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デート
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翌日、ノアが連れ出してくれたのは、王都の中の少し外れにある平民街だった。
どうやらここでちょっとしたお祭りが開かれているらしく、それを知ったノアがミレールをつれて来てくれた。
「あんたにとっては、つまらないかもしれないが」
先に馬車から降りてエスコートしてくれるノアが、不安そうにミレールを見ている。
あらかじめ飾りの少ない町娘風な格好をしてきたミレールと、ノアもいつもよりは質素な格好だったが違和感などはなく、とてもよく似合っていた。
護衛のアーミッドとアルマも後方に控えていた。
さすがに二人きりとはいかなかったが、こうしてノアが誘ってくれたことが嬉しかった。
「どうしてですの? わたくし、こうしたお祭りは久しぶりでっ……とても楽しみですわ!」
「そうなのか? なんて言うか……あんたはもっと、華やかな場所を好みそうなイメージだからな」
「以前のわたくしなら、そうかもしれませんね」
ノアの手を取り、笑顔で返した。
「っ、そうだな……」
ほんの一瞬だけノアの表情が曇った気がしたが、ミレールは久しぶりの外出ということもあり、心も浮き足立っていて気づくことはなかった。
(お祭りもですが……要するにこれはデート、ということで間違いないのですよね? もう何年振りだか忘れてしまいましたが、初めて夫とデートしたときよりドキドキしますわ)
以前の夫と付き合い初めた頃の、まだ恋人として慣れず初々しかった時を思い出していた。
「ほら、はしゃいでると迷子になるぞ」
取った手をぎゅっと握られ、自らの方へ腰を引き寄せられた。
こういった点でも、以前の夫よりノアのほうが断然距離が近く、より恋人としての距離感を間近に感じていた。
「あ……、ありがとう、ございます」
「手、離すなよ」
屈んで目線を合わせるように覗き込まれると、ドキッと心臓が跳ねる。
「っ! え、えぇ」
「じゃあ行くぞ」
「はいっ」
比べるまでもなく、男としての対応はノアのほうが格段に上だった。
しっかりと手を繋ぎ、町の方へと歩き出した。
◇◆◇
「わぁ~、見てくださいノア! とっても珍しい果物や食べ物がたくさんありますわ!」
町はたくさんの人が行き交い、道沿いには市場のように様々食べ物や品物が軒を連ね、音と活気に溢れていた。
「こちらはなんでしょう?」
「ん? あぁ、これはな――」
ノアは剣豪といわれている師匠の元に通っているからか、この辺に詳しいようだ。その師匠の家は平民街の外れにあるという話だった。
ミレールが聞くとノアがなんでもわかりやすく答えてくれて、隣でそれを見て聞いているだけでもドキドキして楽しかった。
「ん! 美味しいっ……!」
「だろ? ここのやつは特別ウマいんだ」
ミレールが目をキラキラさせて食べているのは肉まんのような食べ物。ふかふかのパンの中に肉がたくさん挟まっていた。
口元を片手で押さえ感動しながら食べてるミレールに、ノアが笑顔で答えていた。
「若奥様! 本当に美味しいですね! ほら、アーミッドさんも一口どうですか?!」
後ろでアルマも食べていて同じ感想を述べていた。
「今は職務中ですので、遠慮いたします」
隣で勧めているアルマに、アーミッドは片手を上げて首を振り拒絶していた。
「もうっ、本当に堅物ですよね……!」
ブツブツと文句を言っているアルマに、ミレールは苦笑してしまう。
「気にするなって、アーミッドは昔から融通が利かないんだ」
「そうなのですか?」
「あぁ。俺としてはその方が安心できるけどな」
「安心、とは?」
ノアは早めに食べ終わり、話しながらミレールの様子を伺っていた。
「いや、こっちの話だ。……さぁ、次に行こうぜ」
「え? えぇ」
両手で食べ物を持っていたからか、ノアはミレールの肩を寄せて歩き出した。
近頃慣れたと思っていたノアの行動に、思わずドキッとしてしまう。
(っ! 未だに動揺してしまうなんて。いかにわたくしがこうした事に慣れていないのか、バレバレですわね。結婚して子供までいましたのに……、経験が少なすぎて笑えてきますわ……)
自分の経験値のなさに自嘲気味に笑ってしまった。
あまり考えてしまうとせっかくのデートが台無しになってしまうので、気分を変えるように手に持っていたパンに齧り付いた。
「あっ、顔に付いてるぞ」
ミレールの食べる様子を見ていたのか、隣からノアが声をかけてきた。
「んっ……、どこ、ですの?」
恥ずかしさに慌てて片手で顔に手を当てるが、どこにあるのかわからない。
「ここだ」
抱いていた肩を引き寄せて、パン屑がついていたであろう口の端をペロッと舐められた。
「――ッ!!」
一瞬何が起きたかわからなかったが、状況を把握してカァーっと頬が上気する。
「の、のの、ノアッ!?」
「早く食べちゃえよ。まだ色々回るんだぞ」
今度は肩を引き寄せている手とは別の手で、パンを持っていたミレールの手首を掴み、自らの方へ移動させた。
「ッ!」
そのまま半分ほどに減っていたパンにかぶりつき、もぐもぐと咀嚼している。
(今まで生きてきた年数でいってしまえば、ノアのほうがはるかに年下ですのに……、圧倒的にわたくしのほうが経験値が不足してますわ……)
