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本編

密会 2※

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 読んでいただいてありがとうございます!
 R 15くらいなので、一応(※)付いてます。


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 授業が始まってしまったが、とても受けられる状態ではなかったので、ルーシェはウィルソンに連れられて医務室までやってきた。
 中に入るがどうやら先生は不在のようだ。

 ソファーに腰掛けるように言われ、素直に腰を下ろした。
 泣き張らした目元はまだ赤いが、だいぶ落ち着いた。ウィルソンもルーシェの隣に座る。
 心配そうに顔を見られるのが恥ずかしくて、もらったハンカチで口許を押さえていた。

「それで一体何があったんだ?急にいなくなって心配した…誰かに、呼び出されたりしたのか?」

「……………そういったことはありません」

 咄嗟に嘘をつく。勿論それもあった。ただ、複雑すぎて説明が出来ない。
 
「では何があったんだ?」

「…………」

 俯いて中々喋らないルーシェ。
 嫌がらせに辟易していたところにさらに追い討ちをかけられ、吃驚してショックを受けた。
 
 だが、自分が何かされたわけではないのだ。

「君が泣く…ということは、よほどのことがあったんだろう?少しずつで良いから話してくれないか?」

 隣から気遣うように問われる。
 引き下がらないウィルソンにとりあえず、先ほどあった出来事を話すことにした。

「ウィルソン…様……」

「なんだ?」

「……実は──」

 ポツリポツリと先ほどあったクレアの事を少しずつ語り出す。ウィルソンは口を挟むことなく隣で静かに耳を傾けてくれている。

「────と、いう訳なんです」

「……そうか」

「お騒がせしてしまい、申し訳ございません」

「いや……ルーシェ」

 並んで座っていた横から、腕を捕まれる。ギョッとして、隣のウィルソンの顔を見上げた。

「ウィルソン様?」

 真剣な顔で見つめられる。

「───それだけじゃないだろう?」

 その言葉に体がギクリと強張る。

「君が嫌がらせをされている、という報告をクラウスとレーベル嬢から受けている」

「──!」
 
 クラウスとアイリスがウィルソンに告げていたとは。アイリスはまあ現場を見てるし…クラウスに至っては誤魔化したが、制服を濡らして帰って来たのを見られている。
 本当に情けない……結局は皆に心配され、迷惑をかけてしまった。
 
 ウィルソンは少し視線を落とし、表情を曇らせる。

「すまない。なかなか現場を押さえられず、気付くのが遅れてしまった」

 それはそうだろう。大抵は人気のない場所に呼び出されるのだから。高位貴族のご令嬢なら見られたとしても口封じされるだろう。

「……別に…大したことはありません……私は平気です」

 ウィルソンの顔が見れない。居たたまれなく顔を背けてしまう。

「平気じゃないから、逃げ出したんだろう?君が迷惑をかけまいと、黙っていたことも知っている」

「………!」

 掴まれていた腕を引き寄せ、ギュッと抱きしめられ再び腕の中に捕らわれた。

「先程は責める様な真似をして悪かった。だが、頼むから1人で抱え込まず、もっと私を頼ってくれ」

 離れなければいけないのに、その腕の温かさに離れがたい想いが沸き起こる。

(お願いだから、そんなに優しくしないで……)
 
 ルーシェはぎゅっと目を瞑る。言われた言葉が心に染み渡る。

 どんなに虐められても、冷たくされても、そこまで傷付くこともないし、慣れているから耐えられる。
 
 でも、こんな風に優しくされるのは駄目だ。
 
 堪えられない
 
 こんなに心が弱っているときに、そんな風に言わないでほしい。
 優しくなんてして欲しくない。突き放してくれた方が強がっていられるのに。
 妙な勘違いなどしたくないのだ。
 

「私…は………」

 泣きたくないのに、また涙が込みあげる。ルーシェはグッと我慢する。これ以上弱味を見せるのはもう嫌だった。
 
 ウィルソンの胸元に両手をつき、鎖骨辺りにおでこをつけて黙っていると、長い指先で頬を優しく撫でる。
 
 くすぐったくてゆっくり上を見上げると、薄紫色の瞳と目が合う。
 吸い寄せられるようにじっと見つめられ、近づいてくるのに目が逸らせない。
 その宝石の様に美しい瞳は、間近で見ると違う色もうっすらと混じっていた。

(この瞳……どこかで……)
 
