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パーティー
しおりを挟むノアとの練習もあり、ダンスの心配はいらなくなった。
新たにドレスも用意してもらい、いよいよ当日を迎える。
「若奥様! とっっても、お綺麗ですッ!!」
ミレールの仕度を整えていたアルマが、化粧を終えた後、絶叫したように声を上げていた!
「アルマったら、大げさよ」
肩が剥き出しになった濃紺のマーメイドドレスに、大きく開いた豊かな胸元には、黒いレースと共に希少なアイオライトが何個も付いたネックレスが輝いている。
耳朶や指にも同じ色の宝石が揃えられ、髪は緩くアップにしてもらい銀色の髪飾りも着けてもらった。
この時ばかりは化粧も少し濃い目にしてもらった。吊り上がった紫色の瞳も均整の取れた美しい顔立ちも、この姿によく合っていた。
「なんと申しますかっ、夜の女王って感じですっ!! えぇ、その通りっ! まさに男たちを虜する夜の女王様ですよ!」
「よ、夜の女王……ですの?」
「はいっ! 今夜の若奥様は、とっても色っぽくて妖艶です! 注目されること間違いなしですね!!」
鏡に移ったアルマは鼻息を荒くするくらい、意気揚々と話している。
アルマの表現だと少し語弊があるが、言わんとしていることはよくわかった。
それほど鏡に映った自分の姿は、普段より大人っぽく見える。
元々のミレールともまた違い、上品に見え大人の女性という感じだった。
ノアの色に合わせたからか、どうしても暗めになりがちだが、意外なほどミレールによく似合っていた。
露出の高い赤系統の派手なドレスより、こちらのほうがよほどミレールを引き立て色気を感じさせた。
(さすがは社交界の華と言われたお母様にそっくりなだけありますわ。ミレールはこんなにも綺麗なのに、本当に今までもったいないことをしてましたわね)
立ち上がり姿見に手を当て、まるで元々のミレールに訴えるように心の中でそう思った。
「では、若奥様。そろそろ行きましょうか! 皆さまお待ちですよ」
「えぇ、まいりましょう」
エントランスホールへと向かったミレールを待っていたのはノアの他に、オルノス侯爵夫妻もすでに準備を終えていた。
「遅くなりまして、申し訳ございませんわ」
「――っ! い、や……」
ミレールを見たノアは驚いたように瞠目し、口元を押さえてそれ以上の言葉が続かず呆然と見ている。
ノアはミレールと同じく濃紺のタキシードの上にコートを羽織り、騎士姿の格好よりも優雅に仕上がっていた。
凛々しい顔付きのノアに騎士服も良く似合っているが、こうしたフォーマルな装いもまたキリッとして、とても様になっていた。
「あら、ミレール! 今日は一段と綺麗ね! そうしていると、あなたとミランダは本当に良く似ているわ」
「ありがとうございます。今夜のお義母さまの装いもとても良くお似合いで、お美しいですわ」
にこりと笑ったミレールに、ノクターンも笑顔を見せている。
年のわりと可愛らしい顔立ちのノクターンは、華やかなエンパイアドレスを着ていた。腰まで伸びたセピア色の髪は横に流し、さらに若く見える。
「ねぇ、レオンハルト! ミレールは我が家の自慢の義娘ね!」
くっきりとした愛らしい榛色の瞳を輝かせ、嬉しそうにオルノス侯爵に話しかけている。
「そうだな。ノクターンはいつも愛らしくて美しいが、ミレールの美貌も素晴らしいな! 我が家は美女揃いで、私も鼻が高いよ」
ノクターンの肩を抱いているオルノス侯爵も正装しており、やはり二人とも同じ色で揃えてあってお似合いの夫婦だった。
「もう、ノアったら! あなたも何か言ったらどうなの!? こんなに綺麗な奥さんを前に、一言も褒めないなんてっ!」
ノクターンに一括され、黙ってミレールを見ていたノアがハッとしたように口を開いた。
「あっ、あぁ。よく、似合ってる」
ミレールの手を取ったノアが、自分の口元に取った手を寄せている。
「――見惚れるほど、綺麗だ」
指先にキスを落とされたまま、熱の籠もった瑠璃色の瞳にみつめられて、ノアが一言そう呟いた。
「~~っ! あ、ありがとうございますわ。ノアも、とても、素敵です!」
ドキッと心臓が跳ねて、気持ちが落ち着かず、しどろもどろになって言葉が震えてしまう。
嬉しい言葉はたくさん言ってもらっているが、ノアからこうした外見的な言葉を聞くのは初めてかもしれない。
(前の夫からは、もっと小綺麗にしろとか、見た目にも気を使え、とはよく言われてましたが……当時のわたくしに、そんな気持ちの余裕はありませんでしたもの)
何もしてくれないわりと、人の文句だけは好きなように言う夫だった。
夫がテレビやスマホを見ている時間の一割でも家事や育児の手伝いに使ってくれていたら、杏にも時間や気持ちの余裕が少しはできていたことだろう。
(夫のことばかり責められませんわね……。わたくしがもっと器用で、上手く物事を進められる人間でしたら、もっと違っていたのかもしれませんわ)
だが今は、こうして優しく自分を尊重してくれる素敵な伴侶ができた。
「さぁ、行くぞ」
そのまま取った手を自らの腕に持っていき、エスコートしてくれる。
「えぇ」
にこりと笑って逞しい腕に自分の手を重ねる。
そして四人で馬車へと向かった。
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