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本編
対価 ※
しおりを挟むルーシェは無事進級し三年生になった。エミリオやグレンは今回卒業してしまった。
それに合わせ、ウィルソンも三年の途中で飛び級扱いになり、事実上卒業となる予定だ。それから本格的にエミリオの側近として城勤めに入る。
そしてルーシェは当初の予定通り、進級と共にクロウド侯爵家を辞め、寮に入る予定であった。
元々その約束で雇ってもらったし、ルーシェ自身も直前までそのつもりだった。
だが、それを聞いたウィルソンが全力で阻止してきた。
只でさえ学園も半ばで卒業し、二人で居る時間が減るのに、お屋敷も去ってしまったら会える時間が僅かになってしまう。
ルーシェとしては、このまま働かせてもらった方が有り難かったし、ウィルソンの必死な説得も受け、とりあえず現状維持ということで話は纏まった。
◇◇◇
「ルー、今度の休日に共に登城してほしい」
夜。
ルーシェの自室に訪ねてきたウィルソン。
ベッドの上で口付けを交わしながら告げられる。
「んっ、ん……は…い?私が…ですか?…あっ」
「あぁ、エミリオ殿下がお呼びだ」
首筋を軽く吸われ、ぞくぞくした感覚が背筋を這う。
「あ…ぁ…エミリオ…殿下が?どうして、私を……?」
「今は…こちらに集中してくれ……」
乳房を撫でていた手が、敏感な先端をきゅっとつねる。
「あっ…ん!」
◇
後から聞いた話だと、偽聖女クレアと国家反逆を図った事件について直接伝えたい事があるそうだ。
今までは学園で会っていたが、卒業してしまったため今回の登城となるらしい。
そんなわけでウィルソンと共に王宮へ行く事に。
今回で三度目だが、相変わらず緊張する。
こうしてじっくりお城の中を眺めるのは初めてだ。前の二回はそんな余裕さえなかった。
第二王子専用の執務室まで案内される。扉を開けると、エミリオとグレンが待っていた。
スカートの裾を持ち、礼を取る。
「本日はお招き頂き誠に光栄でございます。第二王子殿下におかれましてはご機嫌麗しく…」
「相変わらずだね、ルーシェ嬢。挨拶はそのくらいにして、こっち座って」
紅玉の瞳をおかしそうに細めながら着席をすすめる。
「……はい。失礼致します」
応接用のソファに座るが、座り心地の良さに落ち着かなくなる。
「殿下、こちらは前にご所望されていた物です。宜しければお納め下さいませ」
持参品として、この前気に入ってくれたシフォンケーキのチョコと紅茶バージョンを用意した。
「え?あぁ、覚えていてくれたんだ!嬉しい!ありがとう!」
「恐縮にございます」
「も~普通に話してくれて大丈夫だよ。ウィルからも聞いていると思うけど、今日は君に話が合って呼んだんだ」
「私にどういったご用件でしょう?」
「今回、聖女及び学園関係による国家を巻き込んだ重大事件に発展した。そこで、事件解決の立役者となった君に褒賞を出そうと思ってね。事件の関係上公には出来ないけど、陛下にも了承済みだよ」
「ほ、褒賞……ですか?私は大したことはしておりませんが」
「いや、ルーシェ嬢がいなければ今回の事件はこんなに早く解決出来なかったよ。下手すればあの偽聖女が兄上の妃となり、ゆくゆくは即位した後、裏から操ろうとしていたんだから」
そうなのだ。ノルン男爵及びアルビオン学園の現学園長は、クレアの先見の能力を使い、聖女として奉り上げ王子の婚約者となり、正妃になった暁には、裏から国を牛耳ろうとしていた。
そんな恐ろしい国の乗っ取り事件にまで発展していたのだ。
あとでウィルソンから聞い時は驚きを隠せなかった。
「そーだぞ。ルーシェ嬢は本当にすごい活躍ぶりだったからな!」
騎士服を着たグレンも笑いながら言う。
「ルー、遠慮はいらない。殿下が君の功績を讃えたいと言って下さるのだから、難しく考えず受け取るといい」
ルーシェの後ろに立っていたウィルソンにまで言われてしまい、腹を括る。
「私のような者が受け取って良いのかわかりませんが、慎んで頂戴致します」
「良かった!…それでね、君に何がいいのか聞こうと思って呼んだんだよ」
「そうでしたか。お気遣い痛み入ります」
「で、何か欲しい物はある?」
「欲しい物、でございますか……?」
ルーシェは考える。
いきなり言われたのもあるが、特に欲しいものもない。前はお金が欲しかったが、今はお屋敷で働いているし、ウィルソンが将来の為にとルーシェの学費を全部払ってしまったのだ。
だから特に思い浮かばない。
「少し…考えるお時間を頂いてもよろしいですか?急なことで何も思い付かなくて………」
「ルーシェ嬢って本当欲がないね~。他のご令嬢ならすぐ宝石、ドレス、領地とかさ…酷い人間になると、僕らの誰かと婚約させて欲しいとか言ってくるからね」
エミリオは既に婚約者がいる。グレンは婚約者がいるらしいが、誰なのかは知らない。
「それは、大変ですね……」
「そうなんだよ。ま、そんな人間とは死んでも婚約なんてしないんだけどね」
そう言って笑う顔が、とても可愛らしいのに怖い。
ルーシェは、エミリオの目が笑っていないことに恐怖を覚えた。
(エミリオ殿下って、一見穏やかそうで話やすいんだけど、なんだか腹黒って感じがするんだよね……だから隙を見せられないっていうか………)
ルーシェの勘が油断してはいけないといっている。それは強ち間違えではないのだが、知るはずもなかった。
「とりあえず考えておいてね」
「畏まりました」
その日はそのままルーシェだけが、お屋敷へ帰り、ウィルソンとはその場で別れることとなった。
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