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続編
隠しキャラ
しおりを挟むルーシェの長かった学園生活も、そろそろ終えようとしていた。ウィルソンとの婚姻も控え、少し落ち着かない日々を送っていた。
そんなある日の早朝。
いつもの打ち込みをしていたルーシェは、背後からただならぬ気配を感じ、振り返って瞬時に木刀を構えた。
「ほぅ……なかなか良い反応だな」
そこには金髪碧眼の美しい男が立っていた。
肩より少し長めの真っ直ぐな金髪に、威圧感のある碧眼、面白そうに笑っている顔はウィルソンに負けない位美しい。服がこの国の物と少し違う。
(だれ?この人?)
殺気を感じたからつい木刀を向けてしまったが、もしかしたらお客様かもしれない。
「失礼ですが、貴方はどなたですか?」
正体不明のこの男は、どこか油断してはいけない様なオーラを放っている。
木刀は下ろしたが警戒心全開で聞いてみると、意外と簡単に答えてくれた。
「あぁ、俺か?俺はライオルと言う」
ライオル?
何だかどこかで聞いたことがあるような?もしかして坊っちゃんのお友達?
「ライオル…様でございますか?……失礼ですが、貴方は何者ですか?」
「隣国から来た者だ」
隣国…ライオル………もしかして……………!!
ルーシェはその場で膝をつき、頭を下げる。
「無礼を働いてしまい、大変申し訳ございません!ライオル皇子殿下」
(そうだ!この人、ジェフさんが倒れた日に来たウィル様のご友人だ!!)
ルーシェは頭を下げながら、ダラダラと嫌な汗を全身に掻いていた。
皇族に刀を向けるなど、不敬罪に問われてもおかしくはない。自分のしてしまったことに体が凍る思いだ。
「頭を上げろ。俺が背後から殺気を放ったんだから、気にするな。しかし…お前こそ何者だ?」
ルーシェは恐る恐る頭を上げるが、相手は怒っては無さそうだ。命が繋がったとホッと安堵の息を吐く。
「私はここの使用人でございます」
「クロウドは、いつからメイドに訓練させる様になったんだ?」
不思議そうな顔をして聞いてきたが、素直に答えないとダメそうな雰囲気だ。
「クロウド侯爵家での教育ではなく、私が自分で行っている鍛練でございます」
「ほお、お前がか?」
「左様にございます」
ルーシェは未だ膝をついている状態だが、ライオルはどこか愉しそうにこちらを見ている。
何だかイヤな予感がする。
ライオルは離れた距離からルーシェに近づいてきた。目の前までくるとルーシェに手を差し出す。
(え?どうすればいいの?何で手なんか差し出すの??)
ルーシェは軽くパニックになっている。相手の意図が見えない。
呆然とその差し出された手を見ていたが、相手が痺れを切らしたのか、急に腕を掴まれ引き上げられた。
「え?!……あ、あの……」
「いつまでそうしているつもりだ?」
ライオルはルーシェを立たせると、腕を掴んだままジッと見ている。
「お前、名は何と言うんだ?」
「え、あ、はい。ルーシェと申します」
「何故剣術を?」
「は、はい。幼い頃から習っておりまして、その習慣で現在も続けております」
「なるほどな」
(いい加減腕離してー!もう嫌!!)
この人は何なの?私の何が知りたいの?お願いだから、ほっといてよ!
ルーシェは泣きたい気持ちになっていた。
早く解放してほしくてひたすら相手の出方を窺う。
すると、ようやく腕を離してくれた。すかさず後ろに下がり距離を取る。
もう去ってもいいだろうか、逃亡したい気分だ。
「申し訳ございませんが、ご用が無いのでしたら私はこれで………」
許可を取り、さっさと消えようと声をかけた。
しかし、ライオルはニヤリと嫌な笑顔を見せる。
「よし、俺と手合わせするぞ」
「はっ?はい?!」
不敬かと思ったが、言わずにはいれなかった。何が悲しくて皇子相手に手合わせしないといけないのか。
「大変申し訳ございませんが、私は──」
「ちょっと待ってろ」
そのまま走って行ってしまう。
ウィルソンといい、ライオルといい…何故高位の貴族、皇族は人の話を聞かないのだろうか。
ルーシェはこのまま逃げようかと何度も何度も考えたが、ろくなことにならないだろうと思い諦めた。
しばらくしたらライオルはどこから取り出したのかわからないが、木刀を持ってきた。
「待たせたな。さあ、始めよう」
(誰か、助けて~!)
「あの、皇子殿下。私は手合わせなど恐れ多くて……」
「気にしなくていい。始めるぞ」
ライオルは持ってきた木刀を構える。
(気にしてよ!!どうなっても知らないからね!)
ルーシェはヤケクソになり、木刀を構えた。
ライオルが斬りかかるが、ルーシェはすかさず受け止める。一打が重い。
「ぐっ……!」
「ははっ、止めたか!」
ルーシェは後ろに飛び退き、構え直してから一気に踏み込み、振り翳す。
「はぁああ!」
しかし、横から弾かれ、止められてしまう。
「くっ!」
「良い太刀筋だ」
そして打ち合いが続く。
(この人…強い!ウィル様より強いかも)
ルーシェは打撃を受けるのがいっぱいで、なかなか反撃出来ず、守りに徹してしまう。
ルーシェが一瞬の隙をついて、間合いに入りこんだが、防がれて弾き飛ばされてしまった。
「──甘いな!」
「きゃあ!」
飛ばされたルーシェは尻餅をついてしまい、その拍子に僅かに足をひねった。
(痛い……これはやっちゃったな……)
バレない様に上手く誤魔化さないと。
木刀で体を支え、何とかソッと起き上がると、理解出来ないことを言われた。
「おい、大丈夫か?お前良い腕してるな……俺と来るか?」
(はい???)
俺と来るか?って何?何処に行くの?
疑問に思っているルーシェを他所に、ライオルはルーシェに近づき、腕を引いて連れて行こうとする。
「え、ちょっと!痛っ!」
強引に引かれたせいか、痛めた足をついてしまい、崩れ落ちて声が漏れてしまった。
ライオルは足を止め、ルーシェを振り返る。
「足を痛めたのか?……悪かったな。俺が運んでやる」
抵抗する間もなく、軽々とお姫様抱っこをされ、その逞しい身体に思わず狼狽える。
「え、や!ちょっ…お止め下さい!大丈夫ですから!降ろして!」
ふわりと甘い香りが胸元から漂い、一気に顔が赤くなる。
初対面なのに距離が近すぎる。皇族だということも忘れ、叫んでしまった。
「こら、暴れるな!女はこうすると喜ぶんだが…お前は変わってるな」
(何でもいいから降ろして!心臓がもたないよ~)
ウィルソンに慣れてきたとはいえ、未だにルーシェは男性が苦手だ。
しかもなぜか周りには、見目麗しい男性が多すぎる!
顔の綺麗な人は特にルーシェの苦手とするところだ。本当に勘弁してほしい。
「皇子殿下!本当に歩けますから、離して下さい!」
ルーシェの訴えなど聞きもしないライオルは、ルーシェを抱えスタスタ歩いて行く。
「駄目だ。無理をすると後で痛い目見るぞ。黙って運ばれろ」
有無を言わせずに、お屋敷の方へ向かう。
(もう、本当に勘弁して~~!!)
ルーシェは心の中で盛大に叫んだのだった。
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