【R18】ルーシェの苦悩 ~貧乏男爵令嬢は乙女ゲームに気付かない!?~

ウリ坊

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本編

クロウド侯爵家 3

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 翌朝。
 
 ふかふかなベッドの上で目を覚ましたルーシェは、感動に打ちひしがられていた。
 夜に眠りにつき、変な声にも邪魔されず朝までぐっすりと寝れた。こんなに寝起きの良い朝も久しぶりで、世界が輝いて見えるようだった。


 (神様、ありがとう!)

 
 いや、この場合はウィルソンに感謝すべきなのだが。
 とにかく嬉しかった。体もスッキリしているし、頭も痛くない、身体の倦怠感も消えている。寝過ごすか心配していたが、時計を見てホッとする。
 

 (そろそろ支度しないとな。) 

 昨日、休む前にクラウスに渡された使用人用の服に着替える。お仕着せだ。着替えを終えると、長い髪を後頭部でお団子にする。姿見で確認してから、部屋を出た。

 クラウスと挨拶を済ませた後、お屋敷の使用人の人達と全員ではないが、顔合わせした。
 若い使用人はほぼ居なく、ほとんどがルーシェの親くらいの年代の人達だった。この前辞めたらしいメイドが唯一の若者だったらしい。後から聞いた話だが、若い娘だとウィルソンに懸想するものが後を立たなかったらしい。
 お屋敷は広いが、その割りと使用人の人数は少なめだ。
 
 昨日遅く帰宅したウィルソンにも、挨拶とお礼を言いに行った。
 
 ちなみにクロウド侯爵や夫人はここから離れた領地にいる。跡取りの兄もいるらしいが、一緒に領地で学ぶことがあるらしくお屋敷にはいない。ウィルソンは学園に通うため、1人このお屋敷から通っている、と聞いた。

 そして、ウィルソンは今日も出掛けるらしい。
 どうやらお城に上がり、王子の仕事を手伝っているようだった。近頃は特に忙しいらしく、ほとんど屋敷にいないんだとか。クラウスさんがこっそり教えてくれた。
 
 ルーシェの仕事はこれまで家でやっていたこととそれほど変わりなく、お屋敷の掃除や洗濯といった雑用だった。
 テキパキと手際よく働くルーシェは、すぐに使用人達と馴染んだ。働くことが楽しいルーシェは上機嫌で掃除をする。

(みんな良い人達で良かった。さすがは侯爵家。使用人の人柄も素晴らしいわ。)
 
 学園に通う裏道も、クラウスに教えてもらった。こんな道があったのかと感心したものだ。ちょうど学園の裏側に着くルートだった。
 これなら他の人に見つかることはほぼ無いだろう。

 2日休んで5日学園に行く。その周期は前世の世界と変わらない。
 その日はお屋敷内の案内と仕事内容の確認、実践と慌ただしく過ぎて行った。
 


 

◇◇◇
 


 

 あれから一月程経ち、お屋敷にも、仕事にも慣れてきた。仕事に関しては物足りないくらい余裕を持って出来ている。
 
 今までが忙し過ぎたせいだろう。
 あんなにふらふらになっていたのが嘘の様に、身体の調子も良いし、充実した毎日を過ごしている。本当にウィルソン様々だ。
 
 そしてそのウィルソンとは、同じお屋敷に暮らしている割りと、ほとんど接点は無い。学園からの帰りも遅く、会っても挨拶程度しかしない。
 休日も朝のお見送りを、使用人全員でしている時くらいだ。
 普段の学園すら見掛けることがあまりないのだ。アイリスもウィルソンもクラスが違う。高位の貴族たちが集まる隣のクラスに比べ、ルーシェがいるのは平民や商家の娘や息子が半数で貴族はまばらだ。
 この前ぶつかったのもたまたま、教師に用事があって来ていたらしく、本当に偶然だったみたいだ。
 
 
 まだ学生のルーシェは、基本的に夜は早めに仕事をあがらせてもらっている。学園から帰って来てから、洗濯の取り込みや皿洗い等後片付け担当だ。それが終わると早めに部屋に戻り、勉学に勤しんでいる。

 

 ◇◇◇


 

 侯爵家にお世話になってから更に2ヶ月程経ったある日の休日。
 ルーシェは朝から溜まっていた洗濯物を干していた。
 外の風が木々を揺らし気持ち良く吹いている。朝から晴れて正に洗濯日和だ。

 (ん?誰か来た?)

 人の気配が近づいて来て後ろを振り返った。
 
「ルーシェちゃん、今日は午後からどうするんだい?」
「マーサさん!」

 洗濯の影から出てきたのは、同じ使用人のマーサだ。マーサもルーシェの母親と同じくらいの年齢だ。ふくよかで性格もさっぱりしている。肝っ玉母さんという感じだ。
 休日は朝、仕事をして、午後からは休みでルーシェの唯一の自由時間だ。

「午後からは調理場をお借りして、お菓子を作ろうと思ってます。」
「そうかい!ルーシェちゃんのお菓子は本当に美味しくてねぇ~…この前貰ったグルグル巻いた……何て言ったっけねぇ?」
「ロールケーキですか?」
「あぁ!それそれ。クリームたっぷりで中にフルーツが挟まってて、本当に美味しかったよ!」
「ありがとうございます。私も喜んでもらえて嬉しいです。」
「あれは店で売れるよ!」
「いえいえ、とんでもない。素人の作ったものですから…。」

 最近は休日になると、こうしてお菓子作りをしては他の使用人の人達に振る舞っていた。初めは自分だけで楽しんでいたのだが、見掛けた他の人に食べてみたいとせがまれた。
 ルーシェの作るお菓子は前世のものがほとんどだ。勿論この世界にもお菓子はある。割りと前世に近いモノなのだが、数は少ない。少しスポンジが硬めのケーキやクッキーが主だ。

「それで、今日は何を作るんだい?」
「えっとですね…今日はトリュフを作ろうかと………。」
「とりゅふ?何だい、それは?」
「チョコレートのお菓子です。」

 この世界のチョコは苦いのだ。だから無性に甘いチョコレートが食べたくなった。なので今回はトリュフを作ることにした。

「作ったらまた分けておくれよ!」
「はい!お口に合うかわかりませんが、出来たら持って行きますね。」
「ありがとね。あぁ楽しみだね~♪」

 鼻歌でも歌いそうな感じでマーサは去って行った。クスクスと笑いながらルーシェは残りの洗濯を干した。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 読んでいただきありがとうございます!
  
 作品名を《ルーシェの苦悩~貧乏男爵令嬢は乙女ゲームに気付かない!? 》→《ルーシェの苦悩》に変更致しました。よろしくお願いします。


 学園物なのに学園のあれこれはあまり出てきません。ごめんなさいm(_ _)m
 
 解りヅライ点も多々あると思いますが、あたたかくお見守り下さい。
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