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夢の終わり
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意識がゆっくりと浮上し、重い瞼をそっと開く。
目の前にはいつも見ている天井が映っていた。
天蓋付きでないベッドで寝ているということは、おそらくノアの部屋だった。
上半身を起こすと、ベッドの脇にノアが座ったまま寝ていた。
「あ……」
よく見ると手が握られている。
ノアの性格から、ミレールを心配して側についていてくれたであろうことは、容易に推測できた。
そう思っただけで目頭が熱くなり、視界がじわじわと滲み、ミレールの紫色の瞳に溢れんばかりの涙が溜まっていく。
(ノアは……ずっと同じでした。幼馴染といってもミレールを好きだったわけでもなく、家のために仕方なく結婚してくれたのに……それでもノアは、ミレールをとても大切に扱ってくれていました。ミレールの精神崩壊が酷くて発狂したときでも、ノアは常にミレールに寄り添い、どんな時でも側にいて慰めてくれましたわ……)
王太子妃になれなかったミレールだったが、結婚してからは幼馴染であるノアに感謝し、一人の男性として優しさに触れ、繰り返される人生の中で次第に恋愛感情を抱いていった。
あの悪夢を見せていたのも、最悪の結果を防ぐための警告のようなものだった。
自分が繰り返した出来事を再び繰り返さないために。
ミレールは救いたかったのだ。
自分も、ノアも、不幸になる他の人達も、すべて――
「ふっ……、うっ、うぅっ……!」
ベッドで蹲ったまま溢れ出る涙を抑えきれず、片手で顔を覆い隠した。
ミレールの気持ちを慮ると、涙が止まらなかった。
そこにいたのは悪役令嬢などではなく、一人の心優しい少女だったからだ。
(わたくしがこれまでやってきたことは、ミレールが心からずっと待望していたことでした。始めはノアを巻き込んで、結婚してしまったことを後悔していましたが……結局ノアとミレールは結婚して、こうなることを望んでいたのだと知り、とても安心いたしました)
「……ミレー……ル?」
ミレールの手を握ったまま寝ていたノアが目覚めたのか、目を擦りながら上体を起こしている。
「ノアっ」
涙を寝間着の袖で拭い、ノアに笑顔を向ける。
ノアは驚いた顔をして、ミレールを凝視していた。
「ミレール! 目覚めたのか! 体は無事かッ?!」
勢いのままノアがベッドに乗り上げて、力いっぱい抱きしめてくれている。
「っ! えぇ。わたくしは、大丈夫、です」
苦しいくらいの抱擁がミレールの心を満たしていく。
ミレールもノアの背中に腕を回し、温もりを感じたくてぎゅうっと抱きついた。
「あぁ、良かった! 心配してたんだッ! あんたが目覚めない間、ずっとずっとずっとッ――!」
よほど心配してくれていたのか、さらに力を込めて抱きしめている。
「っ、……の、あっ……、ありがとう、ございますっ……! ご心配をおかけ、いたしました。あと、……少し、苦しいの、ですが……」
ノアも感情的になり、力の加減ができていないのかかなり息苦しくて、我慢できずに背中をポンポン叩いて促した。
「あ、悪い! 嬉しくて、ついっ……!」
すぐに腕の力を緩めて謝っている。
ミレールも顔を上げて、申し訳なさそう見下ろしているノアに向かい笑みを浮かべた。
「ふふっ、貴方が相変わらずで、わたくしも安心しましたわ」
「ミレール?」
ノアが不思議そうに名前を呼んでいる。
勝手に口をついて出た言葉に自分でも驚いたが、きっとこれは融合したミレールの気持ちなのだろう。
そう思うと杏は嬉しくなった。
自分の中にちゃんとミレールがいて、この状況を喜んでくれていることに。
「ノア。これから先もずっと、わたくしの夫でいてくださいね」
ふわりと微笑んだミレールに、ノアは面食らったような顔をしていたが、すぐにミレールに顔を近づけて至近距離ではっきりと断言してくれた。
