートが少し忙しく、更新が不定期になると思います。申し訳ございません。
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