【R18】夫と6年間レスだった私が憑依転生したのは、大人向けweb小説の悪役令嬢でした

ウリ坊

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夢の終わり

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 意識がゆっくりと浮上し、重い瞼をそっと開く。
 
 目の前にはいつも見ている天井が映っていた。

 天蓋付きでないベッドで寝ているということは、おそらくノアの部屋だった。

 上半身を起こすと、ベッドの脇にノアが座ったまま寝ていた。

「あ……」

 よく見ると手が握られている。
 ノアの性格から、ミレールを心配して側についていてくれたであろうことは、容易に推測できた。

 そう思っただけで目頭が熱くなり、視界がじわじわと滲み、ミレールの紫色の瞳に溢れんばかりの涙が溜まっていく。

(ノアは……ずっと同じでした。幼馴染といってもミレールを好きだったわけでもなく、家のために仕方なく結婚してくれたのに……それでもノアは、ミレールをとても大切に扱ってくれていました。ミレールの精神崩壊が酷くて発狂したときでも、ノアは常にミレールに寄り添い、どんな時でも側にいて慰めてくれましたわ……)

 王太子妃になれなかったミレールだったが、結婚してからは幼馴染であるノアに感謝し、一人の男性として優しさに触れ、繰り返される人生の中で次第に恋愛感情を抱いていった。

 あの悪夢を見せていたのも、最悪の結果を防ぐための警告のようなものだった。
 自分が繰り返した出来事を再び繰り返さないために。

 ミレールは救いたかったのだ。
 自分も、ノアも、不幸になる他の人達も、すべて――

「ふっ……、うっ、うぅっ……!」

 ベッドで蹲ったまま溢れ出る涙を抑えきれず、片手で顔を覆い隠した。
 ミレールの気持ちをおもんぱかると、涙が止まらなかった。
 そこにいたのは悪役令嬢などではなく、一人の心優しい少女だったからだ。

(わたくしがこれまでやってきたことは、ミレールが心からずっと待望していたことでした。始めはノアを巻き込んで、結婚してしまったことを後悔していましたが……結局ノアとミレールは結婚して、こうなることを望んでいたのだと知り、とても安心いたしました)

「……ミレー……ル?」

 ミレールの手を握ったまま寝ていたノアが目覚めたのか、目を擦りながら上体を起こしている。
 
「ノアっ」

 涙を寝間着の袖で拭い、ノアに笑顔を向ける。
 ノアは驚いた顔をして、ミレールを凝視していた。

「ミレール! 目覚めたのか! 体は無事かッ?!」

 勢いのままノアがベッドに乗り上げて、力いっぱい抱きしめてくれている。

「っ! えぇ。わたくしは、大丈夫、です」 

 苦しいくらいの抱擁がミレールの心を満たしていく。
 ミレールもノアの背中に腕を回し、温もりを感じたくてぎゅうっと抱きついた。

「あぁ、良かった! 心配してたんだッ! あんたが目覚めない間、ずっとずっとずっとッ――!」

 よほど心配してくれていたのか、さらに力を込めて抱きしめている。

「っ、……の、あっ……、ありがとう、ございますっ……! ご心配をおかけ、いたしました。あと、……少し、苦しいの、ですが……」

 ノアも感情的になり、力の加減ができていないのかかなり息苦しくて、我慢できずに背中をポンポン叩いて促した。

「あ、悪い! 嬉しくて、ついっ……!」

 すぐに腕の力を緩めて謝っている。
 ミレールも顔を上げて、申し訳なさそう見下ろしているノアに向かい笑みを浮かべた。
 
「ふふっ、貴方が相変わらずで、わたくしも安心しましたわ」

「ミレール?」

 ノアが不思議そうに名前を呼んでいる。
 勝手に口をついて出た言葉に自分でも驚いたが、きっとこれは融合したミレールの気持ちなのだろう。
 そう思うと杏は嬉しくなった。
 自分の中にちゃんとミレールがいて、この状況を喜んでくれていることに。

「ノア。これから先もずっと、わたくしの夫でいてくださいね」

 ふわりと微笑んだミレールに、ノアは面食らったような顔をしていたが、すぐにミレールに顔を近づけて至近距離ではっきりと断言してくれた。

「――もちろんだ。当たり前だろ」

 そのまま唇が奪われ、ミレールは幸せを感じながら瞳を閉じた。

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