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約束
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アーミッドが専属騎士がなり数日が過ぎたが、彼は騎士の模範となるように礼儀正しく、かなり真面目な人物だった。
「若奥様、アーミッドさんて変わってますよね」
「変わってる、とは?」
「なんと言うか……、堅物?」
初めはアーミッドに騒いでいたアルマも、近頃ではすっかり落ち着いて通常に戻っていた。
ドレッサーの前に座り、ミレールの髪を梳かしてアルマがボソッと本音を漏らしていた。
「ルイス卿は、とても職務に忠実な方なのではないのかしら?」
「そうなんですけど、男としてはつまんないですよねぇ」
「アルマったら、そんな言い方をしてはいけませんわ」
「はぁい。でも……」
鏡に映ったアルマが残念そうな顔をしてため息をつき、ミレールの髪を編んでいる。
ちなみにアーミッドは外で待機している。
ミレールもアルマの言いたいことは理解できている。たしかにアーミッドの性格はとても堅かった。
アルマの問いかけにもにこりともしない。時間もきっちり守り、少しでも規律を乱すことは即座に指摘する。
それは主であるミレールにも同じだった。
(わたくしとしては、そういう方のほうが割り切った関係でいられますし接しやすいのですが、アルマの好みのタイプではなかったようね)
まだ後ろでブツブツと文句を言っているアルマに思わず苦笑した。
◇◆◇
その日の晩餐。オルノス侯爵夫妻は不在だった。オルノス侯爵が非番の日の夜は、二人で部屋に籠もっていることが多かった。
帰宅したノアも席につき、二人だけの晩餐が始まった。
「え? お出かけ、ですか?」
「あぁ。明日は非番なんだ。前に約束してただろ」
座っていたノアが、ミレールの顔を隣からジッと覗き込んでいる。
「俺と一緒に行ってくれるか?」
横から手を取られ、手の甲に軽くキスされた。そのまま瑠璃色の瞳で射抜くように見つめられると、ミレールの心拍数がぐんと上昇していく。
「ッ」
ノアは男前で凛々しい顔付きをしているため、一見近寄りがたい印象を持つのだが、見た目に反し強引さは一切なく気遣いにあふれている。
こうした仕草をされると耐性のないミレールは逸る心臓を抑えることができない。
(不思議ですわ……毎日顔を合わせていても、毎晩抱かれていても……やはりドキドキするのはなぜなのでしょう)
「ミレール」
手の甲に唇を当てたまま名前を呼ばれ、見蕩れていたミレールはハッとする。
「は、はいっ、もちろん! わたくしもノアと一緒に出かけたいですわ」
慌てたように笑顔で返事を返した。
ノアもミレールの返事に安心したような顔を見せた。
「そうか。じゃあ今日は早めに寝ようぜ。あんたの体力のためにも、その方がいいだろう?」
手の甲から唇を離されて、そのままニッとからかうように笑われた。
「なっ……!」
カァーっと頬が熱くなるのを感じる。
たしかにノアに抱かれた後では、ミレールの体は困憊し翌朝も起きるのが辛い。
だったら控えればいいのでは、と思うのだが、それをしたくない自分がいることにまた顔が熱くなる。
(どこまでもノアに惹かれて溺れていく自分が、たまに怖くなりますわ……)
幸せすぎて不安になる。
今まで、こんな気持ちは知らなかった。
「手加減、してください、ね……?」
「いつもしてるだろ?」
「――!」
今、サラッとすごいことを言われた気がした。思わずノアを見たまま固まってしまう。
ノアは毎晩何度もミレールを求めながら、それでもまだ自身を抑えていたということなのだろうか。
「……い、いつもよりも、ですわ」
「わかってるって」
納得してくれたノアにホッとしながら、違う意味で怖くなるミレールだった。
「若奥様、アーミッドさんて変わってますよね」
「変わってる、とは?」
「なんと言うか……、堅物?」
初めはアーミッドに騒いでいたアルマも、近頃ではすっかり落ち着いて通常に戻っていた。
ドレッサーの前に座り、ミレールの髪を梳かしてアルマがボソッと本音を漏らしていた。
「ルイス卿は、とても職務に忠実な方なのではないのかしら?」
「そうなんですけど、男としてはつまんないですよねぇ」
「アルマったら、そんな言い方をしてはいけませんわ」
「はぁい。でも……」
鏡に映ったアルマが残念そうな顔をしてため息をつき、ミレールの髪を編んでいる。
ちなみにアーミッドは外で待機している。
ミレールもアルマの言いたいことは理解できている。たしかにアーミッドの性格はとても堅かった。
アルマの問いかけにもにこりともしない。時間もきっちり守り、少しでも規律を乱すことは即座に指摘する。
それは主であるミレールにも同じだった。
(わたくしとしては、そういう方のほうが割り切った関係でいられますし接しやすいのですが、アルマの好みのタイプではなかったようね)
まだ後ろでブツブツと文句を言っているアルマに思わず苦笑した。
◇◆◇
その日の晩餐。オルノス侯爵夫妻は不在だった。オルノス侯爵が非番の日の夜は、二人で部屋に籠もっていることが多かった。
帰宅したノアも席につき、二人だけの晩餐が始まった。
「え? お出かけ、ですか?」
「あぁ。明日は非番なんだ。前に約束してただろ」
座っていたノアが、ミレールの顔を隣からジッと覗き込んでいる。
「俺と一緒に行ってくれるか?」
横から手を取られ、手の甲に軽くキスされた。そのまま瑠璃色の瞳で射抜くように見つめられると、ミレールの心拍数がぐんと上昇していく。
「ッ」
ノアは男前で凛々しい顔付きをしているため、一見近寄りがたい印象を持つのだが、見た目に反し強引さは一切なく気遣いにあふれている。
こうした仕草をされると耐性のないミレールは逸る心臓を抑えることができない。
(不思議ですわ……毎日顔を合わせていても、毎晩抱かれていても……やはりドキドキするのはなぜなのでしょう)
「ミレール」
手の甲に唇を当てたまま名前を呼ばれ、見蕩れていたミレールはハッとする。
「は、はいっ、もちろん! わたくしもノアと一緒に出かけたいですわ」
慌てたように笑顔で返事を返した。
ノアもミレールの返事に安心したような顔を見せた。
「そうか。じゃあ今日は早めに寝ようぜ。あんたの体力のためにも、その方がいいだろう?」
手の甲から唇を離されて、そのままニッとからかうように笑われた。
「なっ……!」
カァーっと頬が熱くなるのを感じる。
たしかにノアに抱かれた後では、ミレールの体は困憊し翌朝も起きるのが辛い。
だったら控えればいいのでは、と思うのだが、それをしたくない自分がいることにまた顔が熱くなる。
(どこまでもノアに惹かれて溺れていく自分が、たまに怖くなりますわ……)
幸せすぎて不安になる。
今まで、こんな気持ちは知らなかった。
「手加減、してください、ね……?」
「いつもしてるだろ?」
「――!」
今、サラッとすごいことを言われた気がした。思わずノアを見たまま固まってしまう。
ノアは毎晩何度もミレールを求めながら、それでもまだ自身を抑えていたということなのだろうか。
「……い、いつもよりも、ですわ」
「わかってるって」
納得してくれたノアにホッとしながら、違う意味で怖くなるミレールだった。
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