「――もちろんだ。当たり前だろ」
そのまま唇が奪われ、ミレールは幸せを感じながら瞳を閉じた。
目の前にはいつも見ている天井が映っていた。
天蓋付きでないベッドで寝ているということは、おそらくノアの部屋だった。
上半身を起こすと、ベッドの脇にノアが座ったまま寝ていた。
「あ……」
よく見ると手が握られている。
ノアの性格から、ミレールを心配して側についていてくれたであろうことは、容易に推測できた。
そう思っただけで目頭が熱くなり、視界がじわじわと滲み、ミレールの紫色の瞳に溢れんばかりの涙が溜まっていく。
(ノアは……ずっと同じでした。幼馴染といってもミレールを好きだったわけでもなく、家のために仕方なく結婚してくれたのに……それでもノアは、ミレールをとても大切に扱ってくれていました。ミレールの精神崩壊が酷くて発狂したときでも、ノアは常にミレールに寄り添い、どんな時でも側にいて慰めてくれましたわ……)
王太子妃になれなかったミレールだったが、結婚してからは幼馴染であるノアに感謝し、一人の男性として優しさに触れ、繰り返される人生の中で次第に恋愛感情を抱いていった。
あの悪夢を見せていたのも、最悪の結果を防ぐための警告のようなものだった。
自分が繰り返した出来事を再び繰り返さないために。
ミレールは救いたかったのだ。
自分も、ノアも、不幸になる他の人達も、すべて――
「ふっ……、うっ、うぅっ……!」
ベッドで蹲ったまま溢れ出る涙を抑えきれず、片手で顔を覆い隠した。
ミレールの気持ちを慮ると、涙が止まらなかった。
そこにいたのは悪役令嬢などではなく、一人の心優しい少女だったからだ。
(わたくしがこれまでやってきたことは、ミレールが心からずっと待望していたことでした。始めはノアを巻き込んで、結婚してしまったことを後悔していましたが……結局ノアとミレールは結婚して、こうなることを望んでいたのだと知り、とても安心いたしました)
「……ミレー……ル?」
ミレールの手を握ったまま寝ていたノアが目覚めたのか、目を擦りながら上体を起こしている。
「ノアっ」
涙を寝間着の袖で拭い、ノアに笑顔を向ける。
ノアは驚いた顔をして、ミレールを凝視していた。
「ミレール! 目覚めたのか! 体は無事かッ?!」
勢いのままノアがベッドに乗り上げて、力いっぱい抱きしめてくれている。
「っ! えぇ。わたくしは、大丈夫、です」
苦しいくらいの抱擁がミレールの心を満たしていく。
ミレールもノアの背中に腕を回し、温もりを感じたくてぎゅうっと抱きついた。
「あぁ、良かった! 心配してたんだッ! あんたが目覚めない間、ずっとずっとずっとッ――!」
よほど心配してくれていたのか、さらに力を込めて抱きしめている。
「っ、……の、あっ……、ありがとう、ございますっ……! ご心配をおかけ、いたしました。あと、……少し、苦しいの、ですが……」
ノアも感情的になり、力の加減ができていないのかかなり息苦しくて、我慢できずに背中をポンポン叩いて促した。
「あ、悪い! 嬉しくて、ついっ……!」
すぐに腕の力を緩めて謝っている。
ミレールも顔を上げて、申し訳なさそう見下ろしているノアに向かい笑みを浮かべた。
「ふふっ、貴方が相変わらずで、わたくしも安心しましたわ」
「ミレール?」
ノアが不思議そうに名前を呼んでいる。
勝手に口をついて出た言葉に自分でも驚いたが、きっとこれは融合したミレールの気持ちなのだろう。
そう思うと杏は嬉しくなった。
自分の中にちゃんとミレールがいて、この状況を喜んでくれていることに。
「ノア。これから先もずっと、わたくしの夫でいてくださいね」
ふわりと微笑んだミレールに、ノアは面食らったような顔をしていたが、すぐにミレールに顔を近づけて至近距離ではっきりと断言してくれた。
「――もちろんだ。当たり前だろ」
そのまま唇が奪われ、ミレールは幸せを感じながら瞳を閉じた。
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