 だが、直ぐにその思考は中断される。
 ふいに温かく柔らかな感触が唇に当たる。確かめる間もなくすぐに放され、また唇を奪われる。

「──っ!」

 胸を両手で押すが、後頭部と背中を手で抑えられ逃げられない。
 先ほどの触れる様な口付けではなく、今度はしっとりと吸い付くように唇を合わせてくる。
 そして、するりと舌が入り、ルーシェの舌を絡めてなぞる。

「ふぅ……ん…ん、…」

 前にされた時のような甘い疼きが身体を支配する。
 力が入らなくて抵抗らしい抵抗もできない。
 重ねられる唇と舌の感触に、ただただ翻弄される。
 
「ん……ふぅっ、……ん…っ」
 
 ウィルソンは時々唇を離しながら、愛おしむように囁く。
 
「ルーシェ…」

 そしてまた深く口付けられる。重ねられた唇が熱くて気持ち良くてクラクラしてしまう。身体の奥に情欲の焔が燻る。

「ふぁ……ん……ぅ………」

 胸を押していたはずの手は、震えながらウィルソンの制服を力なく握る。

「んっ……ん、は………」

 ようやく解放された時には、身体中の力が抜けてしまった。

「はぁ……はぁ……」

 ウィルソンの胸元に顔を寄せ、肩で荒い息を整える。

(……な、んで…………)

 突然の出来事に訳がわからない。
 
 頭が痺れた様に麻痺していて何も考えられない。
 心臓が壊れたように激しく脈打つ。

 ウィルソンは、愛おしそうに頭の天辺にキスをしながらルーシェの髪を撫でている。
 まるで恋人にでもなった様な気分だ。
 胸がドキドキして、体がふわふわしてる。

(急に…キスなんて……どうして……)

 この妙な甘ったるい雰囲気に呑まれそうになるが、どうにか振り切って話を切り出す。

「あ、あの、ウィルソン様……」

「ウィル…と呼んでくれ」

「は、はい?」

「私も君のことはルーと呼ぶ」
「???」

(え?…えぇ?急にどうしちゃったの!?)
 
「落ち着いたか?」

 頭の上から心配するように声をかける。

 ある意味全然落ち着かなくなったが、先ほどのショックはすっかり吹き飛んでしまった。
 とりあえず首を縦に振ることに。

「しかし、まさか教師とまで関係を持っているとはな」

 急に話を変えられ、ルーシェも慌ててウィルソンから距離を取る。

「あ…はい……私も、驚いてしまって……」
「無理もないな」
「今回の件と関係あるのでしょうか?」
「あぁ、恐らくは……」

 ウィルソンは考え混むように片手を顎に当てる。

「ウィルソン様?」
「ウィル、だ」
「っ!う………ウィル…様……」

 愛称で呼ぶと、よほど嬉しいのか蕩けたような甘い笑みを向ける。
 その表情に胸がギュッと掴まれた様にざわめく。


(なんで……そんな瞳で見るの……)


 元々前世から今に至るまで男性が苦手で、愛だの恋だのとは縁遠い生活をしてきた。
 男の人がどうしてこんな事をするのか理解できない。
 泣いてしまった自分に対する、ただの慰めのようなものなのかもしれない。
 考えても答えは出ない。

 
 そもそもウィルソンの様な上位貴族が、自分の様な下位貴族で、更に末端の人間を相手にする訳がないのだ。
 ルーシェと一緒になることに、何の利益もない。 
 良くて遊び相手。  
 飽きればいつか棄てられてしまう。
 
 それは、わかってる。

 
(大丈夫………私は……勘違いなんてしないし、間違ったりもしない)

 ルーシェは自分の心に言い聞かせる。
 
 そんなルーシェの心を知らないウィルソンは、そっとルーシェの頬に長い指を添え、顎のラインを確かめるようになぞる。その感触にゾクリとしてしまう。

「君を危険に巻き込みたくはないが……ここまで関わってしまうと後戻りは出来ない。これからは今以上に私の傍から離れないでくれ」

「──は、はい」

 ルーシェがちゃんと返事をしたのに満足したのか、ウィルソンは頬から手を離してくれた。


(ダメダメ!しっかりしなきゃ!!)

 
 気合いを入れるように両手で頬をパンッと叩いてその場を立ち上がる。
 
 驚いたようにウィルソンが見上げた。

「もう大丈夫です。戻りましょう!」

「ふっ……やはり君は面白い」

 ウィルソンはルーシェを見て笑顔を浮かべている。が、ルーシェは気づかない。

「?何か言いましたか?」
「いや」

 
 動揺する心を押し込め、ようやく通常運転に戻ったルーシェは教室へと向かった。







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