69 / 110
事後
しおりを挟む行為も終わり、ミレールは座ったまま身なりを整えていた。
結わえてもらった髪は乱れてしまったため、一度解いてから自分で簡単に編み直した。土や汗で汚れてしまったドレスはできるだけ手で叩き、皺になった部分を手で伸ばして整えた。
(今更ながら……外でなんて、すごいことをしてしまいましたわ。途中からわたくしも夢中になってしまいましたが、王宮のこのような場所で、シテしまうなんて……! これもノアの若さ故なのでしょうか……)
体の熱も冷めて冷静になった途端、じわじわと羞恥心がわいてくる。
ノアとの行為は初めてのことが多く、経験の少ない杏にとってはとても刺激的だった。
だが戸惑いがある反面、それが返ってミレールの満たされなかった欲を満たしていることも事実だった。
すでに辺りは薄暗く、日も半分ほど落ちてしまった。
「大丈夫か?」
同じくサッと身なりを整え、立ち上がっていたノアが心配そうに手を伸ばし尋ねてきた。
「えぇ。どうにか……」
胸元のリボンを結び直し、ノアの手を取って立ち上がったが、無理な体勢で揺さぶられていたせいか、思っていた以上に足腰にきていた。
立ち上がったまま力が入らず、倒れるようにノアの胸に寄りかかってしまう。
「あっ」
「大丈夫じゃなさそうだな……」
ミレールの腰を支えるように両手で引き寄せた。
「申し訳ありません。足が、少し……」
「いや、俺が悪い。嬉しくて、調子に乗りすぎたせいだ。歩けないのなら、このまま抱えて――」
腰を引き寄せたまま屈んで抱えあげようとするノアを慌てて制止する。
「いえ! そこまでしていただかなくても大丈夫です!」
「……また、遠慮してるだろ」
動きを止められたノアは、再び体を起こしてミレールにずいっと迫る。
「っ! そ、そうではなく……こうして腕に掴まらせてもらえば歩けますわ」
ノアの腕に自分の腕を絡ませて、ぶら下がっているような状態で見上げた。
ノアは一瞬止まっていたが、ミレールの提案を否定することはなかった。
「本当か?」
本来ならこうして腕に抱きついているような状態もいただけないのだが、この前のように抱え上げて運ばれるよりはまだ体裁が保たれると自分を納得させる。
「はい。ノアは歩きづらいと思いますが……」
「俺は別に構わな――」
「ノア?」
ノアの話の途中で突然割って入るように声が聞こえた。
垣根を見るとそこには今来たばかりなのか、マクレインが立っていた。
「殿下! お戻りになられたんですね」
「あぁ。遅くなって悪かった。……夫人も、長いこと待たせてしまってすまなかったね」
「い、いえ。とんでもございませんわ」
実際はノアと濃蜜な時間を過ごしていたので、それほど長く時間を感じなかった。
「実はレイリン嬢は気分が優れないようでね……もし明日予定がなければ、また登城してもらうことは可能かな?」
「はい。わたくしはとくに問題ありませんが……」
マクレインが気にすることでもないと思うのだが、なぜかとても申し訳なさそうに話している。
「そうかい、良かったよ! ではレイリン嬢にもそう伝えておくよ」
「かしこまりましたわ。お気になさらずに」
にこりと笑ってから返事を返したが、マクレインが来たということはノアも戻らなくてはならない。
このように腕にしがみついている場合ではなかった。
「あ……、王太子殿下も戻られたので、ノアも職務に戻ってください」
「でも、歩けないんだろ?」
ノアから自分の腕を外し、ゆっくりと体を離した。立っている分には大丈夫そうだった。
「アルマを呼んでもらえれば、自分で帰れますわ。こちらで待ってますので、アルマに声だけかけてもらってもよろしいでしょうか?」
心配そうな顔で隣に立つノアに笑顔を見せる。
その様子を見ていたマクレインも気付いたのか、不思議そうな表情でミレールを見ている。
「ん? どうしたんだい? 夫人もどこか具合が悪いとか?」
「はい。俺がちょっと無茶させてしまって、自力で歩けない状態です」
わりとわかりやすくぶっちゃけているノアに、ミレールは瞠目し、顔を真っ赤に染めて声を荒らげた。
「ノ、ノアっ?! 何を……!」
ノアの言葉を瞬時に理解したのか、ミレールの状態を見たあと、ノアに呆れたような視線を送っている。
「あー……、なるほどね……。うん! ノア、君もこのまま帰っていいよ。夫人が心配だろう?」
「ありがとうございます! 殿下」
胸に手を当てて腰を折っているノアに、ミレールは拍子抜けしてしまう。
「え? あの……よろしいの、ですか……?」
「ハハハッ! 気にしなくていいよ、夫人は悪くないからね」
マクレインの笑った顔に驚きつつ、隣で姿勢を正したノアと交互に見て狼狽えている。
「では、失礼するよ」
「あっ、はい。お気遣い感謝いたしますわ」
そのままマクレインは手を上げて王宮の方へと歩いて行ってしまった。
36
お気に入りに追加
2,614
あなたにおすすめの小説
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった
春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。
本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。
「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」
なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!?
本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。
【2023.11.28追記】
その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました!
※他サイトにも投稿しております。
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
(完結)バツ2旦那様が離婚された理由は「絶倫だから」だそうです。なお、私は「不感症だから」です。
七辻ゆゆ
恋愛
ある意味とても相性がよい旦那様と再婚したら、なんだか妙に愛されています。前の奥様たちは、いったいどうしてこの方と離婚したのでしょうか?
※仲良しが多いのでR18にしましたが、そこまで過激な表現はないかもしれません。
悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません
青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく
でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう
この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく
そしてなぜかヒロインも姿を消していく
ほとんどエッチシーンばかりになるかも?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる