【R18】夫と6年間レスだった私が憑依転生したのは、大人向けweb小説の悪役令嬢でした

ウリ坊

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危機一髪

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 さすがにこのまま飛び出して行ってはお互い気まずいと思い、急いで垣根から離れると、距離を取ってから素知らぬ顔をして大きな声でレイリンの名を呼んだ。

「レイリーン? 一体どこにおりますの? いつまで経っても来ないので、迎えにまいりましたわー」

 わざと足音を立てて歩いたミレールに、木の下にいた二人は何かゴソゴソと物音をさせていた。
 おそらく急いで身支度を整えているのだろう。
 
 ゆっくりと近づいた垣根の向こうに、真っ赤な顔をしたレイリンと、にこやかに笑っているジョセフが立っていた。

「ミ、ミレールっ!」

 ジョセフから離れるとレイリンは走ってミレールに抱きついてきた。

「レイリン? どうしましたの?!」

 レイリンはミレールの胸に顔を埋めながら、首を横に振っている。
 そのか弱い体はわずかに震えていて、ミレールは自分の判断は間違ってはいなかったのだと安堵する。

「おやおや、逃げられてしまいましたね」

 ジョセフは悪びれることもなく、腰に手を当てて笑顔でレイリンを見ていた。

「あら? 貴方はディーラー小公爵様でいらっしゃいますか? ごきげんよう」

 今気づいたかのように振る舞うミレールだが、心臓はバクバクと動き、内心は動揺でいっぱいだった。

「はじめまして、優艶で美しいご令嬢。……貴女のお名前は?」

 ジョセフとは初対面ではない、元々のミレールはパーティなどで何度か会っていた、と記憶していた。
 ミレールだと気づいていないのか、今度は胸に手を当てて軽く会釈をしていた。

「残念ながら初めてではございませんわ。小公爵様はなぜこちらにおいでですの? ここは男子禁制だったと記憶しておりますが……」

 訂正しつつ、ここが入ってはいけない場所なのだと釘を刺していくが、ジョセフは全く気にする素振りもしていない。
 
「ん? もしや、貴女は……、エボルガー侯爵令嬢、ですか?」

「……えぇ、仰る通りですわ」

 にこりと優雅に笑うミレールに、ジョセフは立ち尽くしたまま驚いた顔をしてミレールの全体像を見ていた。

「ずいぶん、印象が変わりましたね……」

「わたくし、結婚いたしましたし……いい加減、落ち着いただけですわ」

 表情を曇らせ声のトーンを下げたミレールに気付いたのか、ジョセフはまた表情を柔らかなに変えている。

「あぁ、失礼。悪い意味で言ったわけではないのです。まさかここまで上品で美しく変わるなんて……! 女性とはやはり、未知なる存在ですね」

 今度はミレールに興味が移ったのか、にこやかな顔をしながら舐めるように見つめられてゾッとしてしまう。
 いくら美男子とはいえ、ジロジロと見られることには耐えられない。
 加えてミレールは既婚者だ。
 いくら節操のないジョセフでも、夫のいるミレールに興味を持つということが信じられなかった。

(はぁ……いつの時代も、男というものはどうして一人の女性に絞れないのでしょう。こうした男性を見てしまうと、嫌でも以前の夫を思い出して、吐き気がしてしまいますわっ)

 ジョセフが博愛主義なのはわかっているのだが、わかっていてもミレールはそれを許容できない。

 最終的に夫は、杏に隠れて他の女性と会っていたのだと思っている。
 だが、これはあくまで杏の予想に過ぎない。
 実際にそれを目にした訳でも、証拠となるものを抑えた訳でもない。ただ、様々なやり取りや状況がそれを物語っていた。
 日常をこなすことが精一杯で、一日が二十四時間では足りないくらい時間に追われながら、自分に余裕もなく生きていた。
 その頃の杏にはもう、調べる気力さえなかった。
 すでに夫に対する愛情はかけらもなく、残ったものは嫌悪感と失望感だけだったからだ。

 心の中で怒りに震えていたミレールに、ジョセフが近づき手を差し延べてきた。
 
「お近づきの印に、ご挨拶をしてもよろしいですか?」

 屈みながら胸に手を当ててにこやかに笑っている。
 一見、紳士な態度のジョセフだが、おそらくそれ以外の意図もあるのだろう。
 だが、断わるわけにもいかない。
 片手でレイリンを抱きしめながら反対の手を伸ばし、そして手袋をしてくればよかったと後悔していた。

「……えぇ」

 社交の場ではよく見られる挨拶。指先か手の甲へ顔を近づけ、キスをする振りだけするのが一般的だ。

 そっと伸ばされた手に、自分の手を重ねるとジョセフはぎゅっとミレールの手を握り、生々しい感触がわかるほどしっかりと唇を当ててきた。

「なっ……!」

 しかも握っていたミレールの手のひらを、自らの指先で円を描くように撫でている。 

「――っ!」

 その行為にゾワッと鳥肌が立った。
 これは男女間で、色事を誘うときにする仕草だった。
 
「ミレール!」

 ここで突然、背後から叫ぶような声が響いた。馴染みのある声の主に、ミレールはすぐ気づいた。

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