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本編

決着

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 学内の王族専用の応接室。

 いつもの様にエミリオが中央に座っている。

「話は聞いたよ。助けに行くのが遅くなってしまったね…二人とも怪我はないかい?」
「私とルーシェは無事です」
「それは何よりだね!まぁ…そろそろ来ることはわかっていたんだけど。刺客を送るにしても、素人の破落戸ごろつき雇うなんて。ホンとにお粗末な連中だよ!」

 呆れた様にエミリオがぼやく。

「まっ、その破落戸の口が軽いおかげで、背後関係が見えてきそうだし。ようやく決着が付きそうだよ!」
「やっとですか~!長かったな~」

 エミリオの言葉に、隣に立っていたグレンがため息をつく。

「そういえば、ルーシェ嬢。君が破落戸の半数を倒したそうだけど……本当に君は何者なんだい?」

 エミリオに驚いた様に話を振られる。信じがたいようだ。

「何者、と言われましても……」

「俺も途中からしか見てないけど、あの身のこなしは見事だったぞ!」

「君が強いのは知っていたが、体術までこなすとは驚いた」

 ルーシェの隣に立っていたウィルソンも、意外そうな顔でルーシェを見下ろしている。

「ねぇ、やっぱりどこかの諜報部スパイなんじゃないの?」

「……違います」

 幼少期から護身と領地を守るため、体術と剣術を習っていたと説明する。
 サタナイト男爵家に護衛を雇う金などない。
 自分たちの土地は自分たちで守る、という理念の元に生み出された考えだ。
 
 その話を聞いてエミリオがある提案してくる。
 
「ルーシェ嬢、良かったら王宮の侍女として働かない?勿論僕付きのね。君なら僕が太鼓判押して推薦してあげるよ」

「王宮の侍女ですか!しかも殿下専属の!!」

 ルーシェも驚きながら飛び付くように聞き返した。

「うん!悪い話じゃないと思うよ」

 王宮の侍女など、職種の中では最上位。しかも殿下専属と言ったらこれ以上ない名誉だ。誰もが憧れる職業。
 ルーシェの目がキラキラと輝く。
 それを見たウィルソンは焦る。

「エミリオ殿下、お待ち下さい!ルーは我が家の使用人です!勝手に引き抜ぬかれては困ります!」
「優秀な人材を確保するのも王子としての努めだよ。僕は君じゃなくて、ルーシェ嬢に聞いているんだ」
「しかし!」
「ウィル。君に決定権はないよ」

 エミリオの表情はにこやかだが、目が笑っていない。

 そんな二人のやり取りを他所にルーシェは真剣に悩んでいた。王宮で働くなんて夢のまた夢。
 それが現実に手に入ろうとしている。
 専属侍女のお給金は破格だ。
 もし話を受ければサタナイト男爵家も潤うし、王子専属としての箔も付く。
 心はかなり専属侍女に傾いていた。

「もしかして君は、この話を受けるつもりか?」
「え?あの、まぁ、もの凄く魅力的なお話ですよね?」

 すると隣に立っていたウィルソンは切なげに眉をよせ哀しそうな表情になる。
 その突然の変化に隣で見上げたルーシェは、胸がキュンとしめつけられる。

(え?…え?何?……なんでそんな顔するの?)

 ウィルソンに両肩を掴まれ、自分の方に向けられる。

「……私を置いて行ってしまうのか?」
「えぇ?!」
 
 捨てられた子犬のような瞳に見つめられ、ドキドキと動悸が治まらない。
 そんな、別れ話を切り出された恋人のようなセリフを言われても……

「ルー…行かないでくれ」
「あ、あの……?」
 
 ウィルソンはエミリオの側近だ。ルーシェがエミリオ専属になれば逆に今よりも会う確率も上がる。
 どうしてそんなに引き留めようとするのか解らない。
 
「ぶはっ、アハハ~!もうダメ!あ~おかしい!」
「で、殿下失礼ですよ。ぷくくっ~」

 突然エミリオが吹き出し、グレンが笑いだした。

 ルーシェは訳がわからずポカーンとしてしまう。

「ハハハっ、ごめんごめん。ウィルがあまりにも必死だから可笑しくて!」
「ウィルがあんな顔するなんて、信じらんねぇ!」

 よほど可笑しかったのか、エミリオは目に涙を浮かべている。

「殿下…グレン……」

 その様子に、地を這う様な低い声が直ぐ側で聞こえ、ビクリと体が震える。
 相当お冠らしいウィルソンは、二人に恐ろしいほど冷たい瞳を向けている。
 
「ごめんてば!怒らないで、ウィル…素が出ちゃってるよ?でも君の本気度が良くわかったよ」
「あの女嫌いのウィルを、ここまで骨抜きにさせるなんて、本当にスゲーな!ルーシェ嬢!」

 未だに可笑しそうに笑っているエミリオ。

「?は?はぁ………」

 グレンにも関心したように言われるが、正直何を言われているのか良くわからない。
 
 とりあえず、からかわれただけなんだろうか。
 本気で王宮で働けると夢見てしまったが、どうやら違うらしい。
 ルーシェはその事にショックを受けていた。

「ルー、私は君を手放すつもりはない。私の元から離れようとしないでくれ」

 先ほどの冷たい表情から一変し、真剣な眼差しでルーシェを見る。

「え、えっと。はい。私もそのつもりです」

「本当か!」

 それを聞いたウィルソンは安心したように、パッと明るい表情に変わる。

「は、はい。クロウド侯爵家で雇ってもらわなければ住む場所もないし、学費も払えませんから」

 その言葉に三人が固まった。

 エミリオとグレンがヒソヒソと話し出す。

「ルーシェ嬢ってさぁ、もしかして相当鈍い?」
「ウィルは結構あからさまにアピールしてると思いますけど」
「あれは苦労しそうだね。見てる方は楽しいけど」

 小声で話し出す二人にルーシェは首を捻る。
 男性が苦手で、色恋沙汰に疎いルーシェは、向けられる好意になかなか気付かない。

「ルー」
「は、はい?」

「君を必ず手に入れてみせる。覚悟してくれ」

「はぁ……?私は何処にも行きませんよ?」


 そんな二人のやり取りを見て、外野は笑いが止まらないのであった。















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 読んでいただき、ありがとうございます!

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