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事後

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 行為も終わり、ミレールは座ったまま身なりを整えていた。
 結わえてもらった髪は乱れてしまったため、一度解いてから自分で簡単に編み直した。土や汗で汚れてしまったドレスはできるだけ手で叩き、皺になった部分を手で伸ばして整えた。

(今更ながら……外でなんて、すごいことをしてしまいましたわ。途中からわたくしも夢中になってしまいましたが、王宮のこのような場所で、シテしまうなんて……! これもノアの若さ故なのでしょうか……)
 
 体の熱も冷めて冷静になった途端、じわじわと羞恥心がわいてくる。
 ノアとの行為は初めてのことが多く、経験の少ない杏にとってはとても刺激的だった。
 だが戸惑いがある反面、それが返ってミレールの満たされなかった欲を満たしていることも事実だった。
 
 すでに辺りは薄暗く、日も半分ほど落ちてしまった。

「大丈夫か?」

 同じくサッと身なりを整え、立ち上がっていたノアが心配そうに手を伸ばし尋ねてきた。

「えぇ。どうにか……」

 胸元のリボンを結び直し、ノアの手を取って立ち上がったが、無理な体勢で揺さぶられていたせいか、思っていた以上に足腰にきていた。
 立ち上がったまま力が入らず、倒れるようにノアの胸に寄りかかってしまう。

「あっ」

「大丈夫じゃなさそうだな……」

 ミレールの腰を支えるように両手で引き寄せた。

「申し訳ありません。足が、少し……」

「いや、俺が悪い。嬉しくて、調子に乗りすぎたせいだ。歩けないのなら、このまま抱えて――」

 腰を引き寄せたまま屈んで抱えあげようとするノアを慌てて制止する。

「いえ! そこまでしていただかなくても大丈夫です!」

「……また、遠慮してるだろ」

 動きを止められたノアは、再び体を起こしてミレールにずいっと迫る。

「っ! そ、そうではなく……こうして腕に掴まらせてもらえば歩けますわ」

 ノアの腕に自分の腕を絡ませて、ぶら下がっているような状態で見上げた。
 ノアは一瞬止まっていたが、ミレールの提案を否定することはなかった。

「本当か?」

 本来ならこうして腕に抱きついているような状態もいただけないのだが、この前のように抱え上げて運ばれるよりはまだ体裁が保たれると自分を納得させる。

「はい。ノアは歩きづらいと思いますが……」

「俺は別に構わな――」

「ノア?」

 ノアの話の途中で突然割って入るように声が聞こえた。
 垣根を見るとそこには今来たばかりなのか、マクレインが立っていた。

「殿下! お戻りになられたんですね」

「あぁ。遅くなって悪かった。……夫人も、長いこと待たせてしまってすまなかったね」

「い、いえ。とんでもございませんわ」

 実際はノアと濃蜜な時間を過ごしていたので、それほど長く時間を感じなかった。

「実はレイリン嬢は気分が優れないようでね……もし明日予定がなければ、また登城してもらうことは可能かな?」

「はい。わたくしはとくに問題ありませんが……」

 マクレインが気にすることでもないと思うのだが、なぜかとても申し訳なさそうに話している。

「そうかい、良かったよ! ではレイリン嬢にもそう伝えておくよ」

「かしこまりましたわ。お気になさらずに」

 にこりと笑ってから返事を返したが、マクレインが来たということはノアも戻らなくてはならない。
 このように腕にしがみついている場合ではなかった。

「あ……、王太子殿下も戻られたので、ノアも職務に戻ってください」

「でも、歩けないんだろ?」

 ノアから自分の腕を外し、ゆっくりと体を離した。立っている分には大丈夫そうだった。

「アルマを呼んでもらえれば、自分で帰れますわ。こちらで待ってますので、アルマに声だけかけてもらってもよろしいでしょうか?」

 心配そうな顔で隣に立つノアに笑顔を見せる。
 その様子を見ていたマクレインも気付いたのか、不思議そうな表情でミレールを見ている。

「ん? どうしたんだい? 夫人もどこか具合が悪いとか?」

「はい。俺がちょっと無茶させてしまって、自力で歩けない状態です」

 わりとわかりやすくぶっちゃけているノアに、ミレールは瞠目し、顔を真っ赤に染めて声を荒らげた。

「ノ、ノアっ?! 何を……!」

 ノアの言葉を瞬時に理解したのか、ミレールの状態を見たあと、ノアに呆れたような視線を送っている。

「あー……、なるほどね……。うん! ノア、君もこのまま帰っていいよ。夫人が心配だろう?」

「ありがとうございます! 殿下」

 胸に手を当てて腰を折っているノアに、ミレールは拍子抜けしてしまう。

「え? あの……よろしいの、ですか……?」

「ハハハッ! 気にしなくていいよ、夫人は悪くないからね」

 マクレインの笑った顔に驚きつつ、隣で姿勢を正したノアと交互に見て狼狽えている。

「では、失礼するよ」

「あっ、はい。お気遣い感謝いたしますわ」

 そのままマクレインは手を上げて王宮の方へと歩いて行ってしまった。

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