上 下
79 / 110

休日の過ごし方(ノア視点)2

しおりを挟む
「気にするな。じゃあな」

「あっ、ノア!」

 まだ何かあるのかミレールに呼び止められ、扉に向かおうとしていたノアは振り返った。

「ん? どうした?」

「あの……、できれば……早めに、帰って、来て、ほしいですわ……」

 ミレールは恥ずかしいのか布団を顔の半分ほど覆い、赤くなっているであろう頬を隠しながら伏し目がちに話している。
 
(――可愛っ……!)

 その姿に思わず、布団をすべて剥いでもう一度襲いそうな衝動に駆られた。
 暴走しそうな欲望をグッと抑え、どうにか自分を落ち着かせた。

「……わかった。なるべく早めに帰ってくるな」

「本当、ですの……?」
 
「あぁ、約束だ」

「はいっ、お待ちしてますわ!」

 とても嬉しそうに笑顔を見せているミレールの姿に、良心の呵責なのか、唐突にノアの胸がひどく疼いた。

(そういえば、非番の日はいつも俺が稽古へ出掛けるから、一日中一緒にいる日なんて、今までなかったな……)

 ミレールも特に稽古へ行くことに関して文句もなく、結婚してから一度も一緒に出掛けることもなければ、休みをともにするなどという考えがノアにはなかった。

(こいつに何もしてやってないのに、あんな風に他の男の話をしただけで責めるなんて……俺に、そんな資格はないよな)

 近衛騎士団の将軍をしている父のレオンハルトでさえも、休日はあれだけベタベタしているノクターンとの時間を大切にしていた。

 立ち上がっていたノアが再びベッドの前で屈み、ミレールに視線を合わせてから口を開く。  
 
「なぁ……今度は一日空けとくから、どこか、あんたの行きたいとこにでも行くか?」
 
「――え……?  ノアと、ですか?」

「俺とじゃ、嫌か?」

「え? あ、いえ! 全然、嫌とかではなくっ! ですが、ノアは剣術の稽古がありますのに、わたくしになど、時間を割いてしまってはっ……!」

「一日くらいどうってことないぞ」

 屈んで目線を合わせているとミレールはベッドから体を起こし、胸元まで布団を掛けて気恥ずかしそうに言葉を続けた。

「――――あの、でしたら……すぐでなくとも、ノアの都合の良い日で構いません。一日……、いえ、半日でもいいので、一緒にいれたら嬉しいですっ」

 はにかみながら笑うミレールの謙虚な言葉に、また胸の奥がドクンッと疼いていく。

(俺って結局、自分のことしか考えてなかったな……こいつがこんなに喜ぶなら、もっと早くに気づいて連れ出してやれば良かった)

 ベッドで座っているミレールの前で膝を付いて手を取り、滑らかな指先にキスを落とした。
 
「ちゃんと一日時間を取るから、俺と一緒にいてくれるか?」
 
「――っ! は、はいっ、喜んで!」

 頬を染めて、笑顔で返事をしているミレールに気を良くしたノアも笑顔で立ち上がった。

「良かった! じゃあ、行ってくるな」

「気をつけて、いってらっしゃいませ」

 ベッドで座ったままミレールに見送られ、ノアは部屋の扉を閉めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった

春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。 本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。 「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」 なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!? 本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。 【2023.11.28追記】 その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました! ※他サイトにも投稿しております。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

処理中です...