上 下
88 / 110

幸せ

しおりを挟む
「ん……? 誰だって?」

「ですから、ノアのことです!」

 至近距離にあるノアを見上げて、照れ隠しもあり強めに言葉を発した。
 ノアは驚いたように目を開いて、ミレールを凝視している。

「はっ? ……俺??」

 疑問の声をあげて、自分だと思っていなかったのか意外そうにミレールを見下ろしていた。

「ちょっと待て、俺は別に想う相手なんて――」

「ノアははじめ、レイリンを探してたじゃありませんか! パーティー会場でもレイリンと楽しそうに踊っていて、庭園に出てきた時も、レイリンがどこに行ったかとわたくしに尋ねてましたわっ!」

 そこでミレールが間髪入れずに真っ向から反論する。
 これは小説でも明らかなことで、実際ノアはレイリンを追いかけていた。

「っ! あれは、そういう意味だったのか……」

 口元を片手で覆い、ミレールの言わんとしていたことを理解したのか、納得したように呟いている。

「ミレールは元々ノアと仲が悪かったですし、嫌われてました。わたくしがいくらノアの事を想っていても、冷たくあしらわれてましたから」

「それは、悪かった。あんたの事情も知らなかったし……」

「承知してますわ。ですから、わざと遠ざけようとしてましたのに……。あの時は、わたくしも酔っていた勢いもあり、気持ちが大きくなってしまいましたわ。それに、ノアに迫られていることが嬉しくて、最後まで拒みきれませんでした」

 この話はもうするなと言われていたが、状況が変わったので改めて説明する。
 結果的に今の自分たちがあるのだが、やはり初めはノアを苦しめていたことに変わりない。

「でもあんたは、そのあと逃げようとしてただろ」

 そこでまたノアが思い出したように反論している。
 あそこで逃げられれば、今の結婚生活は存在していなかっただろう。

「それは、仕方ありませんわ。ノアに嫌われているのは知ってましたし、せめて貴方がショックを受けないよう、早々に立ち去ろうとしたのですが間に合わず……見事失敗に終わってしまいました」

 視線を戻したミレールがノアを見上げて申し訳なさそうに話していると、ノアは突然ミレールの両肩を掴んできた。

「――じゃあ、なんだ……俺は、自分に嫉妬してたってことか……?」

 そして話し終えた途端、ノアがぎゅうぅぅッと力を込めて抱きしめてくる。

「の、ノア?」

 急に抱きしめられてミレールは困惑してしまう。
 酔っていたのでそこまではっきりと覚えていないが、そういえばノアはそのようなことを言っていたように思う。

「はぁ……、やっぱりあんたって、可愛すぎだっ」

「はい? わたくしのどこが、ですの??」

 今の会話のどこに、自分の可愛さがあるのか理解できなかった。
 ただひたすら迷惑をかけた時の気持ちを、謝罪も込めて話していただけだったのだが、ノアは怒るどころか愛しそうにミレールを抱きしめて、そのままベッドへと倒れ込んだ。

「そういうとこ全部だ」

「まったく……わかりませんわ」

 二人で横向きで倒れた状態で抱きしめられ、ノアの胸元に顔を寄せて答えた。

「はははっ、わからなくてもいいって。俺だけがわかってるから、それでいい」

 ノアはミレールの頭の天辺にキスを落としている。
 顔を上げると目を細めて、自分に笑いかけてくれているノアがいた。

「っ」

「話してくれてありがとな。実際、あんたがどこの誰でも構わないんだ。今まで不幸な人生を送ってきたなら、俺がそれ以上に幸せにしてやる……だから、どこにも行かないでくれ」

 またしまい込むように、背中に回っていた腕で体をぎゅっと強く抱きしめられた。

「……ノアっ、……もちろんですわ。わたくしも、ずっとノアと一緒にいたいです」

(こんなにも幸せでいいのでしょうか……)

 じわりと目頭が熱くなり、心も体も幸せで満たされていく。
 ノアの心臓の音を聞きながら、背中に回っていた手が腰で結ばれたガウンの紐を解いている。
 解かれた隙間から筋張った手が侵入し、ミレールの滑らかな双丘を直に撫でていく。

「んッ」

 直接肌を撫でられる心地好さにビクリと体が反応し、そしてノアの凛々しい顔が近づく。
 顔を上げたミレールの唇が深く重なり、開いた歯列の隙間から熱い舌が入り、舌を絡めながら性急に求められていく――

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった

春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。 本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。 「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」 なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!? 本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。 【2023.11.28追記】 その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました! ※他サイトにも投稿しております。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

処理中です...