ドキドキしながら真っ赤な顔をしたミレールは、間近で食べている凛々しい顔を眺めて、ノアのさり気ないコミュニケーションの高さを痛感するのであった。
どうやらここでちょっとしたお祭りが開かれているらしく、それを知ったノアがミレールをつれて来てくれた。
「あんたにとっては、つまらないかもしれないが」
先に馬車から降りてエスコートしてくれるノアが、不安そうにミレールを見ている。
あらかじめ飾りの少ない町娘風な格好をしてきたミレールと、ノアもいつもよりは質素な格好だったが違和感などはなく、とてもよく似合っていた。
護衛のアーミッドとアルマも後方に控えていた。
さすがに二人きりとはいかなかったが、こうしてノアが誘ってくれたことが嬉しかった。
「どうしてですの? わたくし、こうしたお祭りは久しぶりでっ……とても楽しみですわ!」
「そうなのか? なんて言うか……あんたはもっと、華やかな場所を好みそうなイメージだからな」
「以前のわたくしなら、そうかもしれませんね」
ノアの手を取り、笑顔で返した。
「っ、そうだな……」
ほんの一瞬だけノアの表情が曇った気がしたが、ミレールは久しぶりの外出ということもあり、心も浮き足立っていて気づくことはなかった。
(お祭りもですが……要するにこれはデート、ということで間違いないのですよね? もう何年振りだか忘れてしまいましたが、初めて夫とデートしたときよりドキドキしますわ)
以前の夫と付き合い初めた頃の、まだ恋人として慣れず初々しかった時を思い出していた。
「ほら、はしゃいでると迷子になるぞ」
取った手をぎゅっと握られ、自らの方へ腰を引き寄せられた。
こういった点でも、以前の夫よりノアのほうが断然距離が近く、より恋人としての距離感を間近に感じていた。
「あ……、ありがとう、ございます」
「手、離すなよ」
屈んで目線を合わせるように覗き込まれると、ドキッと心臓が跳ねる。
「っ! え、えぇ」
「じゃあ行くぞ」
「はいっ」
比べるまでもなく、男としての対応はノアのほうが格段に上だった。
しっかりと手を繋ぎ、町の方へと歩き出した。
◇◆◇
「わぁ~、見てくださいノア! とっても珍しい果物や食べ物がたくさんありますわ!」
町はたくさんの人が行き交い、道沿いには市場のように様々食べ物や品物が軒を連ね、音と活気に溢れていた。
「こちらはなんでしょう?」
「ん? あぁ、これはな――」
ノアは剣豪といわれている師匠の元に通っているからか、この辺に詳しいようだ。その師匠の家は平民街の外れにあるという話だった。
ミレールが聞くとノアがなんでもわかりやすく答えてくれて、隣でそれを見て聞いているだけでもドキドキして楽しかった。
「ん! 美味しいっ……!」
「だろ? ここのやつは特別ウマいんだ」
ミレールが目をキラキラさせて食べているのは肉まんのような食べ物。ふかふかのパンの中に肉がたくさん挟まっていた。
口元を片手で押さえ感動しながら食べてるミレールに、ノアが笑顔で答えていた。
「若奥様! 本当に美味しいですね! ほら、アーミッドさんも一口どうですか?!」
後ろでアルマも食べていて同じ感想を述べていた。
「今は職務中ですので、遠慮いたします」
隣で勧めているアルマに、アーミッドは片手を上げて首を振り拒絶していた。
「もうっ、本当に堅物ですよね……!」
ブツブツと文句を言っているアルマに、ミレールは苦笑してしまう。
「気にするなって、アーミッドは昔から融通が利かないんだ」
「そうなのですか?」
「あぁ。俺としてはその方が安心できるけどな」
「安心、とは?」
ノアは早めに食べ終わり、話しながらミレールの様子を伺っていた。
「いや、こっちの話だ。……さぁ、次に行こうぜ」
「え? えぇ」
両手で食べ物を持っていたからか、ノアはミレールの肩を寄せて歩き出した。
近頃慣れたと思っていたノアの行動に、思わずドキッとしてしまう。
(っ! 未だに動揺してしまうなんて。いかにわたくしがこうした事に慣れていないのか、バレバレですわね。結婚して子供までいましたのに……、経験が少なすぎて笑えてきますわ……)
自分の経験値のなさに自嘲気味に笑ってしまった。
あまり考えてしまうとせっかくのデートが台無しになってしまうので、気分を変えるように手に持っていたパンに齧り付いた。
「あっ、顔に付いてるぞ」
ミレールの食べる様子を見ていたのか、隣からノアが声をかけてきた。
「んっ……、どこ、ですの?」
恥ずかしさに慌てて片手で顔に手を当てるが、どこにあるのかわからない。
「ここだ」
抱いていた肩を引き寄せて、パン屑がついていたであろう口の端をペロッと舐められた。
「――ッ!!」
一瞬何が起きたかわからなかったが、状況を把握してカァーっと頬が上気する。
「の、のの、ノアッ!?」
「早く食べちゃえよ。まだ色々回るんだぞ」
今度は肩を引き寄せている手とは別の手で、パンを持っていたミレールの手首を掴み、自らの方へ移動させた。
「ッ!」
そのまま半分ほどに減っていたパンにかぶりつき、もぐもぐと咀嚼している。
(今まで生きてきた年数でいってしまえば、ノアのほうがはるかに年下ですのに……、圧倒的にわたくしのほうが経験値が不足してますわ……)
ドキドキしながら真っ赤な顔をしたミレールは、間近で食べている凛々しい顔を眺めて、ノアのさり気ないコミュニケーションの高さを痛感するのであった。
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