【R18】ルーシェの苦悩 ~貧乏男爵令嬢は乙女ゲームに気付かない!?~

ウリ坊

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 ジェフが倒れて一週間が経ちようやく現場復帰出来る様になった。
 みんな喜んでいたが、一番喜んだのはルーシェだ。これで毎日の料理作りから解放される。作るのは楽しいが、豪華な晩餐を毎日作るのは肩が凝る。
 
 これで晴れてルーシェも通常運転だ。

 そんなある日の休日。解放されて機嫌が良かったので、歌を歌いながら外で洗濯を干していた。
 今日は風はないが、天気が良くカラッと晴れている。

 ふいに後ろから気配を感じる。マーサさんかと思い振り返る。

「随分、機嫌がいいんだな」

 何故かウィルソンがルーシェから少し離れた場所に立っていた。吃驚して、後ずさってしまう。
 何故こんな所にいるのか疑問だ。今まで一度もここで会ったことはない。


「坊っちゃん。どうかなさいましたか?」
「………頼むから、坊っちゃんはやめてくれ」

 相変わらずの美貌だ。失礼かと思ったが、直視出来なくて目をそらしてしまう。
 長身でスタイルの良いウィルソンはルーシェより頭一つ分くらい高い。ルーシェもそこまで低い方ではないのだが。

「では、何とお呼びすれば宜しいですか?」
「ウィルソンでいい」

 サラッと言われるが、そういう訳にはいかないのだ。

「申し訳ございませんが、此方では使用人の立場ですし、親しい間柄ではございませんので………クロウド様と呼ばせていただきます」
「とりあえずそれでいい」

 ウィルソンは何を考えているのか良くわからないが、ルーシェをジッと見て、考えているように感じる。

 急にどうしたんだろう?今朝はお城に上がったのに。早帰りだろうか?休日にお屋敷にいること事態珍しい。

「私に何かご用でございますか?」
「あぁ。実は君にお願いがあるんだ」

 端正な顔にうっすらと笑みを浮かべる。その秀麗さに思わず見入ってしまうが、直ぐに正気に戻る。

 (私にお願い?坊っちゃんが直々に?)

 何やら嫌な予感がする。
 クラウスを通さず、直接言ってくるということはあまり良いことでなはなさそうだ。

「私に、お願い…ですか?」

 ルーシェは何やら不穏な予感がして、声のトーンを低くし身構える。
 ウィルソンはその様子に気付いたのか警戒を解くように両手を挙げる。

「君は野生の勘でも働くのか?随分察しがいいな」

 警戒しているのがわかったみたいだが、引き下がる気は無いようだ。
 ルーシェは気を引き締めて、ウィルソンの言葉を待つ。

「実は今度、王宮で舞踏会があるんだが…それに私の相手役として一緒に行ってほしい」
 
「……………」

 その言葉にルーシェの身体がピシリと固まる。
 
(うん!やっぱりそうだった!)

 無謀過ぎるお願いに思わず眉間にしわが寄る。

 いや、どう考えても無理だろう。
 自分と坊っちゃんなんて月とスッポンどころか月とミドリムシくらい無理がある。
 
 あからさまに顔をしかめているルーシェの反応を見て、珍しく面白そうに笑っている。
 ルーシェにとっては揶揄されているようでムッとしてしまう。こんな馬鹿げたことは考えるまでもない。即刻断ろう。

「大変申し訳ございませんが──」
「ちなみに君に拒否権はない。これは仕事だ」

 頭を下げて丁重に断ろうとすると、即座に返された。

(ええぇぇ!!じゃあお願いとか言わないでよ!!)

「坊っちゃん!私は……」
「坊っちゃんではない」
「………クロウド様、私は舞踏会は愚かデビュタントすらしておりません。ドレスも無ければダンスも踊れません。ですので!──」
「ドレスや装飾品はこちらで用意する。ダンスはあと14日で何とか踊れるようになってくれ」

 何でも無いことのように、サラッと言われてしまう。仕事なんだから当然だと言わんばかりだ。

(いやいや、なに勝手なこと言ってんの!私は何でも屋じゃないんだけど!!)

「あの、お言葉を挟むようですが…ぼっ…クロウド様が望めば、大抵のご令嬢は喜んで引き受けて下さるかと存じますが?」

 言外に自分じゃなく他で頼めと言ってみる。

 ウィルソンはモテる。いや、モテモテだ。第二王子の側近で、侯爵家で、容姿端麗で、将来有望な氷の貴公子のウィルソンは言い寄ってくるご令嬢達が後を立たない。
 そんなウィルソンがルーシェにこんなお願いをすること事態、意味がわからないのだ。

「私には婚約者がいない。いつもなら従姉妹に頼むんだが、最近嫁いでしまってね。今回はそういう訳にいかないから、君に白羽の矢が立った、というわけだ」
「失礼ですが、それでは先ほどの答えになっておりません。私の様な田舎者ではなく、きちんとした由緒正しいご令嬢をお選び下さいませ!」

 今度はキッとウィルソンを見据えて言葉を放つ。不敬は覚悟の上だ。こんな形で社交界デビューするなど勘弁してほしい。
 しかしウィルソンは引かない。少し眦を下げ、困った様な顔をする。
 
 
「……そんな君だから選んだ、というのが答えだ」






 



 






 ◆◆◆◆◆

 作品情報少し変えました(^_^;)
 タイトルも元に戻しました。何度も変更してしまいすみませんm(_ _)m

『ルーシェの苦悩』→『ルーシェの苦悩~貧乏男爵令嬢は乙女ゲームに気付かない!?』

 これ以降はいじらない予定です。

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