81 / 110
専属騎士
しおりを挟む
ミレールはこの日、ノクターンとともにお茶をしていた。
「最近は、どう? ノアともずいぶん仲良さそうだし、ミレールもだいぶここに慣れてきたんじゃないかしら?」
日当たりの良い室内で優雅にお茶を飲みながら、ニコニコと聞いてくるノクターンに、ミレールをカップを持ったまま笑顔を見せる。
ノクターンは何かとミレールを気にかけてくれていて、ミレールもノクターンにはわりと素直に気持ちを伝えていた。
「えぇ。わたくしがこうして馴染めたのはノアはもちろん、お義母さまやお義父さまのおかげですわ。使用人の方々もとても良くしてくださいますし……それに、ノアもとても優しくしてくれて、わたくしにはもったいないくらい素敵な男性ですわ」
カップ静かに置くと片手を頬に当て、ノアのことを思うだけで、ほぅ……と声が漏れてしまう。
(初めはどうなることかと思いましたが、ノアのおかけで想像もできないくらい幸せな生活を送ることができてますわ)
「ミレールにそう言われると私も嬉しいわ! 我が息子ながら、レオンハルトに似てとてもいい男になったと思うの!」
一人息子であるノアを褒められたことに気を良くしたのか、ノクターンも夫であるレオンハルトを思い出し、目を輝かせている。
「えぇ。たしかにノアはお義父さまによく似てらっしゃいますわ。ですが、お義母さまの面影もありますし……お二人の良い所を受け継いでいて、本当に素晴らしい理想の夫ですわ」
「あなたがそこまで褒めてくれるなんて、ノアも夫のとしての自覚がようやく出てきたのね! レオンハルトとも同じくくらいの年に結婚したけど、あの人は初めから強くて優しくて最高の旦那様だったわ……」
たまにこうしてノクターンとお茶をする際は、二人で互いの夫の惚気話をしていた。
ノクターンも立場上、お茶会やパーティーに赴くが、さすがにここまで自分の夫の自慢はできないからだ。
ミレールもそれと同じ理由で、ノアのことを唯一話せる相手が義理の母であるノクターンだけだった。
「あっ、お義母様。そういえば折りいって、お願いがありますの」
しばらく互いの夫の話に花を咲かせていたミレールは、唐突にあることを思い出した。
「私にお願い? 何かしら!」
昔と違いあまり頼み事や我が儘を言わなくなったミレールのお願いに、ノクターンは嬉しそうに聞き返している。
「実は――」
ミレールはいつか言おうと思っていたことを、思い切ってノクターンに打ち明けた。
◆◇◆
「――で、どうしてこうなったんだ?」
「さぁ……? どうしてなのでしょう……」
務めから帰って来たノアもミレールと共にオルノス侯爵の書斎へ呼ばれ、二人で並んで疑問の声を上げていた。
昼間に話していたミレールの望みは、なぜか違う形で叶えられた。
「紹介しよう! 彼はアーミッド・ルイスだ。我がオルノス侯爵家の騎士団の中で、若手ながら一番の実力を誇っている。アーミッドをミレールの専属騎士として選任しよう!」
オルノス侯爵は隣に立っている若い騎士の声を肩に手を乗せ、嬉々として紹介している。
「アーミッド・ルイスと申します。若奥様、護衛騎士として今後あなた様に忠誠を誓います」
おそらく二十代前半くらいの屈強な男性だった。金髪に水色の瞳、なかなかの美丈夫だが真面目そうな雰囲気の男性。
「ルイス卿と仰るのね。わたくしの我が儘で護衛をしていただくことになり、申し訳ございませんわ」
「とんでもございません。貴女のような美しい方にお仕えできるのならば、騎士として最高の誉れです」
にこりと笑ったアーミッドはミレールの前で跪き、胸に手を当て頭を下げていた。
「っ! こ、こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」
忠実な騎士の姿にドキッと胸が跳ねた。
(ノアもそうですが……、やはり騎士の方はとても紳士的ですわ)
エボルガー侯爵家にいたときにもミレールに騎士はついていたが、それは杏がミレールと入れ代わる前の話だ。
元々ミレールは、護身術を教えてほしいという話をしたのだが、いつの間にか護衛騎士がつく話に変わってしまった。
(近頃、よく見る夢が怖くて、自分の身は自分で守ろうとお義母さまにお願いしたのですが……。しかし、結果的に良かったのかもしれませんわ)
この先どうなるかわからないが、たしかに自分専属の騎士が常に側にいてくれることは、ミレールにとって安心材料になる。
何かあった時に守る術のない無力なミレールではどうにもならないし、ノアも務めがあるためこうした騎士の存在はありがたかった。
「まっ、たしかに。アーミッドなら大抵のヤツは敵わないから、安心といえば安心だな」
同じ騎士として実力は認めている感じはするが、そう言いながらもノアはどこか浮かない顔をしている。
何はともあれ、こうしてミレールに護衛がつくことになった。
「最近は、どう? ノアともずいぶん仲良さそうだし、ミレールもだいぶここに慣れてきたんじゃないかしら?」
日当たりの良い室内で優雅にお茶を飲みながら、ニコニコと聞いてくるノクターンに、ミレールをカップを持ったまま笑顔を見せる。
ノクターンは何かとミレールを気にかけてくれていて、ミレールもノクターンにはわりと素直に気持ちを伝えていた。
「えぇ。わたくしがこうして馴染めたのはノアはもちろん、お義母さまやお義父さまのおかげですわ。使用人の方々もとても良くしてくださいますし……それに、ノアもとても優しくしてくれて、わたくしにはもったいないくらい素敵な男性ですわ」
カップ静かに置くと片手を頬に当て、ノアのことを思うだけで、ほぅ……と声が漏れてしまう。
(初めはどうなることかと思いましたが、ノアのおかけで想像もできないくらい幸せな生活を送ることができてますわ)
