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予期せぬ人物

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 行為が終わると、一気に羞恥心と罪悪感が襲ってきた。
 いつもの閨事ならこのまま夜更けまで交わっているが、出先でそのようにむつみ合っているわけにもいかない。

(人様のお宅でシてしまうなんて……ノアと一緒にいると夢中になって、そんなことも気にならなくなってしまいますわ)
 
 ノアに手伝ってもらいながらドレスを身にまとい、どうにか身なりを整えた。
 髪はそこまで乱れていなかったので、ほつれた部分だけ鏡を見て直している。
 せっかくアルマが気合を入れて綺麗にしてくれて悪いが、まさかこんな展開になるとは思わず、予想外の出来事に自分自身驚いていた。

「そろそろ戻るか?」

「えぇ。お待たせいたしました」

 支度を終えたミレールに手を伸ばし、その手にそっと自分の手を添えた。
 ぐっと側まで引き寄せられて、ノアが耳元に顔を寄せて囁く。

「……続きは帰ってからだな。まだ、足りない」

 耳にノアの吐息がかかり、くすぐったさに肩をすくめる。

「ッ! わ、わかりました、わ」

 言われた言葉を瞬時に理解して、サッと顔が赤らむのを感じた。

(あの程度で、ノアは満足しませんものね……)

 エスコートしてくれるノアの横で、熱くなった頬を冷やすように片手を添えて部屋から出た。

 
 パーティー会場につく手前の廊下に、どこかで見覚えのある女性が待ち構えるように立っていた。

「貴女は、リアーノ伯爵令嬢……!」

「リアーノ……? あぁ。前に言ってたヤツか……」

 この前のお茶会でノアに懸想していることがわかり、ミレールを罵倒してきた令嬢だった。
 突然のように現れたリアーノ伯爵令嬢に、ミレールの不安が瞬く間に広がっていく。
 ノアも覚えていたのか、ミレールの呟きを聞いたあとに向こうへ鋭い視線を送っている。

「……ノア様」

 エスコートしているミレールに憎しみを込めた視線を送り、ぽつりと呟いていた。

「俺に何か用か?」

 グッとミレールの肩を抱き寄せている。

「そんなに、その女がいいのですか……?」

 ボソボソと俯きながら話しているので、はっきりとは聞こえてこない。

「私のほうが、ノア様を、お慕いしてますのにッ……!」

 明らかに様子がおかしい。こちらのことなど構うこともなく、ただ譫言うわごとのようにブツブツと呟いている。

「悪いが俺にはもう妻がいるし、こいつ以外は考えられない。おたくの気持ちには応えられないな」

「――なぜです!! 望まぬ結婚だったのでしょう?! そんな傲慢な女のどこがいいのですか!? 王太子殿下に近づくために、ノア様を利用しているんですよ?! なのに、なぜっ! なぜッ……、そんな女を抱いたりするんですか!?」

「――ッ!」
 
 リアーノ伯爵令嬢の暴言を聞いていたミレールは、最後の言葉にビクッと反応する。

(もしかして、わたくしたちの部屋の前にでもいたのかしら……、でなければこんなことは言えないはず)

 ノアは呆れたように短く息を吐き、それからミレールの肩を強く抱き寄せた。

「それこそ妄言だな……。俺はミレールを愛してるし、こいつも俺を想ってくれてる。誰から聞いた話か知らないが、全部でまかせだ」

「ノアっ」

 はっきりと自分の意見を言ったノアに感動し、視線を移して見上げていると、ノアもミレールに目線を合わせてにこりと微笑んでくれている。
 それだけでミレールは嬉しかった。ノアがちゃんと自分のことを想い、妻だと認めてくれていることが、何より嬉しくて涙が滲んだ。 

「俺達がどうしていようと、おたくには関係ないだろ!」

 そしてまたリアーノ伯爵令嬢に顔を向けると、険しい表情で語りかけている。
 
「……さないっ! ……許さないッッ!!」

 その様子がよほど気に入らなかったのか、リアーノ伯爵令嬢がドレスのスカートを両手で握り締め、憎しみを込めた口調で俯きながら繰り返し言葉を吐き捨てていた。

「――痛ッ!」

 バッと投げつけられたものがミレールにも当たり、僅かな痛みを訴える。
 
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