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専属騎士

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 ミレールはこの日、ノクターンとともにお茶をしていた。

「最近は、どう? ノアともずいぶん仲良さそうだし、ミレールもだいぶここに慣れてきたんじゃないかしら?」

 日当たりの良い室内で優雅にお茶を飲みながら、ニコニコと聞いてくるノクターンに、ミレールをカップを持ったまま笑顔を見せる。
 ノクターンは何かとミレールを気にかけてくれていて、ミレールもノクターンにはわりと素直に気持ちを伝えていた。
 
「えぇ。わたくしがこうして馴染めたのはノアはもちろん、お義母さまやお義父さまのおかげですわ。使用人の方々もとても良くしてくださいますし……それに、ノアもとても優しくしてくれて、わたくしにはもったいないくらい素敵な男性ですわ」

 カップ静かに置くと片手を頬に当て、ノアのことを思うだけで、ほぅ……と声が漏れてしまう。
 
(初めはどうなることかと思いましたが、ノアのおかけで想像もできないくらい幸せな生活を送ることができてますわ)

「ミレールにそう言われると私も嬉しいわ! 我が息子ながら、レオンハルトに似てとてもいい男になったと思うの!」

 一人息子であるノアを褒められたことに気を良くしたのか、ノクターンも夫であるレオンハルトを思い出し、目を輝かせている。

「えぇ。たしかにノアはお義父さまによく似てらっしゃいますわ。ですが、お義母さまの面影もありますし……お二人の良い所を受け継いでいて、本当に素晴らしい理想の夫ですわ」

「あなたがそこまで褒めてくれるなんて、ノアも夫のとしての自覚がようやく出てきたのね! レオンハルトとも同じくくらいの年に結婚したけど、あの人は初めから強くて優しくて最高の旦那様だったわ……」

 たまにこうしてノクターンとお茶をする際は、二人で互いの夫の惚気話をしていた。 
 ノクターンも立場上、お茶会やパーティーに赴くが、さすがにここまで自分の夫の自慢はできないからだ。
 ミレールもそれと同じ理由で、ノアのことを唯一話せる相手が義理の母であるノクターンだけだった。

「あっ、お義母様。そういえば折りいって、お願いがありますの」

 しばらく互いの夫の話に花を咲かせていたミレールは、唐突にあることを思い出した。

「私にお願い? 何かしら!」

 昔と違いあまり頼み事や我が儘を言わなくなったミレールのお願いに、ノクターンは嬉しそうに聞き返している。

「実は――」

 ミレールはいつか言おうと思っていたことを、思い切ってノクターンに打ち明けた。

 
 ◆◇◆


「――で、どうしてこうなったんだ?」

「さぁ……? どうしてなのでしょう……」
 
 務めから帰って来たノアもミレールと共にオルノス侯爵の書斎へ呼ばれ、二人で並んで疑問の声を上げていた。
 昼間に話していたミレールの望みは、なぜか違う形で叶えられた。

「紹介しよう! 彼はアーミッド・ルイスだ。我がオルノス侯爵家の騎士団の中で、若手ながら一番の実力を誇っている。アーミッドをミレールの専属騎士として選任しよう!」

 オルノス侯爵は隣に立っている若い騎士の声を肩に手を乗せ、嬉々として紹介している。

「アーミッド・ルイスと申します。若奥様、護衛騎士として今後あなた様に忠誠を誓います」

 おそらく二十代前半くらいの屈強な男性だった。金髪に水色の瞳、なかなかの美丈夫だが真面目そうな雰囲気の男性。

「ルイス卿と仰るのね。わたくしの我が儘で護衛をしていただくことになり、申し訳ございませんわ」

「とんでもございません。貴女のような美しい方にお仕えできるのならば、騎士として最高の誉れです」

 にこりと笑ったアーミッドはミレールの前で跪き、胸に手を当て頭を下げていた。

「っ! こ、こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」

 忠実な騎士の姿にドキッと胸が跳ねた。

(ノアもそうですが……、やはり騎士の方はとても紳士的ですわ)

 エボルガー侯爵家にいたときにもミレールに騎士はついていたが、それは杏がミレールと入れ代わる前の話だ。

 元々ミレールは、護身術を教えてほしいという話をしたのだが、いつの間にか護衛騎士がつく話に変わってしまった。

(近頃、よく見る夢が怖くて、自分の身は自分で守ろうとお義母さまにお願いしたのですが……。しかし、結果的に良かったのかもしれませんわ)

 この先どうなるかわからないが、たしかに自分専属の騎士が常に側にいてくれることは、ミレールにとって安心材料になる。
 何かあった時に守る術のない無力なミレールではどうにもならないし、ノアも務めがあるためこうした騎士の存在はありがたかった。

「まっ、たしかに。アーミッドなら大抵のヤツは敵わないから、安心といえば安心だな」

 同じ騎士として実力は認めている感じはするが、そう言いながらもノアはどこか浮かない顔をしている。

 何はともあれ、こうしてミレールに護衛がつくことになった。

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