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アルマと騎士たち

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「ノア……重くありませんの?」

「いや? なんの問題もない」

 ミレールを抱えたまま王宮の廊下をずんずん歩き、ノアは平然と答えている。
 結局のところ、こうなってしまった。
 
 幸いなことにすでに夕刻になっているからか、通りすがる人は少なかった。
 ただ、やはりすれ違う使用人や文官などは振り返り、ミレールたちを何事かと見返していた。

(この前はノアが猛スピードで医務室まで運んでくれましたが、今は違いますもの……アルマを迎えに行きましたら、すぐに帰宅しなければっ)

 はじめはノアの腕にしがみつきながらゆっくり歩を進めていたのだが、そのうちノアがしびれを切らし「こっちのほうが速い」と、いうことでこうして落ち着いた。

「あれ? ノア?」
「おっ! ノアじゃないか! それに……ミレール夫人も……?」
「オルノス卿! 夫人! 一体どうしたんですか?」
「若奥様! どうかされましたか!?」

 同僚騎士たちに続き、トムとアルマが正面から歩いて来ていた。

「ちょっとな。そこの侍女を回収しに来た」

 ノアはゆっくりミレールを廊下に下ろすと、そのまま横から腰を引き寄せ、自らに体に抱きつかせ、同僚たちと一緒にいたアルマに視線を移していた。

「っ」

 ミレールがふらつかないように支えてくれているのだろうが、こうした優しさにドキドキしてしまう。
 
「え? アルマちゃんもう、帰っちゃうの!」
「もう少し話したかったのになぁ~」
「マイクさん、ジョンソンさん、機会があったらまたお話ししましょう!」
「「うん!」」

 意気投合したのか、トムよりもこの三人のほうが和気あいあいと仲良くなっている。

「あのミレール夫人、どこか具合でも悪いんですか? 先ほどまでお元気そうだったのに……」

 脇に控えていたトムがミレールを心配して声をかけてきてくれている。
 この中で一番年下であろうトムだが、こうした気遣いは一番できているのかもしれないとミレールは密かに思った。

「……まぁな。俺はコイツと一緒にこのまま帰宅する」

「ヴィルナー卿。心配していただき、ありがとうございます」

 ノアの胸を借りながら、ミレールも笑顔でトムにお礼を述べる。

「い、いえ! あっ、先ほどまでなかったのに、なんだか首元も所々赤くなってますし……とても怠そうに見えますね。何かの病気じゃなければいいですが!」

 本気で心配してくれているトムには悪いが、ミレールは指摘されたくない部分を大声で言われ、とても気恥ずかしくていたたまれない気分になった。

 だがここで、なんとなく事態を察した同僚騎士たちが、驚きと疑うような視線をノアに向けている。

「――ノア、お前……」
「まさか……原因は、お前とか?」

 先ほどの痴態を思い出してしまったミレールは羞恥心に耐えられず、ノアの胸元に赤くなった顔を押し付けて埋めた。
 
「見るな……減る」

 ノアも片手でミレールを隠すように背後へずらし、同僚騎士たちに不機嫌そうな視線を送っていた。

「うわ、うわッ! 今の聞いたかっ!?」
「おいノア! 心の狭い男は嫌われるぞー!」

「うるさい。その心配はないな」

 しれっと言葉を吐くノアに、騎士たちは悔しそうに地団駄を踏んでいた。

「っ! ……くそッ! 羨ましすぎる……!」
「あぁ~! 俺もそんなセリフ言ってみてぇ!」
「アルマちゃん!」
「は、はい!?」

 横から突然話を振られたアルマは、驚きながら返事を返していた。

「用とかなくていいからさ、またすぐおいでよ!」
「そうだよ! アルマちゃんならいつでも歓迎だからさっ」

 必死な様子の同僚騎士たちに、アルマも戸惑いながら返事を返していた。

「わ、わかりました! 若奥様と共に、皆さんの稽古を応援しに行きますね!」

「うん、待ってるからね」
「約束だよ!」

 見た目では同僚騎士であるマイクとジョンソンと呼ばれていたこの二人は、ノアより年上に見える。
 騎士たちは女性の憧れだと思っていたが、この二人の様子からはそうでもないらしい、とミレールは思う。

 そこで騎士たちとは別れた。
 明日もまた登城することを話したら、二人とも大喜びしていた。

 ノアは呆れた様子だったが、ミレールは苦笑し、アルマは笑顔で手を振ってその場をあとにした。

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