「ミレールにそう言われると私も嬉しいわ! 我が息子ながら、レオンハルトに似てとてもいい男になったと思うの!」
一人息子であるノアを褒められたことに気を良くしたのか、ノクターンも夫であるレオンハルトを思い出し、目を輝かせている。
「えぇ。たしかにノアはお義父さまによく似てらっしゃいますわ。ですが、お義母さまの面影もありますし……お二人の良い所を受け継いでいて、本当に素晴らしい理想の夫ですわ」
「あなたがそこまで褒めてくれるなんて、ノアも夫のとしての自覚がようやく出てきたのね! レオンハルトとも同じくくらいの年に結婚したけど、あの人は初めから強くて優しくて最高の旦那様だったわ……」
たまにこうしてノクターンとお茶をする際は、二人で互いの夫の惚気話をしていた。
ノクターンも立場上、お茶会やパーティーに赴くが、さすがにここまで自分の夫の自慢はできないからだ。
ミレールもそれと同じ理由で、ノアのことを唯一話せる相手が義理の母であるノクターンだけだった。
「あっ、お義母様。そういえば折りいって、お願いがありますの」
しばらく互いの夫の話に花を咲かせていたミレールは、唐突にあることを思い出した。
「私にお願い? 何かしら!」
昔と違いあまり頼み事や我が儘を言わなくなったミレールのお願いに、ノクターンは嬉しそうに聞き返している。
「実は――」
ミレールはいつか言おうと思っていたことを、思い切ってノクターンに打ち明けた。
◆◇◆
「――で、どうしてこうなったんだ?」
「さぁ……? どうしてなのでしょう……」
務めから帰って来たノアもミレールと共にオルノス侯爵の書斎へ呼ばれ、二人で並んで疑問の声を上げていた。
昼間に話していたミレールの望みは、なぜか違う形で叶えられた。
「紹介しよう! 彼はアーミッド・ルイスだ。我がオルノス侯爵家の騎士団の中で、若手ながら一番の実力を誇っている。アーミッドをミレールの専属騎士として選任しよう!」
オルノス侯爵は隣に立っている若い騎士の声を肩に手を乗せ、嬉々として紹介している。
「アーミッド・ルイスと申します。若奥様、護衛騎士として今後あなた様に忠誠を誓います」
おそらく二十代前半くらいの屈強な男性だった。金髪に水色の瞳、なかなかの美丈夫だが真面目そうな雰囲気の男性。
「ルイス卿と仰るのね。わたくしの我が儘で護衛をしていただくことになり、申し訳ございませんわ」
「とんでもございません。貴女のような美しい方にお仕えできるのならば、騎士として最高の誉れです」
にこりと笑ったアーミッドはミレールの前で跪き、胸に手を当て頭を下げていた。
「っ! こ、こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」
忠実な騎士の姿にドキッと胸が跳ねた。
(ノアもそうですが……、やはり騎士の方はとても紳士的ですわ)
エボルガー侯爵家にいたときにもミレールに騎士はついていたが、それは杏がミレールと入れ代わる前の話だ。
元々ミレールは、護身術を教えてほしいという話をしたのだが、いつの間にか護衛騎士がつく話に変わってしまった。
(近頃、よく見る夢が怖くて、自分の身は自分で守ろうとお義母さまにお願いしたのですが……。しかし、結果的に良かったのかもしれませんわ)
この先どうなるかわからないが、たしかに自分専属の騎士が常に側にいてくれることは、ミレールにとって安心材料になる。
何かあった時に守る術のない無力なミレールではどうにもならないし、ノアも務めがあるためこうした騎士の存在はありがたかった。
「まっ、たしかに。アーミッドなら大抵のヤツは敵わないから、安心といえば安心だな」
同じ騎士として実力は認めている感じはするが、そう言いながらもノアはどこか浮かない顔をしている。
何はともあれ、こうしてミレールに護衛がつくことになった。
50
お気に入りに追加
2,615
あなたにおすすめの小説
【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった
春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。
本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。
「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」
なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!?
本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。
【2023.11.28追記】
その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました!
※他サイトにも投稿しております。
悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません
青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく
でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう
この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく
そしてなぜかヒロインも姿を消していく
ほとんどエッチシーンばかりになるかも?
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる